昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

ごめんね…… (六)

2018-01-16 18:49:03 | 小説
 小屋に入ってすぐに、『人魚姫』に出くわした。

「不老長寿の霊薬として珍重される人魚の肝でございます。
数多くの人魚が、心ない人々の犠牲になったのでございます。
△▽海の底深くに隠れ住んでいたこの人魚、嵐の夜に海面へと浮かび上がってまいりました。
そこへ沖から命からがら逃げ戻った漁師に捕まったのでございます。
そして今まさに肝を獲らんとしたその時、通りがかったお坊様が、無用な殺生をするでないと、その漁師を諭して助けられたのでございます。
そしてその人魚が巡り巡りまして……」

そのテープ途中で遮るようにように、赤ら顔の男が口上を述べ始めた。
私としては如何にしてこの小屋に来たのか知りたかったのだけれど、ギロリと睨まれて、口をつぐまされてしまった。

「さあさあ、お兄ちゃんお嬢ちゃんたち。
どうぞ静かに見てちょうだいな。
大きな声を出しては人魚姫さまが驚いてしまい、横の穴にお隠れになるかもしれないよ。

あゝ、だめだめ。大人にはね、見えないのよ。
信じる者は救われる。
ねえ、彼(か)のキリスト様もおっしゃってる。
残念ですが、大人には見えません。
純真な子どもだからこそ、人魚姫さまがお出ましになるのですよ」


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