あえてサブタイトルを付けなかった筆者の意図は何か。日本のマスメディアの代表格の新聞社、その中で歴代政権の政治姿勢に厳しく向き合ってきた部門である。飾りを付けず、その実像をさらけ出す意味でもあるのかと読み始めた。まずはその実情が実在人物とともに詳細に語られる。社内でもエリート集団のトップである政治部長の多くは経営層に抜擢。社会部や経済部との紙面内容をめぐる激しいやり取り、人事についても同様。他社とのスクープ合戦の中で政治家と密着する距離感も微妙に描く。そして筆者が退職を選択することになる「吉田調書」の顛末と責任問題、この書の核心に入る。東日本大震災当時の東電福島第一原発所長の聴取内容をスクープした記事を後に誤報として取り消した件である。<「説明不足」や「不十分な表現」は認めるも、誤った事実を伝えた「誤報」ではない。(朝日新聞を揺るがし、経営責任に波及の)「慰安婦」「池上コラム」問題をやわらげる狙い>と言い切る。これ自体に読みごたえあったが、それ以上に期待していた内容は別にあった。20代の頃より長く購読者であった一人として近年思うことがある。世間一般のバランスを意識、優等生的な論調に陥ってはいないか。政権・与党へのチェック機能、少数派・弱者への肩入れに物足りなさを感じる。現場記者から遠いその水脈には政治部、経営層の深謀遠慮があるとみる。よくある大企業不祥事の始末記に終わらせず、筆者には続編を願いたい。(退職した筆者のWeb紙「SAMEJIMA TIMES」)