北海道を舞台に明治から現代に至る七つの短編集。自分の出身地だが、地元でも埋もれつつあったと思われる題材を作者は拾い集め、そこに生きた人々にスポットをあてた作品。最初の話は明治の時代、札幌市内に桑園という駅が今も残る地で養蚕を生業とした一家のこと。本州での農業が通用しない北の大地、原野に自生する桑の葉を利用して活路を見出す。当時、輸出品の主力でもあった生糸産業は大いに興隆するも人造繊維の普及とともに廃れてゆく。家族の娘の視線を通して家業の浮き沈み、自然の豊かさとともにその厳しさを容赦なく描く。続くハッカ栽培を始め毛皮採取のミンク飼育、水鳥の羽毛獲り、農耕馬の装蹄、レンガ製造などの話も似たような変遷をたどる。その中で唯一、小さい頃の記憶に僅かながら残る描写は農耕馬の話。春先に漂う<馬糞風>、車が行き交う車道を悠然と<馬が引く荷車>。懐かしい長閑な情景も、まさに人馬一体となって大地と格闘していた時代の一断片。北海道開拓150年という短い歴史だが、その陰に潜むのは知られざる多くの壮絶な生き様。過酷な自然と近代化の流れに抗い、大地に染み込んだそれぞれの運命を考える。そして「贖う」(あがなう)とは「罪のつぐないをする」「あるものを代償にして手に入れる」と辞書にある。読み終えてあらためて思いを巡らせた。加えて脳裏に浮かんだのは、開拓以前の先住者アイヌの人たちのこと。先日、ウポポイ(民族共生象徴空間)という施設も出来て先住民族として、やっと日の目をみることに。本州からの入植者が入った以降、本作品で描かれた以上の苦労を重ねてきたことは容易に想定できる。作者にはぜひ書いてほしいテーマである。