‘艱難辛苦汝を珠にせん’と言うが

　40年前は福岡の店で修行中だったのだが、修行先の店は以前も記
したようにムチャな事を言うお客さんが度々いた。

　その中に韓国系の短髪のお客さんがいて中国や韓国系の方々は脂
っこい物を好んで食べるからか、パーマがかかりづらく白髪染めも
染まりにくい特徴があったのだが真っ黒に染めないと嫌がるのだ。

　そのお客さん＝Yさんは、染めても1週間足らずで白髪が出るから
しっかり染めろと必ず言うものの、スタイルは短髪で特にサイドや
後に0,5㎜のバリカンを入れるのですぐに伸びてくるし伸びて来る毛
は白髪だから仕方ないのだがいくら説明しても聞く耳を持たない。

　Yさんは師匠が必ずカットし染めるのは同部屋の先輩Nさんだった
が、そのNさんが前年限りで辞めており私が担当になっていた。

　最初は店の一番真っ黒に染まる薬剤を使っていたが飽き足りずに
自分で薬剤を持参し始め、それは‘この薬剤は15分以内に流さないと
地肌を害します’というシロモノ。

　Yさんは店の薬剤を使っていた頃から通常15分置くところを30分
置かせていたのだが、自身が持参した薬剤も30分置かせるので‘時
間内で流さないと地肌に附着して落ちなくなる’と言うと‘地肌が黒
くなってもいいから’と言う。

　そのわりに30分置いてから一旦荒流しして起こすと当然ながら
地肌は真っ黒なのだが、それを見たYさん‘全然落ちてない、しっ
かり落とさんか’と文句を言うのだ。

　そのYさん2カ月3回の割合で来店してくれるのだが案の定、それ
だけ短いインターバルで染め続けていたら地肌が荒れ始め湿疹など
もでき始めており痒がっていた。

　それでも染め続けていたYさんだが、かかりつけの皮膚科から遂
にドクターストップがかかったのだった。