(十六)
親元を離れての集団就職だと聞いた。
声の小さな娘で、まるで内緒話をしているように見えてしまう。
何でも青森出身らしい。
多分、例の方言で散々からかわれたのだろう。
前の職場では人間関係がうまくいかず、学校の斡旋でこの会社に入ってきた筈だ。
とにかく万事において控えめで、出しゃばるということを知らない。
女子は、こうでなくっちゃ。
会社の寮に入っていたらしいが、今は社長宅で寝泊まりしている。
で、社長の娘であるこの事務員が、お姉さん代わりに何やかやと世話を焼いているというわけだ。
その社長令嬢に対して、俺はため口を利いている。
他の者は、結構敬語を使っているけれども。
皆が皆、俺を変人扱いしている。
「仮にも社長令嬢だよ。
それに年上なんだから、そんな口の利き方はどうかと思うよ。」
例の彼が、ありがたくもお節介に忠告してくれるけれども、そうなると反骨心がムラムラと湧いてくるのだ。
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