長編恋愛小説 ～ふたまわり・第一部～（八）の七

「それでですのぉ、
今どこで興行を打ちよるか、
ご存知ですかのぉ？」
「うーん・・どこかいのぉ・・」
「わしらにゃ、分からんでぇ。」
「場所が分からんでは、
どうしょうも・・・のぉ？」
「うん、うん。
芝居一座は、あちこち行きよるでのぉ。」
「で？誰の子じゃ？
やっぱり、あの役者かい？」
「そうです、あの、
慶次郎とか言うニヤケた役者ですわ。」
茂作が吐き捨てるように言ったところへ、
奥から澄江が出てきた。

「お父さん、おはよう。
あ、世話役の方々、
この度はご心配かけてすみませんでした。」
「おぅおぅ、元気そうで何よりじゃ。」
「ぐっすり眠れたみたいじゃのぉ。」
「やっぱり、茂作さぁの傍が一番じゃろ？」
「はい。
もうぐっすり、眠りました。
今、お茶の用意しますんで。」
「おぉ、そうしてくれ。
気がつかなんだわ。」