昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

心象風景 第二弾:ある時の彼 (六)

2010-05-12 19:26:48 | 小説
先ずもって、
どうしてもお話しておきたい。
決して誤解をしてもらいたくない、
ということである。
筆者は、
ある朝の偶然ともいうべき事件に遭遇した男を、
瞬可的に捉えてそれを報告しているのである。

(失礼!)

だからその時の彼にしても、
特別の感情は無かった。
いつものように揺られている。

時折、
ブラリとしている彼の手が女性のヒップに触れても、
特別の感情は湧かないし、
その女性にしても別段嫌な顔はしていなかった。
(その心中については?だが)

吊り革の手が汗ですべり女性の手に覆い被さっても、
「失礼!」と声をかけて
すぐに掴み直せば何ということはない。

が、
その女性と視線が合った瞬間、
二人の間に流れていた交響曲が止まった。
二人の間の平和な叙情詩の語らいが、
その瞬間止まってしまった。

彼の心に何かが湧いた。
彼は思わず、
吊り革から手を離した。

となると、
彼を支えるものは何もない。

ここで電車が停車・カーブ等に入ると、
彼の身柄は誰かに支えてもらうことになる。

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