ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「オイディプス」

2019-11-06 22:36:14 | 芝居
10月7日シアターコクーンで、ソフォクレス原作、マシュー・ダンスター翻案・演出の「オイディプス」を見た(翻訳:木内宏昌)。

「父を殺し母をめとるであろう」という恐ろしい予言から逃れるため、放浪の旅に出た古代ギリシャ・コリントスの王子オイディプス。
旅先のテーバイで怪物スフィンクスを退治し同国の王となり、先王の妃を妻に迎え安寧な日々を送る。だが、ほどなくしてテーバイ中に疫病が
蔓延。オイディプスは国を救うため神託に従い先王殺害の犯人を捜すが、やがて恐るべき真実が明らかになる・・・。

古代のギリシャ悲劇「オイディプス王」を英国のマシュー・ダンスターが現代の物語として翻案した。
その初日。
舞台下手に頑丈そうな扉あり。上手は大きく開いていて通路になっている。上階があり、必要に応じて分厚いカーテンが上がり、中が見える。
中はテーバイの国王夫妻の寝室。オイディプス(市川海老蔵)と妃イオカステ(黒木瞳)が今しも事終えて衣服を身につけているところ。
下手の扉が開くとサイレンが鳴り響き、もうもうたる白煙と共に防御服に身を包んだ人々が入って来る。一人ずつ水か何かを噴射されて放射能を
洗い流されると防御服を脱ぐ。そう、この建物の外、テーバイの街は放射能に汚染されているのだ。
一階奥にガラス戸で囲まれた部屋がある(開演前そこのソファで女の子二人が遊んでいた。オイディプスとイオカステの間に生まれた娘たちだ)。

オイディプスはグレイのスーツで一人だけパリッとしてカッコいい(衣装:ジョン・ボウサー)。
彼は市民たちにせがまれ、先王ライオス殺しの犯人を知る者は名乗り出よ、とテレビで国中に放送する。その大画面が上階を覆うカーテンに
映し出される。
王妃イオカステは紺のワンピース。派手ではないがデザインがしゃれていて上質な感じ。彼女の立場と年齢にふさわしい。
盲目の予言者テイレシアスはすべてを知っている。王の前にコリントスからの使者が来て、さらに昔のことを知る羊飼いの老人が連れて来られ、
次第に恐るべき真相が明らかになってゆく。

「あの神」という表現が何度も出てきて耳障りだ、と言うか、非常に気になるし引っかかる。
アポロンのことをなぜアポロンと言わないのか。「あの神ってどの神やねん?!」と、その都度我が脳内は一時的に関西人になって
突っ込んでしまうのだった。

王妃イオカステ役の黒木瞳が圧巻。この人はいつまでも若々しく美しい人だとは思っていたが、声がまたうるおいがあって素晴らしい。
「妻が実は母だった」という今回の役はなかなかの難物だが、この人なら説得力がある。
主役の市川海老蔵は体の動きが機敏で自信に満ち溢れ、滑舌もよくオーラがある。
最後の決め手となる証言をする召使い役の笈田ヨシは、今回、あまりパッとしなかった。重要な役で、ここが物語の核心というところで
焦点がぼやけてしまい、衝撃が弱まってしまった。残念だ。
昨年の秋、三島由紀夫の「豊饒の海」では見応えある演技を見せてくれたのだが。

初日ゆえか、芝居の進行面で若干、不手際があった。
ダンス(群舞)は特にどうということはない。個人的にはあまり必要を感じなかった。

王妃が先王の死んだ時の状況を語り出すと、オイディプスは急に怯えたように顔をこわばらせる。
その後オイディプスが、かつて「三本の道が交わる所で」一人の男を殺した話をすると、今度は王妃が固まってしまうのだった。

事の真相に気づき、恐怖にかられた王妃が「この話はもうおしまい」と言うと、オイディプスは言う、「自分が誰なのか知りたいんだ」。
この心の底からの叫びのような言葉が印象的だ。人間誰だってそうだろう。だが彼の場合、それを知ることは破滅の始まりなのだった。
ああ、呪われた運命!











コメント
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