永子の窓

趣味の世界

枕草子を読んできて(72)(73)

2018年07月29日 | 枕草子を読んできて
五九  若くてよろしき男の  (72) 2018.7.29

 若くてよろしき男の、下衆女の名言ひなれて呼びたるこそ、いとにくけれ。知りながらも、何とかや、片文字はおぼえで言ふはをかし。宮仕へ所の局などに寄りて、夜などぞ、さおぼめかむはあしかりぬべけれど、主殿寮、さらぬただ所にては、侍、蔵人所にある者をゐて行きて、呼ばせよかし。てづからは声もしるきに。
 はした者、童べなどは、されどよし。
◆◆若くて身分教養のある男が、身分のいやしい女の名を言い馴れてなれなれしく呼んでいるのは、ひどくにくらしい。知っていながらも、何といったか、名の一部は思い出さない風に言うのは、好ましい。宮仕え所おの女房の局などに立ち寄って、夜などに、そうぼやかして言うのは、まあ悪いに違いないけれど、宮中なら主殿寮、そうでない普通の場所では、侍所や、蔵人所にいる者を連れて行って、女を呼ばせるのがよい。自分から呼ぶのでは、誰の声かはっきり分かるので。
 はした者や、童女などの名は、しかし自分で呼んでもかまわない。

■いとにくけれ=身分違いの者が直接口をきく事は当時の社会では憚られた。
■侍(さぶらひ)=侍所。親王・摂関・大臣などの家においた家臣の詰所。
■蔵人所=東宮坊・親王・摂関家における蔵人所。事務を司るところの詰所。
■はした者=半者(はしたもの)。どっちつかずの半端者、樋洗(ひすまし)・御厠人(みかわようど)などよりは少し上位の雑仕の女をさすか。


六〇  若きひととちごとは   (73)  2018.7.29

 若き人とちごとは、肥えたるよし。受領など大人だちたる人は、太きよし。あまりやせからめきたるは、心いられたらむとおしはからる。
◆◆若い人と乳飲み子は、ふっくらしているのがよい。受領などのような充分年輩の人は、でっぷりしているのが良い。あまり痩せてひからびているようなのは、気分がいらいらしているのだろうと想像される。◆◆


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