長編恋愛小説 ～ふたまわり・第一部～（八）の六

「ごめんね、ごめんね、
お父さん、ごめんね。
心配ばかりかけて、
悪い子だね、澄江は。」
ボロボロと大粒の涙をこぼす澄江を見て、
強く言い過ぎたかと気になった。
“いかん、いかん。
また澄江が家出してしまう。
優しくしてやらねば。
澄江は悪くないんじゃ。
悪いのは男のほうじゃ。”
「もう休め、
わしも休む。
澄江が悪いんじゃない。
のぉ、
澄江は悪くないぞ。
さぁ、寝よう。」
「一緒の部屋でいい？
小っちゃい時みたいに、
お布団並べていい？」
「もちろんだとも。
そうしよう、
そうしような。」

翌日、
澄江の帰宅を聞きつけた世話役連が、
おっとり刀でやってきた。
「澄江ちゃん、
無事だったか。
良かった、良かった。」
「芝居一座に居たとな？
嘘をつかれたのか。」
「ところで茂作さぁ、
えらくご立腹ちゅうことじゃが、
何があった？」
「どうもこうもないですわ。
澄江が孕んだからちゅうて、
追い出されたらしいですわ。
わし、
直談判に行って来ますで。」
「そりゃ、ほんとかい？
許せんのぉ、
そりゃあ。」
一様に憤慨してみせる世話役連だが、
目は笑っていた。