インドネシアの“残留元日本兵”、遠い昔に聞いたことはあったが詳しくは覚えていないし、その後も知る機会が無かった。太平洋戦争後、インドネシアの独立戦争に加わり、その後も日本に帰らなかった人たちのことだ。この本は、ジャカルタ日本人学校の教師として赴任した著者が離任した後も含め、10年余りにわたる精力的な取材を経て書き上げたレポートだ。多くの該当者本人のインタビュー・独白に加え、その遺児、日本の家族・関係者の聞き取りを通して当初の疑問がいくつか消えた。戦争が終わったのに何故、帰国しなかったのか。5年後、独立戦争が収束した以降の帰る機会にも。日本への望郷は、いや残した家族との再会をなぜ求めなかったのか。一様、単純では無い、帰るに帰れなかった状況が多少理解できた。だが、それぞれの心の奥底をこの一冊だけでは読み解くことは無理だ。ひとり一人と向かい合い、<悲しみの深さ>を見据え続けた著者だけしか知りえない真実があるのだと思う。その後、著者が撮影した記録写真は林忠彦賞を受賞した。その受賞式で「彼らの最後の時に現れた魂の記録者」と称されたが、そのとおりだ。著者長洋弘氏は今、参加している写真サークルの講師。厳しくも、やさしい眼差しの先にはライフワークとしている“残留日本兵”が未だ残像としてあるように見える。
最後の残留元日本兵が8月末に亡くなった(「じゃかるた新聞」より)