昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

鼠小僧次郎吉 ~さると猿回し~ 二十八

2010-09-12 21:20:51 | 小説
次郎吉は、
そんな稲葉小僧という盗人とは異なり、
盗んだ金子等を知人に預けたり、
又隠したりということはしなかった。

そしてなにより、
町家を襲ったりはしなかった。
そのことが、
江戸っ子の人気を博した所以でもあった。

逃亡中に落とした一両小判が、
たまたま貧乏長屋の前であったことから、
「盗んだ金子を貧乏人にバラまく」という噂になったことも、
人気に拍車をかけた。

しかし実の所、
次郎吉も、
町家に一度だけ入り込んだことがある。

七十両を盗んだ迄は良かったが、
その後
「店を閉めてしまった」と聞き、
わざわざ再度忍び込んで、
金子を返したのである。

ある意味、
お人好しの盗人ではある。

もっとも、
町家を敬遠するのには、
大きな理由があった。

大店では生命よりもお金を大事にする習慣から戸締まりも厳重で、
入ることはおろか出ることすら難しい故でもあった。

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