2月6日吉祥寺オデオンで、映画「マクベス」を見た(演出:マックス・ウェブスター)。
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2024年1月に英国のドンマー・ウェアハウスという劇場で上演されたものを、特別にライブ撮影したもの。
舞台は白く四角い。中央に小さなガラスの器。水が入っている。
そこに血がしたたって・・マクベス(デヴィッド・テナント)登場。ランニング姿。顔も両手も血だらけ。
この器の水に布を浸し、それで両手を洗い、布を絞って次に顔をふく。
その間、声が聞こえる。
声は、マクベスの戦場での勇猛な戦いぶりについて語る。
バンクォー来る。
魔女たちの声が響く。最初は声のみ聞こえる。
その後、いろんな人が魔女のセリフを言う。
夫の手紙を読むマクベス夫人(クシュ・ジャンボ)は白いドレス姿。
ダンカン王を招いた日。宴会で、ケルト風のにぎやかな音楽が流れ、みなが楽しげに踊る。
時々マクベス夫妻も中央で踊る。
二人は目を見かわし、その内心を確認し合っている様子。
その夜、王を殺したマクベスは両手に短剣を1本ずつ持って部屋から出て来る。
これを見た夫人が、あわてて取り上げて部屋に引き返す(従者たちに罪を着せるため)のだが、普通短剣は1本のはず。
なぜ2本?
2幕3場の門番のシーンが長い!
この男は酔っぱらって寝ているところを、城門をドンドン叩く音に起こされて文句たらたら登場し、下品な言葉をべらべらとしゃべる。
言わば庶民代表のような男。
ここにアドリブを入れるのは普通だが、それにしても観客をいじったり巻き込んだりしてダラダラと長い。
でもお客には結構受けていた。
その後、従者たちと逃亡した王子たちに罪をなすりつけて、マクベスは思惑通り次の王となる。
普通カットするところを原作通りにしっかりやってくれるので、初めて耳にするセリフもあった。
3幕1場で、マクベスが暗殺者2人に「犬にもいろいろある・・」としつこく?語る箇所など。
デイリーテレグラフの評に「まるでマクベスを初めて観たかのような感覚に襲われる」とあるのも無理からぬことだ、と可笑しくなった。
3幕4場、臣下たちを招いての宴会で、主賓として客をもてなすべき国王マクベスは、暗殺させたバンクォーの亡霊に慄き、喚きちらし、
その場をすっかり白けさせてしまう。夫人の機転で宴会を中断し、客たちを帰した後、マクベスは「俺たちはまだ青いな」と
自嘲気味に言って夫人に手を差し出すが、彼女はその手を無視して去る!
4幕2場。マクベス夫人はマクダフの奥方と友達!
悲劇の直前、ファイフの城に来てマクダフ夫人を抱きしめる。
夫人の子にも「可愛い子」と微笑んで頭を撫でる。
もちろん原作にそんなシーンはない。
何と大胆な!
だがこれはなかなかいいアイディアだと思う。
だって、マクベス夫人がこの後狂うのは、マクダフ夫人とその幼い子供たちがマクベスの命令で暗殺されたことが一番の原因だからだ。
顔見知りというだけでも辛いのに、親しい間柄だったらなおのこと、耐えられない苦しみだろう。
イングランドに逃げた王子マルカムは、やって来たマクダフを最初信じることができず、いろいろ露悪を(嘘八百)並べ立てるが、そこは全部カット。
5幕1場。
医者は侍女から、マクベス夫人が夜な夜な城内を夢遊病者のように歩き回っていると聞く。
すると、そこに夫人が現れ、侍女の言う通りに歩き回り、手を洗う真似をし、決して人に聞かれてはならぬことをつぶやく。
ここは非常に重要な場面なので、今回しっかり描かれていて嬉しかった。
(たまにこの二人をカットする演出家がいて腹立たしい。例えば2016年に見たジャスティン・カーゼル監督の映画「マクベス」など。)
最後にロウソクを掲げて舞台奥を横切る夫人は、こちら(マクベスのいる方)を見て少し微笑む。
これが彼女の最後の登場シーン。
部下が夫人の死を告げると、マクベスは愕然とする。その顔が痛々しい。
ラスト、マクベスはマクダフの剣を奪い、両手に1本ずつ剣を持つが、マクダフが「俺は母の胎から・・」と言うと、力を失い、
剣を2本共投げ出す。その後、思い直して素手で戦おうとするが、マクダフは短剣を持っていて、すぐに腹を刺し、マクベスは倒れる。
王子マルカムが現れると、マクダフは「王、万歳!」「マクベスを殺しました」と告げる。
舞台中央に横たわるマクベスの体からじわじわと血が流れ、床に赤い血の色が広がってゆく。
~~~~~~~ ~~~~~~~
2010年6月にテレビで、デヴィッド・テナントが「ハムレット」の主役を演じるのを見た。
当時、英国のテレビドラマで大人気だった彼は、この舞台でも高い評価を受けていた。
その時の演出にはいささか不満があったが、テナントは、演技はもちろん、英語の発音も素晴らしかった。
今回の舞台も、ロンドン現地では完売なので、映画館でしか見られないという。
バブルの頃はしょっちゅう来日してくれていた英国の劇団も、最近はさっぱり来なくなったので、映画用に撮影してくれて有難い。
主役の二人の演技が、とにかく素晴らしい。
演出も好感が持てるものだったし、音楽もよかった。
魔女たちの会話は大幅にカット。
2時間足らずで疾走する「マクベス」だった。
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2024年1月に英国のドンマー・ウェアハウスという劇場で上演されたものを、特別にライブ撮影したもの。
舞台は白く四角い。中央に小さなガラスの器。水が入っている。
そこに血がしたたって・・マクベス(デヴィッド・テナント)登場。ランニング姿。顔も両手も血だらけ。
この器の水に布を浸し、それで両手を洗い、布を絞って次に顔をふく。
その間、声が聞こえる。
声は、マクベスの戦場での勇猛な戦いぶりについて語る。
バンクォー来る。
魔女たちの声が響く。最初は声のみ聞こえる。
その後、いろんな人が魔女のセリフを言う。
夫の手紙を読むマクベス夫人(クシュ・ジャンボ)は白いドレス姿。
ダンカン王を招いた日。宴会で、ケルト風のにぎやかな音楽が流れ、みなが楽しげに踊る。
時々マクベス夫妻も中央で踊る。
二人は目を見かわし、その内心を確認し合っている様子。
その夜、王を殺したマクベスは両手に短剣を1本ずつ持って部屋から出て来る。
これを見た夫人が、あわてて取り上げて部屋に引き返す(従者たちに罪を着せるため)のだが、普通短剣は1本のはず。
なぜ2本?
2幕3場の門番のシーンが長い!
この男は酔っぱらって寝ているところを、城門をドンドン叩く音に起こされて文句たらたら登場し、下品な言葉をべらべらとしゃべる。
言わば庶民代表のような男。
ここにアドリブを入れるのは普通だが、それにしても観客をいじったり巻き込んだりしてダラダラと長い。
でもお客には結構受けていた。
その後、従者たちと逃亡した王子たちに罪をなすりつけて、マクベスは思惑通り次の王となる。
普通カットするところを原作通りにしっかりやってくれるので、初めて耳にするセリフもあった。
3幕1場で、マクベスが暗殺者2人に「犬にもいろいろある・・」としつこく?語る箇所など。
デイリーテレグラフの評に「まるでマクベスを初めて観たかのような感覚に襲われる」とあるのも無理からぬことだ、と可笑しくなった。
3幕4場、臣下たちを招いての宴会で、主賓として客をもてなすべき国王マクベスは、暗殺させたバンクォーの亡霊に慄き、喚きちらし、
その場をすっかり白けさせてしまう。夫人の機転で宴会を中断し、客たちを帰した後、マクベスは「俺たちはまだ青いな」と
自嘲気味に言って夫人に手を差し出すが、彼女はその手を無視して去る!
4幕2場。マクベス夫人はマクダフの奥方と友達!
悲劇の直前、ファイフの城に来てマクダフ夫人を抱きしめる。
夫人の子にも「可愛い子」と微笑んで頭を撫でる。
もちろん原作にそんなシーンはない。
何と大胆な!
だがこれはなかなかいいアイディアだと思う。
だって、マクベス夫人がこの後狂うのは、マクダフ夫人とその幼い子供たちがマクベスの命令で暗殺されたことが一番の原因だからだ。
顔見知りというだけでも辛いのに、親しい間柄だったらなおのこと、耐えられない苦しみだろう。
イングランドに逃げた王子マルカムは、やって来たマクダフを最初信じることができず、いろいろ露悪を(嘘八百)並べ立てるが、そこは全部カット。
5幕1場。
医者は侍女から、マクベス夫人が夜な夜な城内を夢遊病者のように歩き回っていると聞く。
すると、そこに夫人が現れ、侍女の言う通りに歩き回り、手を洗う真似をし、決して人に聞かれてはならぬことをつぶやく。
ここは非常に重要な場面なので、今回しっかり描かれていて嬉しかった。
(たまにこの二人をカットする演出家がいて腹立たしい。例えば2016年に見たジャスティン・カーゼル監督の映画「マクベス」など。)
最後にロウソクを掲げて舞台奥を横切る夫人は、こちら(マクベスのいる方)を見て少し微笑む。
これが彼女の最後の登場シーン。
部下が夫人の死を告げると、マクベスは愕然とする。その顔が痛々しい。
ラスト、マクベスはマクダフの剣を奪い、両手に1本ずつ剣を持つが、マクダフが「俺は母の胎から・・」と言うと、力を失い、
剣を2本共投げ出す。その後、思い直して素手で戦おうとするが、マクダフは短剣を持っていて、すぐに腹を刺し、マクベスは倒れる。
王子マルカムが現れると、マクダフは「王、万歳!」「マクベスを殺しました」と告げる。
舞台中央に横たわるマクベスの体からじわじわと血が流れ、床に赤い血の色が広がってゆく。
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2010年6月にテレビで、デヴィッド・テナントが「ハムレット」の主役を演じるのを見た。
当時、英国のテレビドラマで大人気だった彼は、この舞台でも高い評価を受けていた。
その時の演出にはいささか不満があったが、テナントは、演技はもちろん、英語の発音も素晴らしかった。
今回の舞台も、ロンドン現地では完売なので、映画館でしか見られないという。
バブルの頃はしょっちゅう来日してくれていた英国の劇団も、最近はさっぱり来なくなったので、映画用に撮影してくれて有難い。
主役の二人の演技が、とにかく素晴らしい。
演出も好感が持てるものだったし、音楽もよかった。
魔女たちの会話は大幅にカット。
2時間足らずで疾走する「マクベス」だった。