3月14日俳優座劇場で、ロバート・アンダーソン作「歌え!悲しみの深き淵より」を見た(劇団東演公演、演出:鵜山仁)。
1年前に妻キャロルを亡くしたハリーは、現在、カリフォルニアに住む医師ペギーと交際中で、結婚を考えている。
両親の家はニューヨーク州にあり、彼も近くに住んでいる。
姉アリスはユダヤ人との結婚をきっかけに、父に絶縁されている。
両親はハリーに何かと頼っているため、彼は、カリフォルニアに移住したいという気持ちを抑えつけている。
母は再婚を勧めてくれるが、頑固な父は、息子が遠くに移住することを認めようとしない。
そんな時、母が心臓発作で倒れる・・・。
(ネタバレあります)
母は社交的で、さまざまな会を主催したり関わったりしていたが、過去に何度も大病を患ったことがあった。
ハリーと母とは深い愛情で結ばれていた。
だが父は、過酷な生い立ちと、その後のがむしゃらな仕事、そして成功し、市長まで勤めた立身出世の過去を誇るあまり、頑固で頑なな性格。
息子は、そんな父親を否定せず、できる限り我慢して受け止めてやろうと努めている。
ハリーはあまりにも誠実で親思いの息子で歯がゆいくらいだが、姉アリスには本音をぶちまける。
曰く、知人たちは「いいお父さんだ」と言うが、みんな父の本当の姿を知らないんだ!わがままで自己中心的で・・。
母さんが死んだのも、そんな父さんのせいで・・。
姉は彼を慰め、「これからどうするか決めないと」「ペギーと結婚してカリフォルニアに住むべきよ」とはっきり言う。
母の死をペギーに知らせたか、とも尋ねるが、ハリーはペギーを自分の家族の問題に巻き込みたくないので電話することを躊躇している。
姉と弟は、父親と向かい合う。
アリスは父に、住み込みの家政婦を雇ったらどうか、と提案するが、案の定、父は言下に「何?その女と一緒に暮らすのか?
いらん!無理だ」「ハリーが週に1度か2度、来てくれれば」と繰り返す。
アリスが「ハリーは結婚したいのよ」と言うと、父は怒り、またしても、自分が働き続けてお前たちに着せ、食べさせてやった、
おれは今まで何千人もの人間を雇ってきたんだ、お前たち、そんなに人を雇ったことがあるか?と、話が妙な方向に展開していく。
父は最近、時々ぼんやりして忘れっぽくなり、それを人に指摘されると「ザル頭でな」と言ってはいるのだが。
父が「おれは元気だ、どこも悪くない」と言うと、アリスが「お父さん、立つ時、時々目まいがするでしょ?」
「そんなことあるもんか」と言いながら立ち上がるが、少しよろけてしまう(能登剛のよろけ方が、実に自然でうまい)。
結局父は、「おれはお前たちの世話にはならん!出て行け!」と言い放ち、寝室へ。
ハリーが父の寝室に入ると、父はパジャマ姿で片づけ中。
父の父親の写真を初めて見せてもらうハリー。母親のも。
父の母親は26歳で亡くなり、葬儀の日、出奔していた父親が突然戻って来ると、9歳だった彼は激怒して父親を追い返した。
その時から父は、弟妹を養うために働き続けた。誰も助けてくれなかった。
父親への憎しみは生涯続いた。
突然、父は「こんなはずじゃなかった。おれが先に逝くはずだったんだ」と妻の死を嘆く・・。
ハリーは声が良く、大学でグリークラブに入っていた。
家で彼が歌うと、母がピアノで伴奏したものだった。
父はそれを隣の部屋で聴くのが好きだったが、父が部屋に入って来ると、二人は音楽を止めるのだった・・・。
最後の最後に、息子はようやく父に対して本音を言う。
僕は母さんを愛してた。パパのことも愛したかった、と・・・。
老いてゆく父親を描いたフロリアン・ゼレールの戯曲「父」を思い出した。
もちろんだいぶテイストが違うが。
役者では、父トム役の能登剛がメチャメチャうまい!
頑固で厄介で、家族を困らせる父親を、見事に造形する。
今までどうしてこの人を知らなかったのか不思議だ。
しかも、80歳の役なのに、実はもうすぐ59歳だという!
評者はすっかり騙された。
今年度の最優秀男優賞は、この人で決まりかも。
原題は、I NEVER SANG FOR MY FATHER 。
心優しい息子の悩む姿、苦労人の父親の心情、いずれも普遍的で、翻訳劇とは思えない。
この日、劇場中が温かいもので満たされた感じがした。
1年前に妻キャロルを亡くしたハリーは、現在、カリフォルニアに住む医師ペギーと交際中で、結婚を考えている。
両親の家はニューヨーク州にあり、彼も近くに住んでいる。
姉アリスはユダヤ人との結婚をきっかけに、父に絶縁されている。
両親はハリーに何かと頼っているため、彼は、カリフォルニアに移住したいという気持ちを抑えつけている。
母は再婚を勧めてくれるが、頑固な父は、息子が遠くに移住することを認めようとしない。
そんな時、母が心臓発作で倒れる・・・。
(ネタバレあります)
母は社交的で、さまざまな会を主催したり関わったりしていたが、過去に何度も大病を患ったことがあった。
ハリーと母とは深い愛情で結ばれていた。
だが父は、過酷な生い立ちと、その後のがむしゃらな仕事、そして成功し、市長まで勤めた立身出世の過去を誇るあまり、頑固で頑なな性格。
息子は、そんな父親を否定せず、できる限り我慢して受け止めてやろうと努めている。
ハリーはあまりにも誠実で親思いの息子で歯がゆいくらいだが、姉アリスには本音をぶちまける。
曰く、知人たちは「いいお父さんだ」と言うが、みんな父の本当の姿を知らないんだ!わがままで自己中心的で・・。
母さんが死んだのも、そんな父さんのせいで・・。
姉は彼を慰め、「これからどうするか決めないと」「ペギーと結婚してカリフォルニアに住むべきよ」とはっきり言う。
母の死をペギーに知らせたか、とも尋ねるが、ハリーはペギーを自分の家族の問題に巻き込みたくないので電話することを躊躇している。
姉と弟は、父親と向かい合う。
アリスは父に、住み込みの家政婦を雇ったらどうか、と提案するが、案の定、父は言下に「何?その女と一緒に暮らすのか?
いらん!無理だ」「ハリーが週に1度か2度、来てくれれば」と繰り返す。
アリスが「ハリーは結婚したいのよ」と言うと、父は怒り、またしても、自分が働き続けてお前たちに着せ、食べさせてやった、
おれは今まで何千人もの人間を雇ってきたんだ、お前たち、そんなに人を雇ったことがあるか?と、話が妙な方向に展開していく。
父は最近、時々ぼんやりして忘れっぽくなり、それを人に指摘されると「ザル頭でな」と言ってはいるのだが。
父が「おれは元気だ、どこも悪くない」と言うと、アリスが「お父さん、立つ時、時々目まいがするでしょ?」
「そんなことあるもんか」と言いながら立ち上がるが、少しよろけてしまう(能登剛のよろけ方が、実に自然でうまい)。
結局父は、「おれはお前たちの世話にはならん!出て行け!」と言い放ち、寝室へ。
ハリーが父の寝室に入ると、父はパジャマ姿で片づけ中。
父の父親の写真を初めて見せてもらうハリー。母親のも。
父の母親は26歳で亡くなり、葬儀の日、出奔していた父親が突然戻って来ると、9歳だった彼は激怒して父親を追い返した。
その時から父は、弟妹を養うために働き続けた。誰も助けてくれなかった。
父親への憎しみは生涯続いた。
突然、父は「こんなはずじゃなかった。おれが先に逝くはずだったんだ」と妻の死を嘆く・・。
ハリーは声が良く、大学でグリークラブに入っていた。
家で彼が歌うと、母がピアノで伴奏したものだった。
父はそれを隣の部屋で聴くのが好きだったが、父が部屋に入って来ると、二人は音楽を止めるのだった・・・。
最後の最後に、息子はようやく父に対して本音を言う。
僕は母さんを愛してた。パパのことも愛したかった、と・・・。
老いてゆく父親を描いたフロリアン・ゼレールの戯曲「父」を思い出した。
もちろんだいぶテイストが違うが。
役者では、父トム役の能登剛がメチャメチャうまい!
頑固で厄介で、家族を困らせる父親を、見事に造形する。
今までどうしてこの人を知らなかったのか不思議だ。
しかも、80歳の役なのに、実はもうすぐ59歳だという!
評者はすっかり騙された。
今年度の最優秀男優賞は、この人で決まりかも。
原題は、I NEVER SANG FOR MY FATHER 。
心優しい息子の悩む姿、苦労人の父親の心情、いずれも普遍的で、翻訳劇とは思えない。
この日、劇場中が温かいもので満たされた感じがした。