永子の窓

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蜻蛉日記を読んできて(75)の1

2015年10月15日 | Weblog
蜻蛉日記  中卷  (75)の1 2015.10.15

「なほあやしく、例の心地にたがひておぼゆるけしきも見ゆべければ、やむごとなき僧などよびおこせなどしつつ、こころみるに、さらにいかにもいかにもいらねば、かうしつつ死にこそあなれ、かくて果てなば、いと口惜しかるべし、あるほどにだにあらば、思ひあらむにしたがひても語らひつべきを、と思ひて、脇息におしかかりて、書きけることは、
◆◆その後も相変わらず気分がすぐれず、それが表に表れるらしく、あの人が立派な僧侶などを呼んでよこしてくれたり、祈祷なども試みてはもらうが、一向に効き目が現れないので、こうしているうちに死んでしまうだろう、そうして突然死に直面したら思っていることも言えないであろうと思って、脇息に寄りかかりながら、書いたことは、◆◆


<命ながらふべしとのみのたまへば、見果てたてまつりてむとのみ思ひつつありつるを、限りにもやなりぬらん、あやしく心ぼそき心地のすればなん。つねにきこゆるやうに、世に久しきことのいと思はずなれば、塵ばかり惜しきにはあらで、ただこのをさなき人の上なん、いみじくおぼえ侍るものはありける。たはぶれにも御けしきをば、いとわびしと思ひてはんべめるを、いとおほきなるこなくて侍らんには、御けしきなど見せ給ふな。いと罪ふかき身にはべるは、
≪風だにも思はぬかたに寄せざらばこの世のことはかの世にも見む≫……
◆◆(道綱母の遺言)「まだまだ寿命が長いだろうと、いつもおっしゃってくださいますので、私もあなたと末長く添い遂げ申そうと思い続けておりましたが、どうやら私の命も限りになったのでございましょうか、ひどく心細い気持ちがいたしますので、こうして認めているのです。いつも申し上げていますように、長生きなどまったく考えてもおりませんゆえ、ちりほども命がおしいわけではございません。ただ、この幼い子の身の上ばかりが、この上なく気がかりにおもわれるのでございます。あなたの冗談で機嫌の悪いふりをなさるのさえも、あの子は辛そうでございますから、格別大事でないならば、不機嫌なご様子はお見せくださいませんように。私はまことに罪深い身でございますので。
(歌)あなた兼家が他の女に心を移すことさえなければ、あの世でも道綱を見守ることがぢきましょうが、(どうか私を安心して死ねるようお志をいただきたく)」……◆◆

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