真理子は車を小一時間近く走らせて、高速道路のインターチェンジ近くのラブホテルに着いた。
敷地内の砂利道に入った折りに、車の揺れと音に”起きちゃうかな?”と不安な気持ちが湧いてきた。
”やっぱり、このまま帰ろうか”
”うぅん、だめ。真理子、頑張れ! 最初で最後のチャンスなんだから”
踏ん切りをつけたつもりでいたが、逡巡の気持ちは消えてはいなかった。
「ミタライ君、着いたわよ」
彼は、深い眠りについてた。肩を揺すってみるが、何の反応も示さない。
駐車場内の灯りで、車内は明るい。
彼の寝顔を少しの間見つめていたが、うっすらと開かれた口元が真理子の視線を釘付けにした。
思い切って、そっと唇を重ねた。
すぐに離れたが、彼の眠りが覚めることはなかった。
”シンデレラはこれで目を覚ますのに”
真理子の心に、彼に対する恨みがましい思いが芽生えた。
「ミタライ君、起きて!」
強い口調と共に、大きく肩を揺すってみた。
「着いたのか。ごめん、ごめん」
彼は大きく背伸びをしながら、まだぼんやりとした表情を見せていた。
真理子に急かされて車外に出たものの、少しふらついた。
「大丈夫? 肩を貸してあげる」
真理子はすぐさま彼の肩の下に滑り込むと、フロントに向かった。
まごつく真理子に対し、カウンター内の女性が簡単な説明をしてくれた。
彼はまだボーッとした頭で、真理子の肩に寄りかかっていた。
「すみません、連れが酔ってて。とに角、横にさせたいんです」
消え入るような声で、真理子は勧められる部屋に急いだ。
鍵穴にキーを差し込むのももどかしく、部屋に入った。
薄暗かった廊下に比べ、室内は眩いばかりだった。
オレンジ系で統一された壁には、たくさんの灯りがあった。
中央にベッドがあり、ソファが壁際に設置されていた。
真理子は彼をベッドに横たえると、ソファに崩れるように座り込んだ。
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