永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1066)

2012年02月07日 | Weblog
2012. 2/7     1066

五十帖 【東屋(あづまや)の巻】 その(37)

 右近が、

「上達部あまた参り給へる日にて、遊び戯れては、例もかかる時は遅くも渡り給へば、皆うちとけて休み給ふぞかし。さてもいかにすべきことぞ。かの乳母こそおぞましかりつれ。つと添ひ居てまもりたてまつり、引きもかなぐりたてまつりつべくこそ思ひたりつれ」
――今日はこちら(二条院)に公卿たちが大勢参上なさいました日で、遊び興じられまして、いつものようにこちらへお渡りになられるのが遅うございましたので、一同が、ついくつろいで休息していらっしゃったようでございます。それにしましても、どうしたらよいのでしょう。あちらの乳母は気の強いことこの上なく、ぴたっと浮舟のお側に付き添ってお守りし、引き離しもし、宮をお投げつけも申しかねない様子でございましたよ――

と、

「少将と二人していとほしがる程に、内裏より人参りて、大宮この夕暮れより御胸なやませ給ふを、ただ今いみじく重くなやませ給ふ由申さす」
――少将(中の君の侍女)と二人で、気の毒がっているところに、御所からのお使いが参って、大宮(明石中宮)が、この夕方から御胸をお病みになっておいでになりますが、ただ今、たいそうご容態がお悪くていらっしゃると、御注進してきました――

 右近が、

「心なき折りの御なやみかな。きこえさせむ」
――あいにくな時の御病いですこと。では宮に申し上げましょう――

 と言って立ちあがりますと、少将が、

「いでや、今はかひなくもあべいことを、をかがましく、あまりなおびやかしきこえ給ひそ」
――でもまあ、今はもう何とも致しようがございますまいに。さしでがましくお驚かせなさいますな――

 と、言いますと、右近が、

「いな、まだしかるべし」
――いえいえ、まだそこまでは進んでいないでしょう――

 と、この二人が囁き合って言っていますのを、中の君は、

「いと聞きにくき人の御本性にこそあめれ、すこし心あらむ人は、わがあたりをさへうとみぬべかめり、とおぼす」
――まことに外聞の悪い匂宮のお心癖ですこと。これでは少し思慮深い人なら、宮ばかりか、私のことまでも軽蔑するにちがいないであろう、とお思いになるのでした――

「参りて、御使いの申すよりも、今少しあわただしげに申しなせば、動き給ふべきさまにもあらぬ御けしきに、『誰か参りたる。例の、おどろおどろしくおびやかす』とのたまはせれば、『宮の侍に平の重経となむ名乗り侍りつる』ときこゆ」
――右近が匂宮の前に参上して、御使いの口上よりも、もう少し大袈裟に申し上げてみますが、宮は動く気配もお見せにならず、「誰が参ったのか。例によって大袈裟な事を言って脅すのだろう」とおっしゃるので、右近が「中宮職の侍で、平の重経(たいらのしげつね)とか名乗りました」と申し上げます――

では2/9に。