昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (七十四) 戦友

2013-12-10 19:51:26 | 小説
(三)

首を傾げる千勢には、これ以上の説明がかえって混乱させることになると考えた小夜子。
千勢の手を取って、目で訴える小夜子だ。

そして手を上下に振っているうちに、何か戦友のような思いにかられ始めた。
愛する同胞を守るべく立ち上がった戦士の如き思いであった。
そんな小夜子の熱い目に、千勢は思わず目を伏せた。

「小夜子奥さま。今日は会社に立ち寄られたのですよね。いかがでしたか、会社では」
小夜子の熱い思いに耐え切れなくなった千勢、おずおずと話題を変えた。

「それがね、もう大変だったの。歓迎会だなんて言い出してね。
仕事そっちのけで、準備したらしいの。

武蔵の許可なんか下りてるわけないわよ。
加藤専務の苦虫を噛みつぶした顔、見せてあげたかったわ。

ちょっと複雑な顔ね。叱るべきかほっとくべきかってね。
さしずめ、あれね。

to be or not to be,that's question! よね。
父親の復讐に立ち上がるべきか否かって、ハムレットが悩む時のセリフなの」

「あら、そんなのおかしいです! 
父親のフクシューで悩むなんて、なんて親不孝者でしょう。

考えるまでもなくフクシューするべきです。
そうでしょう、小夜子奥さま」

憤懣やるかたないといった表情で、切り捨てる千勢だ。
真顔の千勢に、思わず小夜子は吹き出してしまった。

“この単純さが、千勢なのよね”
笑みが自然に出た小夜子だ。


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