源氏物語・若紫の巻より
35×47cm
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清げなる大人二人ばかり、さては童(わらわ)べぞ出で入り遊ぶ。
中に、十ばかりにやあらむと見えて、白き衣(きぬ)、山吹などの
なれたる着て、走り来たる女子、あまた見えつる子どもに似るべうもあらず、
いみじく生(お)ひ先見えて、うつくしげなる容貌(かたち)なり。
髪は扇を広げたるやうにゆらゆらして、顔はいと赤くすりなして立てり。
【口語訳】
こざっぱりした女房が二人ほど、それから女童(めのわらわ)が出たり入ったりして遊んでいる。
その中に、十歳くらいかと見えて、白い下着に山吹襲(やまぶきがさね)などの
着なれた表着(うわぎ)を着て、走って来た女の子は、大勢姿を見せていた子供たちとは比べものにならず、
成人後の美貌もさぞかしと思いやられて、見るからにかわいらしい顔だちである。
髪は扇を広げたようにゆらゆらとして、顔は手でこすってひどく赤くして立っている。
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前回の「尼君」の描写も見事でしたが、
ここに登場してくる少女(後の紫の上・源氏の最愛の女性)の描写の見事さは他に類をみません。
「山吹襲」というのは、表が「薄朽葉(赤みがかった黄色)」で、裏が黄色の着物。
その下に白い着物という、何ともすがすがしい衣装の少女。
髪型がいわゆるおかっぱで、広げた扇のような形。その先端が走ってきたのでゆらゆら揺れている。
注目すべきは「生ひ先見えて」の語。決して「老い先」ではありません。
この子は、きっと将来美人になるだろうなあ、楽しみだなあと思わせる、それが「生ひ先見えて」です。
そういう子役は、テレビにもたくさん登場しますが、たいていは「がっかり」てなことになりがち。
でも、この子は、源氏の予想を裏切らないどころか、まさに理想的な女性に成長していくわけです。
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長いので、半紙よりちょっと大きめの紙に書いてみました。
雁皮紙といって、にじみの少ない紙です。