(吉岡一門 二)
すっくと立ち上がった清十郎は、ムサシに向かって一礼すると、静かに語りかけた。
「先ずはムサシ殿に言上したい。
先日の門人どもの非礼の段、お許し願いたい。
師範代共々に留守に致した身共の失態でござった。
血気盛んな若者ゆえの暴走とお許し願いたい」
深々と頭を下げる清十郎に対し、傲然とムサシが言い放った。
「いやいや、とんでもござらぬ。
美味な馳走でござった。
なよなよとした棒振りは、初めてのことでござれば」
「おのれえ。数々の暴言、もう我慢ならぬ」
どっとムサシに向かって門人たちが駆け寄った。
「一対一と思っていたが、やはりのことに」
せせら笑うムサシに対し、門人たちの怒りは頂点に達した。
刀に手をかける者を先導するかの如くに、篝火の松明をかざして一人が飛び出した。
「止めよ! 恥の上塗りぞ」
梶田の一喝に、渋々と後ろに下がる門人たちの背を軽く叩きながら清十郎が歩を進めた。
「先日の非礼を詫びさせるつもりが、門人たちはムサシ殿の術策にまたしてもはまったようでござるな。
梶田、勝負は時の運だ。
万が一拙者が不覚を取ったとしても、決してムサシ殿に遺恨を残してはならぬぞ。
しかと申しつけたぞ」
「やっとご当主のお出ましか。
いかがござろうか。本堂前では、いつ何どき門人の乱入がないとも限らぬ。
裏手と申したいところでござるが、それでは見物人に申し訳がない。
ここにてお相手願いたい」
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