水上瀧太郎(みなかみ・たきたろう)「大阪の宿」より、冒頭。
夥(おびただ)しい煤煙の為めに、
年中どんよりした感じの大阪の空も、
初夏(はつなつ)の頃は藍の色を濃くして
浮雲も白く光り始めた。
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水上瀧太郎(1887~1940)の小説は、実は、まだ読んだことがありません。
今では、ほとんど忘れられている作家かもしれませんが、
ここらあたりで、読んでみようか、などと考えています。
「忘れられた作家」シリーズというわけでもありませんが、
小説の冒頭を書いてみるのも、一興かと思っています。
この冒頭部分は、素直な文章ですが、どこか暗示的で、
これからこの空の下で、どんな物語が展開するのだろうという
期待を抱かせます。