生まれつきの聴覚障害で両耳とも聞こえないケイコは、再開発が進む下町の小さな
ボクシングジムで鍛錬を重ね、プロボクサーとしてリングに立ち続ける。嘘がつけず
愛想笑いも苦手な彼女には悩みが尽きず、言葉にできない思いが心の中に溜まっていく。
ジムの会長宛てに休会を願う手紙を綴るも、出すことができない。そんなある日
ケイコはジムが閉鎖されることを知る。
本作は、生まれつき聴覚障害を持つ女性がボクシングに挑戦する「実在の人物」から
インスパイアされた物語だそうです
冒頭のボクシングジムのシーンから、縄跳びの音、器具の軋み、ミット撃ちの音と
耳に神経を集中させられる。全編、劇伴音楽はなく(例外は主人公の弟が弾くギターのみ)
ジムのシーン以外でも、電車の通過音、雑踏、川のせせらぎなど、自然音のみ。
しかし、主人公には音が聞こえない。主人公の心情が語られることはない。
必要最小限の手話(字幕の入れ方はサイレント映画のよう)と視線、顔の表情のほか
には、即物的に身体の動きを丹念に追う。「勝手に人の心を読まないで」と語る主人公
は、まさしくハードボイルド。
主人公がなぜボクシングを始めたのか、ジムの会長へのインタビューでうかがい知れる
のみ。主人公の心情が最もよく現れているのは、会長の妻が読み上げる日誌。
それにしても、岸井ゆきのは凄い。主人公と一体化しているというより、まるで
ドキュメンタリーを見ているかのよう。ミット撃ちは見事だし、2戦目の試合最後に
吠えるところは心に響いた。三浦友和、仙道敦子(久々!)、トレーナーの二人も良かった
耳を澄ますのではなく、目を澄ますと、心に響いてくるものがある ☆☆☆☆