(七)人でなしの国
そんな新一のことばに、わたしは黙した。
独善的な新一に反論はゆるされない。
一の反論に対して、十の再反論がかえってくるのが常だ。
わたしが黙りこくると、新一は満足げにうなづく。
正直のところ癪にさわるが、新一と口論してもはじまらないと、わたしがいつも矛をおさめてしまっている。
ものわかりの良いわたしが、吐きだすことばをのみこんでしまう。
おなかがいっぱいだ、ことばで。
あい反する意見のふたりのあいだに、友情というものは存在しうるのだろうか。
はたして、同一行動をとるふたりだからと、友情が存在しているのだろうか。
わたしと新一のような従ぞく的関係でも、それは友情とよばれるのだろうか。
わたしは新一が好きだ、尊敬もしている。
新一もまた、わたしが好きだと言ってくれる。
新一は言う。
「愛憎の間に、人は住んでいるのじゃないだろうか。
感情を持たない人間などいるはずがない。
もしいたとしたら、その人は超人だろう。
すべてを超越して論理的に思考する……ぞっとするね。
『超人たちの国』なんて、『人でなしの国』だろうからさ」
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