やっとの思いで解放された彼は、「彼女に、よろしくねえ!」と言う声を背にして、由香里の元に戻った。
由香里は上機嫌だった。
「いやだあ、彼女だって。ククク、デートだって分かるんだね」
「そうだな。じゃ、出ようか」
彼としては、一刻も早くこの場を立ち去りたかった。
何かの拍子に貴子が現れるのではないのか、と気が気ではなかった。
万に一つもあり得ないことなのだが、とに角デパートから離れたかった。
「ちょっと、待って。この帽子を買うから。ワンピースにピッタリだもん。タケシさんは、どう思う?」
突然、由香里は彼の名前を呼んだ。
どうやら、"彼女"と呼ばれたことを意識したらしい。
「ああ、似合うね。それが、いいよ」
素っ気なく答えた彼に、由香里は不満げな表情を見せた。
慌てて言葉を付け足した。
「外は、陽射しも強いことだしね、かぶった方が良いだろう」
「そうよね、そうだよね」
由香里は、また上機嫌に戻った。
「ねえ、タケシさ~ん。お腹が空いちゃったあ。由香里、朝を抜いちゃったの。
もう、フラフラになりそう。食べて行こうよ、ここでえ」
一階のエントランスで、由香里が立ち止まってしまった。
彼としては一刻も早く立ち去りたいのだが、由香里は頑として動かない。
「でもさ、ずっと上まで行かなくちゃいけないよ。そうだ、向かいにマックがあるぞ。
ハンバーガーにしようか。その方が、近いじゃないか」
二人してゆっくりと食事をしたいという思いと、大勢がごった返す中で彼を見せびらかしたいと思いがせめぎ合った。
確かに、レストランでは待たされるに違いない。
十二時前とはいえ、込み合っているだろう。
〝それじゃ夕食を豪華にしょっかな。その後、軽めのお酒でもおねだりしちゃおうかな〟
以前、母親には内緒で父と共に食事をしたステーキハウスを思い出した。
思わず、含み笑いをする由香里だった。
「何だい、思いだし笑いかい?」
「うん? 何でもない。じゃ、行こう」
由香里は腕を絡ませると、彼の肩に寄り添った。
由香里は上機嫌だった。
「いやだあ、彼女だって。ククク、デートだって分かるんだね」
「そうだな。じゃ、出ようか」
彼としては、一刻も早くこの場を立ち去りたかった。
何かの拍子に貴子が現れるのではないのか、と気が気ではなかった。
万に一つもあり得ないことなのだが、とに角デパートから離れたかった。
「ちょっと、待って。この帽子を買うから。ワンピースにピッタリだもん。タケシさんは、どう思う?」
突然、由香里は彼の名前を呼んだ。
どうやら、"彼女"と呼ばれたことを意識したらしい。
「ああ、似合うね。それが、いいよ」
素っ気なく答えた彼に、由香里は不満げな表情を見せた。
慌てて言葉を付け足した。
「外は、陽射しも強いことだしね、かぶった方が良いだろう」
「そうよね、そうだよね」
由香里は、また上機嫌に戻った。
「ねえ、タケシさ~ん。お腹が空いちゃったあ。由香里、朝を抜いちゃったの。
もう、フラフラになりそう。食べて行こうよ、ここでえ」
一階のエントランスで、由香里が立ち止まってしまった。
彼としては一刻も早く立ち去りたいのだが、由香里は頑として動かない。
「でもさ、ずっと上まで行かなくちゃいけないよ。そうだ、向かいにマックがあるぞ。
ハンバーガーにしようか。その方が、近いじゃないか」
二人してゆっくりと食事をしたいという思いと、大勢がごった返す中で彼を見せびらかしたいと思いがせめぎ合った。
確かに、レストランでは待たされるに違いない。
十二時前とはいえ、込み合っているだろう。
〝それじゃ夕食を豪華にしょっかな。その後、軽めのお酒でもおねだりしちゃおうかな〟
以前、母親には内緒で父と共に食事をしたステーキハウスを思い出した。
思わず、含み笑いをする由香里だった。
「何だい、思いだし笑いかい?」
「うん? 何でもない。じゃ、行こう」
由香里は腕を絡ませると、彼の肩に寄り添った。
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