季節は春。阿佐ヶ谷のアパートで、弱った西子を見ながら窓を開ける。
「だいぶ暖かくなってきたね。気持ちいいだろう」
そう声をかけると、弱っていたはずの西子がはじかれたように窓の外に飛び出す。
「西子、ダメ!」
僕の声に立ち止まって、一瞬振り返るが、そのまま戸外へ――
慌てて外を見るが、そこには影も形もない。まるで風のように消える西子…。
保護した当初、僕は西子との最後をこんなふうに夢想していた。だいぶ違う別れになった。
これまで飼っていた猫は自由に外に出られるようにしていた。このため、弱ると姿を消していたので、猫が自宅で死ぬことはイメージできなかったのかもしれない。
西子も亡くなる前日まで、猫ベッドから這い出ようとしていた。野性味の欠けらもない猫だったが、ちょっぴり本能が働いたのかもしれない。
西子が亡くなる前日、家の中に人がいなくなる時間が長くなるので、誰もいない間にもしものことがあったら…と考えて病院で預かっていただいた。何かあったら、すぐに連絡するということで、携帯電話の番号を伝えた。すごく心配をしていたら、地下鉄のホームで西子の鳴き声が聞こえたような気がした。
「心配しないで、行ってきなさい」だったのか、「早く帰ってきて」だったのか…。どちらかはわからない。わからないけど、西子の「あおーん」が聞こえたような気がした。
西子が逝ってからもうすぐ2週間。キジロウは西子の体調が悪くなってからというもの、布団の上でう○ちをするようになった。最近、少しずつトイレでするようになったが「僕がいるのにいつまで西子さんのことばっかり気にして…」というキジロウなりの抗議のような気もする。
西子が亡くなったことを、数名の方のブログにコメントした。実は「3つのありがとう」を載せて数日したら、ブログを閉じようと思っていた。久しぶりに、覗きに来たらブログなくなっていたというのでは、あまりにも失礼だと思ったのだ。
でも、予想以上に多くの方が来ていただき、西子を悼んでくださった。しかも、どうやら多くの方々が、過去の記事まで読んでくださっているようだ。こうなると、簡単に閉じるわけにもいかなくなった。
こうした多くの人たちが、僕を西子との思い出をたどる小旅行に向かわせたような気がする。
感謝です。ありがとうございます。
お陰さまでバタバタした生活で、いろんなことが起きているので、ストレスが溜まっている。いつまでも落ち込んでいたら西子に申し訳が立たない。
西子はきっと見守ってくれている。精一杯生きる、一日を積み重ねていこう。
でも、すみません。ちょっとお休みします。