5月9日新国立劇場小劇場で、ケネス・ロナーガン作「ロビー・ヒーロー」を見た(演出:桑原裕子、5月22日まで)。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4b/d8/6ab4c56904fd3ac5a5a903381c7c6486.jpg)
映画「マンチェスター・バイ・ザ・シー」の脚本でアカデミー賞を受賞したケネス・ロナーガンの作品。2001年初演。
日本初演。
マンハッタンにある高層マンションのロビー。警備員ジェフは、人生の目的もなく働いている。見回りに来る警察官ビルは、相棒である見習いのドーンと
いい仲のようだ。殺人嫌疑を受けた弟のアリバイを偽証した、ジェフの上司ウィリアム。それに対して、何をすべきか悩むジェフがとった行動とは・・・(チラシより)。
ネタバレあります。注意!
舞台はマンションのロビーと、その正面玄関のドアの外。回り舞台の使い方がいい。
冒頭のジェフ(中村蒼)とウィリアム(板橋駿谷)の会話が、見事な導入となっていて、二人の性格と互いの関係がくっきりと描かれる。
見習い警官である若い女性ドーン(岡本玲)は、経験豊富で頼もしいビル(瑞木健太郎)を尊敬し慕っているが、彼は妻子持ちで、しかもある意味、危険人物だった。
ドーン自身も問題がないとは言えない。
と言うか、この芝居に登場する4人はみな、それぞれ問題を抱えている。
一番まともなのはウィリアムだが、彼にしたって、人を見る目がなかったために、ひどい目に合うことになる。
ジェフは善良だが、おしゃべりで軽薄。
ドーンは個人的な恨みを晴らすチャンスとばかりに、ジェフから聞いたことを利用する。
だがこの一件で、ジェフは初めて人生について、少し真面目に考えるようになったとも言える。
彼にとって、上司のウィリアムは自分に目をかけてくれる数少ない大事な人だったのに、その人を苦しめ困らせるようなことをしてしまった、と後悔の念に駆られる。
ラストでジェフは考える、自分の父なら必ず真実を話すだろうと。だがもう一つ別の光景も浮かぶ。父なら力を尽くして友人をかばって偽証するだろう、と。
米国の若者は父親への尊敬の念が強い。それはもう半端ない。日本とは比べものにならない。
そのことを考慮する必要がある。
だから米国の若者は、人生で道に迷った時に、自分の父ならどうするだろうか、とすぐに考えるのかも知れない。
ウィリアムと弟はどうも黒人らしい。
だから、ニューヨークに実際にある黒人への偏見と差別を考えると、弟をできる限りかばってやった方がいいのかも知れない。
同じ罪を犯しても、黒人だと簡単に死刑にされるかも知れないのだから。しかも時代は今から20年前だし。
米国での上演の際には、ウィリアム役は当然黒人俳優が演じるのだろう。
だから観客にはその辺のところがすぐにわかるはずだが、日本で上演する場合、まさか昔の「オセロー」上演時のように顔を黒塗りするわけにもいかない。
しかも困ったことに、セリフには彼ら兄弟が黒人だということについて、ほんの一か所、ほのめかす程度にしか出てこない。
だから、その点が、観客にはっきり伝わらない。
現に、同行した私の連れ合いは、わかっていなかった。
セリフを変えるわけにもいかないし、黒塗りするわけにもいかないし、難しい問題だ。
いや、ひょっとしたら今回、演出家は黒塗りさせようかと迷ったのかも知れない。
戯曲は丁寧で自然な流れで、観客の集中力を途切れさせない。
役者では中村蒼という人に、とにかく驚いた。初めて見た人だが、メチャメチャうまい。一体何者?
ただ、知らないのは評者だけで、映像の世界では結構知られているらしい。
この役が、特に彼に向いているのかも知れない。
全然違った役をやるところも見てみたい。
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映画「マンチェスター・バイ・ザ・シー」の脚本でアカデミー賞を受賞したケネス・ロナーガンの作品。2001年初演。
日本初演。
マンハッタンにある高層マンションのロビー。警備員ジェフは、人生の目的もなく働いている。見回りに来る警察官ビルは、相棒である見習いのドーンと
いい仲のようだ。殺人嫌疑を受けた弟のアリバイを偽証した、ジェフの上司ウィリアム。それに対して、何をすべきか悩むジェフがとった行動とは・・・(チラシより)。
ネタバレあります。注意!
舞台はマンションのロビーと、その正面玄関のドアの外。回り舞台の使い方がいい。
冒頭のジェフ(中村蒼)とウィリアム(板橋駿谷)の会話が、見事な導入となっていて、二人の性格と互いの関係がくっきりと描かれる。
見習い警官である若い女性ドーン(岡本玲)は、経験豊富で頼もしいビル(瑞木健太郎)を尊敬し慕っているが、彼は妻子持ちで、しかもある意味、危険人物だった。
ドーン自身も問題がないとは言えない。
と言うか、この芝居に登場する4人はみな、それぞれ問題を抱えている。
一番まともなのはウィリアムだが、彼にしたって、人を見る目がなかったために、ひどい目に合うことになる。
ジェフは善良だが、おしゃべりで軽薄。
ドーンは個人的な恨みを晴らすチャンスとばかりに、ジェフから聞いたことを利用する。
だがこの一件で、ジェフは初めて人生について、少し真面目に考えるようになったとも言える。
彼にとって、上司のウィリアムは自分に目をかけてくれる数少ない大事な人だったのに、その人を苦しめ困らせるようなことをしてしまった、と後悔の念に駆られる。
ラストでジェフは考える、自分の父なら必ず真実を話すだろうと。だがもう一つ別の光景も浮かぶ。父なら力を尽くして友人をかばって偽証するだろう、と。
米国の若者は父親への尊敬の念が強い。それはもう半端ない。日本とは比べものにならない。
そのことを考慮する必要がある。
だから米国の若者は、人生で道に迷った時に、自分の父ならどうするだろうか、とすぐに考えるのかも知れない。
ウィリアムと弟はどうも黒人らしい。
だから、ニューヨークに実際にある黒人への偏見と差別を考えると、弟をできる限りかばってやった方がいいのかも知れない。
同じ罪を犯しても、黒人だと簡単に死刑にされるかも知れないのだから。しかも時代は今から20年前だし。
米国での上演の際には、ウィリアム役は当然黒人俳優が演じるのだろう。
だから観客にはその辺のところがすぐにわかるはずだが、日本で上演する場合、まさか昔の「オセロー」上演時のように顔を黒塗りするわけにもいかない。
しかも困ったことに、セリフには彼ら兄弟が黒人だということについて、ほんの一か所、ほのめかす程度にしか出てこない。
だから、その点が、観客にはっきり伝わらない。
現に、同行した私の連れ合いは、わかっていなかった。
セリフを変えるわけにもいかないし、黒塗りするわけにもいかないし、難しい問題だ。
いや、ひょっとしたら今回、演出家は黒塗りさせようかと迷ったのかも知れない。
戯曲は丁寧で自然な流れで、観客の集中力を途切れさせない。
役者では中村蒼という人に、とにかく驚いた。初めて見た人だが、メチャメチャうまい。一体何者?
ただ、知らないのは評者だけで、映像の世界では結構知られているらしい。
この役が、特に彼に向いているのかも知れない。
全然違った役をやるところも見てみたい。