昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

ブルー・じゃあず ~二十歳の詩(うた)~ (六)

2010-03-30 21:18:02 | 小説
そのステレオの上の壁には、
その艶やかな肌に深くナイフの傷跡を残し、
それでも穏やかな表情の能面があった。

しかし穏やかに微笑んでいるその能面に、
どこか冷たさを見ては背筋に氷の入る思いをするのは、
一度や二度ではなかった。

今は亡き母にも似たその面は、
生きている人間の意志など無視しがちな或種の威厳を感じさせ、
部屋全体に重くのしかかっていた。

その他には、
ぐるりと見回しても、
とりたてて言う程のものはない。

強いて言うなら、
紺に彩られた扉がある。

そしてその紺の中に一つ、
鈍く光るドアノブだけが、
アンバランスだった。

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