昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

ごめんね…… (七)

2018-01-23 18:32:58 | 小説
小さな箱の窓から井戸の中を覗き込むものだったのだが、
「さあさあ、順番をキチンと守ってよ。
さあ見えた人はお次の方が待ってるからね。
はいはい、お行儀良くお願いしますよ」
と、せき立てられた。

水面がゆらーりゆらーりとゆるやかに揺れて、水の底に人魚姫らしき物が泳いでいるように、確かに見えはした。
その底にフィルムを映写していたのであろうが、周りが薄暗かったことも相まって、その口上の見事さに騙された。

「お父さん、見えたよ。こうやってね、ゆらりゆらりっておよいでたよ」
目を輝かせる幼い女の子が、嬉しそうに父親に話しかけている。
ところが、その後ろにいた小学生の高学年だろう男の子が
「あんなもん、うそっぱちに決まってら!」
と鼻高々に言った。

途端に
「余計なことを言うんじゃない!」
と、その子の父親に、ごつんとげんこつをもらっていた。


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