長編恋愛小説 ～水たまりの中の青空・第一部～（一） しつこい人は、嫌いになることよ

彼には、麗子の真意がどうしてもわからなかった。
“僕をどうしたいのだろう？”

別れた後に、自問自答する彼だった。確かに、いつも再会の約束はなかった。
「会いたいときに逢う。それじゃだめ？」

そんな麗子の言葉に不満を持ちつつも、
「しつこい人は、嫌いになることよ」
と、言葉を付け足す麗子の前で、彼はしおれてしまう。

悄然とした様で寮に戻った彼を迎えたのは、それまで挨拶すらまともに交さなかった寮生たちだった。
ガラスの引き戸を開けた途端、奇声の混じった歓声が彼を襲った。

「ウォー！」
「ヒュー、ヒュー！」
「お帰りいぃ！」

思わず立ちすくんだ彼に対し、誰彼となく手を差し伸べてきた。
「この手がな…」
「どこまで行ったの？　Ａ？　Ｂ？」
「いくらなんでも、Ｃはないよな」

中でも手荒い歓迎をしたのは、この寮のボス的存在である三回生の佐久間だった。
彼の首に手を回し、プロレス技のヘッドロックをかけてきた。

「痛い、イタイ、です！　止めてくださいよ」
懇願する彼に対し、佐久間は手を緩めることなく
「正直に、言ったんサィ。そしたら、外してあげるヨン」
と、彼の耳元で囁いた。

「分かりました、分かりました。話しますから外してください」