「三羽がらすって言われてるらしいけれど、竹田はもの静かね。
でも、みんなの信頼は厚いみたい。おちゃらけがない分、落ち着いているものね。
武蔵の信頼が厚いのは、三人の中では竹田みたい。
あたしの世話係を命じられたのは、「一番ひましてるからですよ」なんて、他の二人は言ってたけれど、違うわね。
それは二人も感じてるみたいだけど。専務の次ぐらいじゃないの、信頼度は。
金銭の出し入れを、徳子さんと二人でやらせてるのかしらしても分かるわ」
「そう言えば、いちど聞いたことがあります。加藤せんむとお二人でお話して、すみません。口にしてしまいました」
「専務ってことにして。加藤という名前は、他にも厭なお家があるから」
「はい。お二人でお酒をのまれながら、旦那さまがおっしゃってました。
『俺に息子ができたとして、後を継がせたとしてだ。息子のご意見番は竹田だな。
あいつだったら安心だ、任せられる。俺に五平が居るように、息子には竹田だ。
五平、しっかり育ててくれ』と」
「ふーん。そんなことを言ってたの。竹田をねえ。
でも武蔵ったら、そんなことを専務と話してるの? いやねえ、もう。
他には、どんなことを話してるの? 女の話なんかも、してるの? 良いのよ、結婚前のことなんだから。
武蔵の女癖の悪さは、千勢、あなたより知ってるかもよ。
だって、出会いがキャバレーなんですもの。
初めは、あたしもその他大勢の中の女だったんだから」
自嘲気味に話す小夜子に対して、「とんでもありません!」と、口をとがらせて千勢が言う。
「小夜子奥さま、とんでもないです! 小夜子奥さまは、はじめから特別でしたよ。
なにせあの専務さんが口すっぱく言われてましたから。
『武さん。あの娘は特別ですって。あの娘だけは、大事に扱ってくださいな。
今はまだ原石ですが、とに角壊れやすい翡翠の玉ですからね。
そこらの女と同じように扱っちゃ、絶対に罰があたりますって。
頼みますよ、ほんとに』。それで、旦那さまがおっしゃるには、『分かってるよ、五平。
初めは半信半疑だったが、確かに小夜子は良い女になるよ。楽しみにしてるんだよ、俺は』」
「ふーん」。満更でもない風に聞き流す小夜子だが、気を許すと頬がゆるんでしまう。
千勢もまた、顔が崩れっぱなしだ。赤らんだ顔をしている。
竹田が褒められることに、嬉しさを覚える千勢だ。いつだったか、冗談混じりに武蔵が言った。
「千勢。竹田の嫁さんになるか?」
そのひと言が、今も千勢の胸の中に残っている。
ズキン! と胸の痛みが残っている。
武蔵にしてみればただの冗談で、酒の上での戯れ言にすぎない。
それが証拠に、今ではすっかり忘れてしまっている。千勢のそんな思いなぞ、とんと気付いていない。
竹田の話になると、途端に目が輝き身を乗り出してくる千勢なのだが。
小夜子が、いま気付いた。しかし小夜子には、それが不快だった。
“身の程をわきまえなさい!”と、思ってしまう。
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