5 月27日 Pit 昴 サイスタジオ大山第一で、スコット・マクファーソン作「マーヴィンズ ルーム」を見た(劇団昴公演、訳・演出:田中壮太郎)。
20年間寝たきりの父マーヴィンと病気の叔母のルースを結婚もせず一人で支えるベッシーはある日、白血病を宣告される。
最も可能性の高い治療法―骨髄移植を医師に促され、ベッシーは父の病気を機に家を捨てた妹のリーに連絡をとる。
リーは12歳の次男チャーリーと、自宅を放火し少年院にいる長男ハンクを特別措置で一時退院させ、三人でフロリダのベッシーの元に向かう。
暫くぶりに再会するベッシーとリー、マーヴィン、ルース、そして伯母、祖父、大叔母に生まれて初めて出会うハンクとチャーリー。
それぞれの複雑な感情が交差するなか、家族たちは次第に心を通じ合わせていく。
ベッシーの白血病が再び結んだ家族の絆は何処へ向かうのか・・・(チラシより)。
ベッシー(米倉紀之子)は最近体がだるいので、病院で血液検査を受ける。
帰宅すると、叔母ルース(佐藤しのぶ)は父に1時間ごとに飲ませる薬のことを忘れていた。
叔母はテレビドラマ好きで、ベッシーも、つき合って一緒に見る。
父は自分の部屋のベッドに寝たきりだが、鏡を壁に当ててピカピカさせてあげると喜ぶ。
少年院で、女性医師(林佳代子)とリー(あんどうさくら)が面談。
リーの長男ハンク(赤江隼平)が入って来る。母子の会話。
灰皿あります?と尋ねるリーに対して、この医師は「ここは禁煙です」と言っておきながら、大きな灰皿を奥から持って来る。
そして、二人が出て行き一人になると、悠々とタバコを吸い始めるのには驚いた。
一体どういうこと?
当時の米国の少年院ってそんな感じだったのか。
ベッシーは検査結果を聞きに病院に行く。
女性医師(磯辺万沙子)は真っ赤な服を着て急いで入って来ると、べらべらと雑談を続ける。
検査結果をなかなか言わないが、なぜか「お尻から骨髄を少し取らないといけない」と言い出す。
ベッシーは「どうしてお尻から骨髄を取らないといけないんですか?」
「はっきり言ってください」と迫るが、
それでも医師は「可能性を排除していかないと・・」と言うのみ。
それでベッシーが、思いついた病名を次々と挙げていくと、医師はいちいち否定する。
だが「癌?」と尋ねると、それには無反応・・。
「私、癌なんですか?」と聞くと、ようやく彼女は「白血病かも・・」と答えてくれた。
(1980年代当時、白血病は不治の病だった)
医師は骨髄移植という方法がある、と告げる。
ベッシーは、自分が死んだら父と叔母の介護をする人がいなくなる、と思うと夜も眠れなくなり、
長らく会っていなかった妹リーに連絡を取る。
リーは始め、お金がないからフロリダには行かず、息子たちとサンプルを取って送ろうと考えるが、
結局、3人で実家に帰る。
初めて祖父と伯母さんと大叔母に会ってどぎまぎする息子たち。
姉妹の間もギクシャクしている。
夜、眠れないベッシーが外に出ると、ハンクが父親の工具をいじっている。
かなり上等な工具らしく、ベッシーが「それ、あなたにあげる」と言うと、ハンクは喜ぶ。
彼はもうすぐ18歳になる。
その後は成人として、今の少年院から別の施設に移らないといけないという。
<休憩>
病院でチャーリー(屋鋪琥三郎)とハンクが検査を受ける。
夜、一緒に寝ている兄弟は、死について会話する。
姉妹は老人ホームを見学するが、喧嘩になる。
その夜、リーはベッシーのカツラを「直させて」「プロだから」と。
リーは今、美容師の資格を取ろうとしているのだ。
ベッシーは「別にどうでもいいのよ」と言いつつ、素直にカツラをはずして渡す。
うっすらとなった地毛が現れる。
リー「どこかで出会いがあるかも」
ベッシー「え~?」
リー「今までも何もなかったわけないでしょ?ブスじゃないし」
ベッシー「・・どうも」
そこから、かつて好きだった人の話になる。
二人の会話は、これをきっかけに柔らかなものに変わってゆく。
ある日、みんなでディズニーワールドに行く。
それぞれ楽しく過ごすが、ベッシーは一人でいる時、吐血して倒れてしまう。
結局、甥たちの血も適合しなかったと医師から連絡が入る。
ベッシーはさっぱりした顔で妹と抱き合うが、やはり内心穏やかでないらしく、父の薬をうっかり床にばらまいてしまう。
ベッシーは述懐する。
「父と叔母がいてくれて、私は幸せだったわ・・」
彼女はこれまでを振り返り、人の役に立てたのだから自分の人生にも意味があった、と早くも総括している・・。
涙、涙・・
ハンクはいつの間にか家出していた。
彼は弟に、伯母さん(ベッシー)宛てのメモを託していた。
だがしばらくすると、ハンクは戻って来て、たまたまそこにいた母(リー)と黙って見つめ合う・・。
リーが一人でいると、父の部屋からベッシーの声が聞こえて来る。
「ほら、やってあげる」
鏡を壁に当ててピカピカさせているのだ。
父の笑い声が聞こえる。幕。
~~~~~~~~~~~~~
家族の確執が、緩やかにほどけてゆくさまが、見ていて胸に沁みる。
次女リーは、父の発病後家を出て、20年もの間、父の看病を姉一人に任せていた。
とんでもないことのようだが、それまでも父や姉との関係は、恐らくあまりよくなかったのだろう。
そう考えないと彼女の行動はとても理解できない。
そして、そんな妹に久し振りに会った姉ベッシーは、恨み言ひとつ言わない。
そこが、信じられなくもあり、あまりに潔くて尊敬の念を搔き立てられる。
ただ、一番気になるのは、ハンクの抱えている心の葛藤。
父親がいないというだけでも大変なのかも知れないし、母親リーが相当抑圧的なのも問題なのだろうが、それにしても
自宅に放火するというのは並大抵のことじゃない。
彼は人間不信に陥っている。
ベッシーに対しても、今まで一度も僕たちに会おうとしなかったのに、急に連絡して来たのは、
自分が死にたくないからでしょ?みたいなことを言う。
実際には、彼女の心を占めていたのは、父と叔母の介護を続けたいという強い思いだったのだが。
彼女はハンクの鬱屈した思いに気づき、「私はあなたを愛しているわ」と言う。
彼は今まで誰からも、こんな言葉をかけてもらったことがないのかも知れない。
彼はこうして彼女と語り合ううちに、人の心の温かさと、誠実な人間の存在を知り、最後に彼女宛てのメモに
「僕もあなたを愛しています」と書いたのだった。
この後、彼はきっと、前向きに生きていくに違いない。
そんな希望を感じる。
翻訳にいささか疑問あり。
「サンクスギビング」とか「アセンション祭」とかが原語のまま口にされたけれど、分かりにくくないだろうか。
感謝祭とか昇天日とか訳してくれた方がずっと分かり易いのに。
作者は1959年生まれ。1992年、33歳でエイズによる合併症で死去。
この作品は、「マイ・ルーム」というタイトルで映画化されたという。
ダイアン・キートン、ロバート・デニーロ、メリル・ストリープ、そして子役でレオナルド・デカプリオという豪華キャストで、
キートンがアカデミー主演女優賞にノミネートされた由。
これは見てみたい。
20年間寝たきりの父マーヴィンと病気の叔母のルースを結婚もせず一人で支えるベッシーはある日、白血病を宣告される。
最も可能性の高い治療法―骨髄移植を医師に促され、ベッシーは父の病気を機に家を捨てた妹のリーに連絡をとる。
リーは12歳の次男チャーリーと、自宅を放火し少年院にいる長男ハンクを特別措置で一時退院させ、三人でフロリダのベッシーの元に向かう。
暫くぶりに再会するベッシーとリー、マーヴィン、ルース、そして伯母、祖父、大叔母に生まれて初めて出会うハンクとチャーリー。
それぞれの複雑な感情が交差するなか、家族たちは次第に心を通じ合わせていく。
ベッシーの白血病が再び結んだ家族の絆は何処へ向かうのか・・・(チラシより)。
ベッシー(米倉紀之子)は最近体がだるいので、病院で血液検査を受ける。
帰宅すると、叔母ルース(佐藤しのぶ)は父に1時間ごとに飲ませる薬のことを忘れていた。
叔母はテレビドラマ好きで、ベッシーも、つき合って一緒に見る。
父は自分の部屋のベッドに寝たきりだが、鏡を壁に当ててピカピカさせてあげると喜ぶ。
少年院で、女性医師(林佳代子)とリー(あんどうさくら)が面談。
リーの長男ハンク(赤江隼平)が入って来る。母子の会話。
灰皿あります?と尋ねるリーに対して、この医師は「ここは禁煙です」と言っておきながら、大きな灰皿を奥から持って来る。
そして、二人が出て行き一人になると、悠々とタバコを吸い始めるのには驚いた。
一体どういうこと?
当時の米国の少年院ってそんな感じだったのか。
ベッシーは検査結果を聞きに病院に行く。
女性医師(磯辺万沙子)は真っ赤な服を着て急いで入って来ると、べらべらと雑談を続ける。
検査結果をなかなか言わないが、なぜか「お尻から骨髄を少し取らないといけない」と言い出す。
ベッシーは「どうしてお尻から骨髄を取らないといけないんですか?」
「はっきり言ってください」と迫るが、
それでも医師は「可能性を排除していかないと・・」と言うのみ。
それでベッシーが、思いついた病名を次々と挙げていくと、医師はいちいち否定する。
だが「癌?」と尋ねると、それには無反応・・。
「私、癌なんですか?」と聞くと、ようやく彼女は「白血病かも・・」と答えてくれた。
(1980年代当時、白血病は不治の病だった)
医師は骨髄移植という方法がある、と告げる。
ベッシーは、自分が死んだら父と叔母の介護をする人がいなくなる、と思うと夜も眠れなくなり、
長らく会っていなかった妹リーに連絡を取る。
リーは始め、お金がないからフロリダには行かず、息子たちとサンプルを取って送ろうと考えるが、
結局、3人で実家に帰る。
初めて祖父と伯母さんと大叔母に会ってどぎまぎする息子たち。
姉妹の間もギクシャクしている。
夜、眠れないベッシーが外に出ると、ハンクが父親の工具をいじっている。
かなり上等な工具らしく、ベッシーが「それ、あなたにあげる」と言うと、ハンクは喜ぶ。
彼はもうすぐ18歳になる。
その後は成人として、今の少年院から別の施設に移らないといけないという。
<休憩>
病院でチャーリー(屋鋪琥三郎)とハンクが検査を受ける。
夜、一緒に寝ている兄弟は、死について会話する。
姉妹は老人ホームを見学するが、喧嘩になる。
その夜、リーはベッシーのカツラを「直させて」「プロだから」と。
リーは今、美容師の資格を取ろうとしているのだ。
ベッシーは「別にどうでもいいのよ」と言いつつ、素直にカツラをはずして渡す。
うっすらとなった地毛が現れる。
リー「どこかで出会いがあるかも」
ベッシー「え~?」
リー「今までも何もなかったわけないでしょ?ブスじゃないし」
ベッシー「・・どうも」
そこから、かつて好きだった人の話になる。
二人の会話は、これをきっかけに柔らかなものに変わってゆく。
ある日、みんなでディズニーワールドに行く。
それぞれ楽しく過ごすが、ベッシーは一人でいる時、吐血して倒れてしまう。
結局、甥たちの血も適合しなかったと医師から連絡が入る。
ベッシーはさっぱりした顔で妹と抱き合うが、やはり内心穏やかでないらしく、父の薬をうっかり床にばらまいてしまう。
ベッシーは述懐する。
「父と叔母がいてくれて、私は幸せだったわ・・」
彼女はこれまでを振り返り、人の役に立てたのだから自分の人生にも意味があった、と早くも総括している・・。
涙、涙・・
ハンクはいつの間にか家出していた。
彼は弟に、伯母さん(ベッシー)宛てのメモを託していた。
だがしばらくすると、ハンクは戻って来て、たまたまそこにいた母(リー)と黙って見つめ合う・・。
リーが一人でいると、父の部屋からベッシーの声が聞こえて来る。
「ほら、やってあげる」
鏡を壁に当ててピカピカさせているのだ。
父の笑い声が聞こえる。幕。
~~~~~~~~~~~~~
家族の確執が、緩やかにほどけてゆくさまが、見ていて胸に沁みる。
次女リーは、父の発病後家を出て、20年もの間、父の看病を姉一人に任せていた。
とんでもないことのようだが、それまでも父や姉との関係は、恐らくあまりよくなかったのだろう。
そう考えないと彼女の行動はとても理解できない。
そして、そんな妹に久し振りに会った姉ベッシーは、恨み言ひとつ言わない。
そこが、信じられなくもあり、あまりに潔くて尊敬の念を搔き立てられる。
ただ、一番気になるのは、ハンクの抱えている心の葛藤。
父親がいないというだけでも大変なのかも知れないし、母親リーが相当抑圧的なのも問題なのだろうが、それにしても
自宅に放火するというのは並大抵のことじゃない。
彼は人間不信に陥っている。
ベッシーに対しても、今まで一度も僕たちに会おうとしなかったのに、急に連絡して来たのは、
自分が死にたくないからでしょ?みたいなことを言う。
実際には、彼女の心を占めていたのは、父と叔母の介護を続けたいという強い思いだったのだが。
彼女はハンクの鬱屈した思いに気づき、「私はあなたを愛しているわ」と言う。
彼は今まで誰からも、こんな言葉をかけてもらったことがないのかも知れない。
彼はこうして彼女と語り合ううちに、人の心の温かさと、誠実な人間の存在を知り、最後に彼女宛てのメモに
「僕もあなたを愛しています」と書いたのだった。
この後、彼はきっと、前向きに生きていくに違いない。
そんな希望を感じる。
翻訳にいささか疑問あり。
「サンクスギビング」とか「アセンション祭」とかが原語のまま口にされたけれど、分かりにくくないだろうか。
感謝祭とか昇天日とか訳してくれた方がずっと分かり易いのに。
作者は1959年生まれ。1992年、33歳でエイズによる合併症で死去。
この作品は、「マイ・ルーム」というタイトルで映画化されたという。
ダイアン・キートン、ロバート・デニーロ、メリル・ストリープ、そして子役でレオナルド・デカプリオという豪華キャストで、
キートンがアカデミー主演女優賞にノミネートされた由。
これは見てみたい。