(六)
「あら、なにを仰います。
こんなあたくしにお声を掛けてくださったのは、社長さまだけですわ。
相当にお遊び慣れてらっしゃるのですね。
社長さまこそ、何人の女将を口説き落とされたのでございますか?
でも後家の炎は、激しく燃えますわよ。
奥方さまのご機嫌を損ねるようなことになっても、およろしいのですか?」
さりげなく妻帯者かどうかの確認をするぬい。
少々本気が混じり始めたのかもしれない。
「うん、新婚さんだ。まだ式を挙げてから、一週間と経っていない。
新婚旅行を後回しにしての出張さ。
いや、女将に出逢わさせるための神様のいたずらか? そりゃ、冗談だけどね」
悪びれる風もなく武蔵が答えた。
「ほんとに憎らしいお方だこと。
ドンファンと言う言葉は、きっと社長さまのために遠いフランスから入ってきたのですわ」
武蔵の二の腕を軽く抓るぬい。
大仰に痛がって、ぬいの指をからめとった。
「うん、きれいな指だ。女将の指は、こうでなくちゃいかん」
手の甲をさすり始めた。
「けれどね、女将。新婚だからって、他の女性に気をとられちゃいかんという法はない。
床の間で見る美しい花があったとしても、外で見る美しい草花を愛でてはならぬという法はない。
浮気は、男の力の根源だよ。
神代の昔から己の子孫を残す行為は、連綿と続いているんだから」
「あら、なにを仰います。
こんなあたくしにお声を掛けてくださったのは、社長さまだけですわ。
相当にお遊び慣れてらっしゃるのですね。
社長さまこそ、何人の女将を口説き落とされたのでございますか?
でも後家の炎は、激しく燃えますわよ。
奥方さまのご機嫌を損ねるようなことになっても、およろしいのですか?」
さりげなく妻帯者かどうかの確認をするぬい。
少々本気が混じり始めたのかもしれない。
「うん、新婚さんだ。まだ式を挙げてから、一週間と経っていない。
新婚旅行を後回しにしての出張さ。
いや、女将に出逢わさせるための神様のいたずらか? そりゃ、冗談だけどね」
悪びれる風もなく武蔵が答えた。
「ほんとに憎らしいお方だこと。
ドンファンと言う言葉は、きっと社長さまのために遠いフランスから入ってきたのですわ」
武蔵の二の腕を軽く抓るぬい。
大仰に痛がって、ぬいの指をからめとった。
「うん、きれいな指だ。女将の指は、こうでなくちゃいかん」
手の甲をさすり始めた。
「けれどね、女将。新婚だからって、他の女性に気をとられちゃいかんという法はない。
床の間で見る美しい花があったとしても、外で見る美しい草花を愛でてはならぬという法はない。
浮気は、男の力の根源だよ。
神代の昔から己の子孫を残す行為は、連綿と続いているんだから」
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