【 2011年7月25日(月曜)】 山行第4日目・下山
朝食は朝5時からである。昨晩は早くから寝たから、自ずと早く目が覚め、それに伴って腹も朝食を受け入れる準備ができている。
【 塩見小屋、朝の食事 】
朝食をとっていたら、外から「塩見が見える!」の声がする。早々に切り上げ、カメラを持って外に飛び出ると、昨日はガスの中で何も見えなかった『塩見岳』流れるガスの合間から顔を覗かせる。また何時、ガスに覆われるかしれないのであわててシャッターを切る。
【 雲間から姿を見せる『塩見岳』と『天狗岩』】
そのうち、手前の天狗岩もその姿を現した。昨日あの岩場を下りてきたのかと、改めて確認する。
今日は下山のため、昼間1本しか無いバスに乗るには、鳥倉林道の登山口に午後2時までに下りなければならない。時間との勝負である。
天気は晴れ。この晴天がもう1日早く来てくれたら良かったのにと思う。
【 ↓ 拡大図 】
【 大鹿村への下山路 】
今日のルートは、本谷山を経由し三伏峠の『三伏小屋』に立ち寄り、そこから『鳥倉林道』を通って、バス停のある登山口まで行く。
以前は『塩川ルート』のほうにバスが通っていたが、塩見岳の入り口である『三伏峠』には『鳥倉林道』経由のほうが便利なので、バスもこちらにのほうの登山口に通うようになったようだ。はじめ計画をたてる段階ではそのことを知らなかったが、距離も標高差も少ない『鳥倉林道』を行こう決めていた。バスがないなら登山口からはタクシーでも呼べばいいと思っていたが、実際に行ってみると『塩川ルート』は崖崩れで
通行できず、選択の余地がなく、バスもそういう事情だったので好都合だった。
【 下山路方向を眺める 】
午前6時に下山を始める。行く手にはポッコリと『本谷山』がみえる。
足元のハイマツをかき分けながら下山している時、ふと前方を見るとガスに覆われた尾根の向こうに不思議な光景が映っている。改めて目を凝らしてみると『ブロッケン現象』でガスのスクリーンに自分の姿が映っているではないか。以前にも見たことはあるが、こんなにはっきりは見えなかった。虹色の輪が《後光》というか《光輪》のように頭の後方にはっきりと輝き、まるで自分が天上の人になったようなイメージだ。
自然のなす業に、しばらく見とれる。
【 ブロッケン現象で映る自分の姿 】
下り道が続き、『塩見新道』との分岐点にかかる。
【 塩見新道との分岐点の標識 】
この辺りは、神秘的な雰囲気の森である。その間を通っていくとどこか童話の世界に導かれそうな気がする。やがて道は左にまわり、ふたたび登りとなる
【 きれいな縦走路 】
前方に、一昨年登った『荒川三山』が見える。一番高く見えるのが『悪沢岳』だろうか。
【 荒川三山の遠景 】
左に振り返るように目を移せば、昨日全然見えなかった『塩見岳』が迫って見える。双耳峰の2つのピークもそれと認められる。
【 本谷山から塩見岳を望む 】
道は右に大きく迂回しながら下り、上り返して『本谷山』と『三伏山』の頂上を通って『三伏峠』に至る。『三伏峠』は日本一高い峠というが、『槍ヶ岳』の肩にある『飛騨乗越』より高いのだろうか、それともあちらは《峠》と認められていないのだろうか。
『三伏小屋』は三伏峠にある小屋である。『塩見岳』の登山口でその玄関みたいな小屋だ。
【 『三伏小屋』玄関 】
下山する人か、これから登る人か、小屋の前はにぎわっている。ここにも立派なトイレがある。建設に2000万円かかったということで、1回100円の有料トイレである。奥に無料のものもあったので、そちらを利用する。
【 小屋前の広場 】
しばらく休憩した後、バスの時間を気にしながら出発する。
【 鳥倉林道と塩川コースの分岐点 】
『塩川コース』との分岐点に来て、改めてこのコースが通れないことを再確認する。『豊口山』の頂を巻いて反対側の谷筋に出る。きれいな森の中をだらだら下っていき、ようやく登山口にバスの発車時刻の1時間ほど前に到着できてほっとした。しかし、着いてしまうとすることがない。待つ1時間の長いこと。
【 登山口横の大岩壁 】
登山口横の大きな岩を眺めていると、バスがほぼ定刻にやってくる。バスに乗り込んで席に着く。もう歩かなくていいと思うと、ほっとする。発車間際の時刻になって、登山者が降りてきた。ぎりぎりセーフである。バスの運転手は登山口の方に眼をやって次に時計を見る。そんな動作を2~3回繰り返したあと、5分遅れでようやくバスを出発させる。
【 鳥倉林道を振り返る 】
バスは大きな谷を左に見てゆっくりと高度を下げていく。
鳥倉林道は、一般車の通行が規制されてて通行できない。マイカーで来た場合、このバスなら10分ほどだが、バスに乗れないと、駐車場から登山口まで1時間以上歩かないといけない。
その駐車場には車が4、50台置いてあったが、そこを通り過ぎる。振り返ると大きく回ってきた谷の向こうに、今通ってきた林道が見える。
バスは、曲がりくねった道をぐんぐん下っていく。終点まで乗れば、伊那大島駅をとおり東名高速の松川I.C.まで連れて行ってくれるが、大鹿村の大河原で途中下車して温泉に一泊することを決めていた。
当初、鹿塩温泉の『山塩館』に宿を取る予定だったが、事情で営業していないということで、小渋温泉の『赤石荘』を予約してあった。
大河原のバス停で降りると、迎えを頼んでおいた宿の車が暫らくしてやってきた。車の中で宿の若旦那から映画『大鹿村騒動記』のことなど、自身も映画に登場した話など聞く。そのとき『山塩館』が営業していない理由が、温泉をくみ出すポンプの故障だと聞いた。「旅館の経営者が旅行中で営業していない」とはじめ聞いたときは耳を疑ったが、そういうことだったのかと納得する。
この辺の事情は、Myブログ『大鹿村騒動記』(南アルプス山行記・番外編)を参照
道すがら、その『山塩館』から紹介してもらった『赤石荘』の若旦那(専務らしい)は「ウチはあちらの由緒ある宿とは違って」と謙遜するし、料金も8000円と格安だったので、いったいどんな宿かと思っていたが、なんのなんの、行って利用してびっくりだった。
【 小渋温泉『赤石荘』の露天風呂 】
確かに、部屋にトイレがついていなかったり、布団の上げ下ろしを自分でしないといけないとかあるが、宿の値打ちの重要ポイントである《温泉》と《食事》が値段と不釣合いに《上出来》だった。風呂もなく食事も粗末な山小屋で4日間過ごした直後ということもあるのかもしれないが、極上の待遇に思えた。
【 料理-前菜 】
ここの料理は最高だった。8千円クラスの宿の料理というは、食堂にすでに(1時間ほど前から?)料理が並べられていて、『てんぷら』などは冷え切って干からびていることが多いが、ここは客の顔と食事の進行具合を見て1品ずつ持ってくる。気配りは一流レストラン並みである。
これで終わりだと思っていたら、更に2皿出てくる。
料理にワインが合いそうなので注文すると、赤か白、それぞれ1種しか置いていないという。これだけの料理を出すなら、もう少し種類を置いといてもと思うのだが、訳を聞いてみたら面白かった。
【 専務こと宿の主 】
「以前は、それなりにいいワインも置いていたんですが、ワイン代が1万円で食事込みの宿代が8千円だと釣り合いが取れないので止めました。」との弁。納得。
その日は大満足で熟睡した。
【 つづく 】
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北岳・塩見岳縦走4日目(塩見小屋から大鹿村へ下山)