昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (五十七)の七

2013-03-30 18:45:48 | 小説
(七)

「小夜子嬢のご尊父さまに、小夜子嬢との婚姻のご了承を得たく、
本日は失礼を顧みずに……」

怪訝そうに武蔵を見る茂作翁だった。
小夜子の嫁取りについては、先日の五平によって知らされている。

外堀はおろか内堀すら埋められている。
茂作に否やの余地はない。

茂作の不機嫌な表情に、小夜子が武蔵を制して
「だからね、あたしをお嫁さんに欲しいから、
お父さんの了解が欲しいということなの。」
と、説明した。

「今さらそんなこと……。
あの加藤とか言う、ご仁に言われたわ。

わしが反対することなんぞ、ありゃせん。」
肩を落として呟くように言う。

囲炉裏の灰をいじりながら、
「てっきり、正三の嫁になると思うとっとたが。

いつ、心変わりをしたことやら。
そんな娘だとは、ついぞ思わんかった。」

ぐさりと小夜子の心を抉る言葉を、茂作が投げつけた。


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