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遠い闇から『罪の声』

2017年05月23日 | 読書

「グリコ・森永事件」をモデルとした小説だが、著者があとがきで述べているように<発生日時、場所、犯人グループの脅迫・挑戦状の内容、その後の事件報道について、極力史実通りに再現>している。なにせ30年以上もの前の話、同じく未解決の三億円事件のように単純な現金強奪事件ではない。阪神を舞台に複数の食品会社を脅迫、社長誘拐、青酸入り菓子をばら撒くなど、1年半近くにわたって社会を騒然とさせた。そうした記憶が読み進めるうちに少し甦ってきた。だが、この犯罪史に残る難事件は遠い闇の中に消えたままだ。著者は小説を通して犯人グループを追い詰め、最終的に一人ひとりを特定した。それらの人物はキツネ目の男をはじめ当時推測された犯人像に重なるものだが、その筋立てには感心する。ただ、この作品はそうした人物をいぶり出すことだけが目的ではない。何度も音声として流された脅迫電話に残る複数の子供の声、その主がその後どう生きたのかに渾身の想いを込めている。当事者がどのような運命をたどったかは誰も知らない。重苦しさを増す後段の展開を経ての結末、そこにある僅かな希望は著者の願望のようであり、読む者としても少し救われた。