【2011年1月21日】
午前6時に起床する。身支度を調えて階下の食堂に行く。まだ人影もまばらである。2日目なので、要領はわかっている。昨日と同じようにテーブルに多目の皿を運ぶ。昼代を節約するために朝食は多めに腹に溜め込んでおくことにする。そうは言っても、そんなに入るものではない。時間もせいていたから30分ほどで切り上げ、出かけることにする。
列車の出る8:05の30分前には駅に行っておこうと思ったが、少し遅れてしまった。
発車までにすることは、列車が出るホームを確認することと、切符を刻印機に通し刻印することである。
日本の駅のように改札口がなく、ホームへの出入りは自由だから、改札機に通す替わりにこれをしておかないと、検札の時に刻印していないのが見つかると多額の罰金を支払わされるということである。たったこれだけのことであるが、初めてのことなので緊張する。5分もあれば出来ることだが、やはり心配だ。
発車するホームは電光掲示板で見つけられた。左側奥の1番ホームである。始発駅だから列車はもう入線していた。
がらんとした列車に乗り込む。席はすいている。日本の主要駅ならこの時間の電車は出勤ラッシュで大混雑なのだが、ここはのんびりしたものである。音も衝撃もなく電気機関車にひかれた列車は出発した。こちらの電車は各車両にモーターの着いた日本の近郊電車のような車両はほとんど見ず、だいたいがごつい形の、先頭の機関車が列車を牽引するタイプであった。それなのに、発車時の衝撃がほとんどないのは不思議である。
列車はスピードに乗ると、フィレンツェの街をあとにして快調に走る。窓をのぞくと、遠くにクーボラや教会の尖塔が小さく見える。
間もなく、近郊の小さな駅に止まる。これから学校に向かうのか、中高生くらいの若者が反対側ホームで賑やかにたむろして列車を待っている。
また音もなく、アナウンスもなく列車が静かに動き出す。車窓にのんびりした田園風景が流れていく。
いくつの駅に停まったのだろうか、1時間20分ほどで終着駅のピサに到着する。
人流れについて階段を下りて行く。コンコースを右に行くか左に行くか、どちらが表口か迷ったが、流れの多い方に従う。駅前に出たが、バス乗り場がたくさんあって、ドゥーモ広場行きのバスを探がよくわからない。乗務員のたまり場のようなところで尋ねると、乗り場番号を教えてくれた。
バスで15分ほど行くと、ドゥーモ広場前に到着する。門をくぐると目の前にドゥーモ広場が広がる。前の旅行でかなわなかったが、いよいよピサにやってきた。
フィレンツェの大聖堂は、街の中にとけ込んでいるが、ここは日常世界とは離れた別の空間に独自の世界を作っている。
手前に丸いドームの洗礼堂、その向こうにドゥーモ、そしてその奥右手に鐘楼の「ピサの斜塔」が見える。
前回、レンタカーでピサの街まで来ながら、出会うことのできなかったピサの斜塔が目の前に立っている。
傾いている。やっぱりどう見ても傾いている。一時、その傾斜のため立ち入り禁止だった斜塔に、現在は上がれると聞いている。今度は何としてでも上がらねば、と気がはやる。チケット売り場は斜塔を左に行った、別の建物にあった。予約を取り、荷物を預け順番を待つ。幸い、待ち時間は少なく、10:30の回に上がれることに。何せ、1回の入場に20人という人数制限があり、それも30分以内の制限時間がある。それと、入場料がべらぼうに高い。ドゥーモや周辺の博物館の入場料がセットで一人23ユーロもするのだ。しかし、ここまで来てやめるわけにはいかない。
いよいよ順番が来て斜塔の中に入り込む。建物の外壁の形が円だから、らせん階段も丸く円を描いて上に伸びていく。その螺旋階段を登っていくと、変な感覚に襲われる。ちょうど大きな船に乗って大波に揺られるような感じだ。180度分進むごとに体の平衡感覚が反対向きに働いて船酔いのような感覚にとらわれるのだ。何度か身体が左右に揺られたあと、屋上直下の空間に出る。
そこからさらに細い階段を上がり最上部に到達する。屋上をぐるりと一周する通路を進み、一番外側に傾いているところにくると、落ちそうな感覚になる。
真下はのぞけない。ここからガリレオ・ガリレイが林檎を落として重力の法則を発見したんだと思うと感慨深い。
30分弱の見学時間はあっという間に終わった。斜塔を出ると、広い敷地に配置されたドゥーモと周辺の建物を回る。ここは現代に息づく寺院というより過去の遺跡である。
その後、付属の美術館や博物館を回ったが、圧巻はやはり斜塔だった。
13:20ピサ発の列車に間に合うようにバスでピサ駅に戻る。来た路線とは違う経路で20分ほどでルッカの駅に着く。
ピサの駅を出るとき、出発ホームが5分前に急遽変更になっていたのには、冷や汗をかいた。念のためと、直前に再確認を電光掲示板で見ておかなかったら乗り過ごすところだった。
【つづく】
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