中原中也「盲目の秋」より
これがどうならうと、あれがどうならうと、
そんなことはどうでもいいのだ。
これがどういふことであらうと、それがどういふことであらうと、
そんなことはなほさらどうだつていいのだ。
人には自恃(じじ)があればよい!
その余はすべてなるまゝだ……
半紙
水彩画用の筆で
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「盲目の秋」の第2章。
全文は以下の通りです。
これがどうならうと、あれがどうならうと、
そんなことはどうでもいいのだ。
これがどういふことであらうと、それがどういふことであらうと、
そんなことはなほさらどうだつていいのだ。
人には自恃(じじ)があればよい!
その余はすべてなるまゝだ……
自恃だ、自恃だ、自恃だ、自恃だ、
ただそれだけが人の行ひを罪としない。
平気で、陽気で、藁束(わらたば)のやうにしむみりと、
朝霧を煮釜に填(つ)めて、跳起きられればよい!
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「自恃」とは「自分自身をたのみにすること。自負。」の意。
生きているといろいろなことがあって、なんやかやと悩まされます。
そういうとき、この詩句を呪文のように唱えたくなります。
「自恃があればよい」と言うけど、そう簡単には「自恃」は持てない。
どうしたって「自己嫌悪」に負けてしまうものです。
だから忠也は心の中で何回も叫ぶわけです。
「自恃だ、自恃だ、自恃だ、自恃だ、」と。
「なんだか自信が持てないよ」と呟く一方で、そうやって自分を励ましていたのでしょう。