昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~(一) 白日夢の如き妄想から、我に返った

2014-09-08 08:48:06 | 小説
(七)

麗子が突然立ち上がった。彼は、ハッと我に返った。白日夢の如き妄想から、我に返った。
“本当に手を握っていたのだろうか?”
判然としないまま、彼も又立ち上がった。
虚脱感に襲われつつ、令嬢の後に、さながら夢遊病者の如くに付き従った。

外は、いつか雪がちらついていた。
「あら、雪ですわ。素敵ね、雪の降る中を歩けるなんて」
麗子は、無邪気にはしゃいだ。手を掲げながら、手の平にふわりと落ちてくる雪を楽しんでいた。
しかし彼には、館内の事が頭から離れずにいた。

“あれは、妄想だったのか?”
「ねえ、『ひまわり』どう思いまして?」
「はい、感動しました」
「フフフ。嘘でしょ? 見ていなかったでしょ。
私の手を握ろうか、どうしょうか、とずっと見ていたでしょ? フフフ…」

「えっ?!」
一瞬、彼は絶句した。そして次の言葉を考える間もなく、令嬢の手が差し伸べられた。
「今夜は楽しかったわ。それじゃ、これで。ブォーボワール!」
握手を求める麗子の指は、細くそして冷たかった。


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