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ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「トロイ戦争は終わらない」

2017-11-09 23:22:01 | 芝居
10月6日新国王劇場中劇場で、ジャン・ジロドゥ作「トロイ戦争は終わらない」を見た(演出:栗山民也、翻訳:岩切正一郎)。

新国立劇場開場20周年記念公演。

ようやく平和が訪れたトロイの国。長年にわたる戦争を終焉に導いた英雄、トロイの王子エクトールは、妻アンドロマックの元へ帰還し平安を喜ぶ。
しかしエクトールの弟パリスはギリシャの王妃である絶世の美女エレーヌに魅了され、彼女をトロイへ誘拐してしまう。ギリシャ王メネラスは
激怒し、「エレーヌを帰すか、ギリシャ連合軍と戦うか」とトロイに迫るのだった・・・。

舞台下手で電気ヴィオラの生演奏。ヴィオラながら時々尺八のような音も。音楽が題材に合っていて素晴らしい(音楽・演奏:金子飛鳥)。
翻訳が気が利いててうまい。

フランス人がフランス語で書いた作品なので、登場人物の名前が少し聴き慣れない。普段シェイクスピアなどに出てくるヘクトルはエクトール、
ヘレナはエレーヌ、という具合。

ここではパリスだけでなくトロイ中の男たちがエレーヌに夢中になっているというのが面白い。
だから老王でさえ彼女をギリシャに帰すことを渋る。和平への道は極めて困難だ。

十分観客の想像を掻き立てておいて、ついにエレーヌ(一路真輝)登場。
白い衣装の一路真輝は、優雅な身のこなしと語り口がえも言われぬほど魅惑的。声も甘美で素晴らしい。
この役は他の作品にも登場するので何度か舞台で見てきたが、これまでたいてい失望してきたので、今回も期待しないように防衛態勢を取って
いたが、その必要はなかった。
とにかく圧倒された。
このエレーヌという女はギリシャの王妃ではあるが、言わば「あばずれ」体質。夫メネラスと知り合う前にも後にも男たちと関係を持ち、男との
交わりは石鹸や軽石で体中をこするようなもの、とのたまう。

エクトールがエレーヌをお返しする、と言うと、ギリシャ側の使者は、さらわれる前と同じエレーヌを返してほしい、パリスとの間に何もなかった
のか?と聞く。そんなことがあるわけないことは十分承知しているはずなのに。
それに対してパリスとエレーヌは、二人の間に何もなかった、と何とか口裏を合わせるが、それを聞いたギリシャ側は、今度はトロイの男は不能、
と言い出す。それを聞いていた民衆が騒ぎ出し、パリスたちと同じ船でギリシャから帰国した水夫たちが、二人が夜も昼も体を重ねていた、
と口々に証言する。男たちのプライドを傷つけてしまったのだ。これがおかしい。
戦争を避ける方が大事か、でもそのために男としてのプライドを捨てることができるか。

主役エクトールを演じる鈴木亮平は力が入り過ぎ。大変なセリフの量だが、終始、同じ調子ではあまりに単調でつまらない。メリハリを効かせて
もらわないと。

トロイの王妃役の三田和代、幾何学者役の花王おさむ、王の側近の詩人役の大鷹明良、いずれも期待通り楽しませてくれる。
ギリシャの将軍オデュッセウス役の谷田歩も好演。
カサンドラ役の人は一本調子で、しかも女予言者という役柄をよく理解していないように思われる。

エクトールは何とか戦争を防ごうと一人で戦う。その誠実真摯な姿に敵将エイジャックスもオデュッセウスもついには折れて味方になって
しまう。ところが、これでもう大丈夫かと安堵したのも束の間、一番大きな敵は味方トロイの中にいたのだった。
味方(の愛国心、プライド)をどう扱うかが、忘れてはならぬ、むしろ一番肝心なことだった。

作者ジャン・ジロドゥは小説家、劇作家であると同時にフランス外務省高官としても活躍した由。
この作品はナチスドイツが台頭し、第二次世界大戦の影が忍び寄る1935年に発表された。
それを考えると、この圧倒的な迫力にも納得がいく。
ここで扱われている問題は実に普遍的であり、人間を見つめる透徹した眼差しが素晴らしい。
いい作品に出会えたことを感謝します。

コメント
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