武士社会の時代、筆頭家老の家に育った3人の兄弟の生きざまと深い絆。青年期から後年まで、末弟の主人公の心情を通して描かれる。藩の実権を握ろうと様々な画策を行なう悪役の次席家老。その息子を斬り殺してしまった次兄に主人公は役目柄、切腹を命じざるを得ない。何とか助命を図ろうとする主人公と長兄、父も交えての心の葛藤、緊迫の場面は大いに読ませる。そして時は流れて13年後、今や筆頭家老の座に就いた仇敵に重用され、長兄とも付き合いを絶っていた主人公。ついに積年の意趣返しに出る。大いなる野望が潰えた相手が狼狽して発する問いに対して決然と言い放つ「(それはわれらが)黛家の兄弟だからでござる」と。何と気持ち良い場面か。冬、たれこめた暗黒の雲が取れ、一面に青空が広がるようである。長兄とも兄、弟としての会話が復活する。随所にのぞく四季の風景、登場人物のしぐさや心の動きの描写もいい。本のカバーに描かれている清々しい絵は青い水面を飛び立つ三羽の水鳥。これも兄弟だろうか。