昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (二) 初めてなの? こういう経験は

2014-10-01 09:22:55 | 小説
井上とミドリはホールの中央でダンスに興じ始めた。
ゆったりとしたバラード音楽の流れる中、ピッタリと寄り添っている。
次々とカップルがダンスに興じ始め、ボックスに座っているのは彼とユミだけになった。
悪戯っぽく笑うユミの目が、妖艶さを増した。

「ねえ、タケシ。初めてなの? こういう経験は」
と、彼の耳元で囁く。
彼はその異様な雰囲気に呑まれ、口の中がカラカラになってきた。言葉がかすれ、声にならない。

「うふふ。もう少しビールを飲みなさい。」
口移しに流し込まれるビールは、彼から思考能力を徐々に奪っていった。
ユミは彼の膝の上に体を乗せると、彼の両手を腰に回させた。
「今夜のお姉さんは、あなたの恋人よ。」
と、唇をゆっくりと彼の唇に重ねた。朦朧とする意識の中で、彼は麗子を思い浮かべていた。

「さよなら…」
麗子の声が、彼の頭の中に鳴り響いた。
「待って、待って、麗子さん」
必死に両手を差し出して、麗子を捕まえようとした。捕まえたと思った瞬間には、麗子はひらりと体をかわしている。幾度繰り返したろうか、その度に麗子は遠のいて行った。

「麗子さん。麗子さん」
「終わりなの、もう終わりなの…」
悲しげだった麗子の顔が、次第に冷笑を帯びてくる。

「くっくくく…」
と、冷たい笑い声が洩れた。
「女を知らない貴方に、私が捕まえられる筈がないでしょ」
「麗子さん、麗子さん」

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最近時々ですが、レビュー数が1,000を越えるときがあります。
昨日も1,147となっていました。
新しくお出で頂いた方がいらっしゃるのでしょうか。
嬉しい限りです。どうぞ、末永くお付き合いください。


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