ヒゲジイのアル中よもやま話

断酒を始めて早7年目。このブログは回復プロセスの記録と脳のリハビリを兼ねて綴っています。やはり、まだチョット変ですかネ?

再びアルコール急性離脱後症候群(PAWS)について(上)

2016-02-12 17:35:54 | PAWS
急性離脱後症候群
 症状は、断酒開始後3~6ヵ月目で最も強くなり、6ヵ月~2年で回復する。
  ○ 思考プロセス障害(脳の働きにムラがある;頑なで諄(くど)い
    思考、因果関係を理解できない)
  ○ 情動障害(情動の揺れ)
  ○ 記憶障害(短期記憶の障害)
  ○ 睡眠障害
  ○ 身体的協働性に問題
  ○ ストレス感受性に変化

                  (アルコール依存症専門クリニック教育資料より)

 以前にも取り上げたことがある急性離脱後症候群(Post Acute Withdrawal Syndrome:PAWS)です。

 ウイキペディアで調べてみると、遷延性離脱症候群(protracted withdrawal syndrome)とか離脱後離脱症候群(post-withdrawal withdrawal syndrome)とも呼ばれ、アルコールばかりでなく、ジアゼパムなどのベンゾジアゼピン系精神安定薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を含む抗うつ薬、アヘンなどのオピオイド類の離脱(使用中止)でもみられるもののようです。

 概して不安、興奮、易刺激性(すぐにイライラ)、抑うつなどの精神的症状が、身体症状よりも顕著であるとされています。

 アルコール依存症のPAWSは、断酒後、急性期の離脱症状を経て身体的な健康を取り戻した頃に、上記のような障害を伴って襲ってくる症候群のことです。個人的には上記の直訳よりも “遅発性離脱症候群” の方が実態に即したピッタリな病名ではないかと考えています。

 実際、上記障害の症状は個々に現れて来るというよりも、波状的に強弱を繰り返し、ほぼ同時並行して現れるもののようです。しかも、各症状が一様に持続するわけではなく、ピークの状態であればあるほど異常と自覚しないまま過ごしていることが多いと思います。

 ずっと後になって気付くことが多いので、医師に相談せずに済ましている患者が少なくないのでは(?)と私は睨んでいます。こうしたことから、再飲酒して再発と認定された症例のみに注目が集まり、再飲酒に至っていない症例のPAWSについては等閑視されているのかもしれません。


 今、「再飲酒して(依存症が)再発・・・」と書いてしまいましたが、ドライドランクとも言われている情動障害が断酒継続中に認められた場合、通院中の専門クリニックでは病気の再発と捉えているようです(ご参考まで)。

 断酒歴が2年3ヵ月となった私は、このPAWSを一通り経験したと思っています。結論から先に言うと、PAWSでは各障害が複合的に絡み合って、再飲酒しやすくなる危険性が極めて高いと思います。

 そこで、PAWSについて再び取り上げてみようと思い立ちました。お復習いのため、今までこのブログで述べてきたものを整理してみます。

 まず、1番目の “思考プロセス障害” ですが、以前も述べたように記憶障害や想起障害と深く結びついた障害ではないかと考えています。いざ文章を書こうとする際、似たような言葉や文案が飛び交って頭が混乱し、なかなか考えがまとまらないという障害だからです。(「PAWS(急性離脱後症候群) ― 断酒してボケが始まった?」)その具体的事例についても、PAWSによる悪文見本市として連載記事にしております。

 2番目の “情動障害”(情動の揺れ)とは、所謂ドライドランク(状態)のことと理解しています。ドライドランク(状態)については、今まで何回か繰り返し述べて来ています。ドライドランクという言葉通り、素面でいながら、あたかも酒に酔ったときと同じ気分なのだと思い知らされました。今ではこれが、再飲酒へと誘惑される最も危険な状態だと考えています。具体的には次のようなことでしょうか。

 会話中は妙に浮かれてハシャギ過ぎの傾向になりますし、他人の断酒にもお節介を焼きたくなります。一人静かにしているとき、明鏡止水とでも表現すべき穏やかな気分にもなります。この穏やかな気分になれたことで、妙に(なぜか)回復できたと自信過剰になりやすいのです。これが見かけ上の回復と言われている所以のようです。

 他方、自分の思い通りにコトが運ばないと、気持ちが空回りしたり、胸がザワザワして不吉で不穏な気分に襲われたりもします。要は、飲酒時代にどんな心の動き方をしていたのか、それをまざまざと教えてくれるのがドライドランク(状態)なのだと納得させられました。

 3番目の “記憶障害” については、断酒後の誰にでも必発する障害です。想起障害をも伴うためか、大事なことほど後になってから “気づく” ことが多いようです。価値判断が鈍くなることにもどうやら関係ありそうだと考えています。これについては、今までも散々、悩ましい具体的な事例を上げて述べてきています。(「あなたは “脳組”? それとも “肝組”? (下)」ほか)

 4番目の “睡眠障害” については、頻回の中途覚醒が主でした。断酒10ヵ月後には中途覚醒が1日1回までとなり、現在はほぼ解消しています。また、5番目の “身体的協働性に問題” については、別稿で改めて述べてみようと考えています。

 次回の投稿では、6番目の “ストレス感受性の変化” についての具体的な事例(“情動の揺れ” を伴った実例とも言うべき典型的なエピソード)をご紹介するつもりです。

 PAWSになりやすい時期は情動が不安定のままであること、しかも肝腎の本人がそれを自覚しにくい(自覚できない)ことが最大の問題です。再飲酒した人の体験談を聴けば聞くほど、本人が気付かないまま無意識に飲んでしまったという例が少なくありません。健常人ならば些細なストレスと受け流すところを、PAWS中なら強いストレス並みに過剰に反応してしまうところがあります。感情が大きく動揺している原因が、実は些細なことだとは全く気付いていません。無意識のうちに再飲酒してしまったという事例には、このような “ストレス感受性の変化” が介在していたのではないかと考えています。

 繰り返しになりますが、急性期の離脱症状から身体的な健康を取り戻したこの時期は、ストレスにとても脆弱であり、必然的に受け止め方も偏りがちです。些細なストレスでも、とても危なっかしい反応をしやすい心の状態にあるようです。

 というのが私なりの結論です。もしも、こんな状態でありながら、どうしても仕事をしなければならないとしたら、一体どれだけストレスに耐えられるものなのか? 私には、このような状態でも「真っ当に仕事をして見せてやる」という自信がありません。年金生活者でいられる現在の身分がどんなにありがたいことか、心からそう思っています。

 断酒歴2年3ヵ月となった現在、“断酒に3年 回復に7年” この言葉の意味がやっと分かった気がしています。どうぞ、次回をお楽しみに。



PAWSについての概論はこちらをご参照ください。
 
こちらも併せてご参照ください。
あなたは “脳組”? それとも “肝組”? (下)
 

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断酒中のドライドランクを自己診断できますか?

2015-10-30 18:26:48 | PAWS
 飲酒中にみられるアルコール依存症者の特徴は自己中心的、否認、他罰的、自己憐憫などとされています。

 今回、再び取り上げるドライドランクとは、酒を飲んでもいないのにあたかも酔っ払っているような、断酒中に経験する病的心理状態のことを言います。

 この言葉の起源は自助会AAだと聞きました。日本語訳では「空酔い」とか、「飲んでいない酔っ払い」とか呼ばれています。

 私が通院中の専門クリニックでは、ドライドランクを病気の再発と位置付けています。再飲酒した患者に確かめてみると、例外なく直前にドライドランクになっていて、再飲酒の「スウィッチが入った」状態であったと話す患者もいるそうです。

 以下の項目を読んで、ご自身の心境に当てはまるかお試しください。

 *************************************************************************
 【ドライドランク自己診断チェックリスト】当てはまるものにチェック
    1 ( ) 周囲の人のやることなすことに腹が立つ
    2 ( ) 自分のつらさを分ってくれる人なんて誰もいないと思う
    3 ( ) もう一生酒を飲めない自分はとても不幸だと思う
    4 ( ) うれしいことがあると浮かれやすくなった
    5 ( ) 思いのほか口が達者になって人と話し始めたら止まらない
    6 ( ) 断酒が続いているのを家族が褒めてくれないので面白くない
    7 ( ) 家族の中で自分の立場がなく、情けない
    8 ( ) 気分がよくなったので仕事に復帰しても大丈夫と自信がある
    9 ( ) 仕事上のブランクを早く取り戻したいと焦りがある
   10 ( ) 酒のせいで出世コースから外れた悔しさでいっぱい
   11 ( ) 仕事上の悩みが一日中頭から離れない
   12 ( ) 身近にいる好みのタイプの異性にむしょうに惹かれている
   13 ( ) 時間を持て余していてギャンブルがむやみにしたくなっている
   14 ( ) 自分は他の人よりひどくないと思う
   15 ( ) 飲みたい気持ちが早くも薄れたので、もう回復できたと思う
   16 ( ) 一日が長く感じ、そわそわザワザワして落ち着かないときが
        ある
   17 ( ) 半ば意識が飛んで、自分が今何をやっているのか分かって
        いないことがある
   18 ( ) 酒ぐらい一人で簡単にやめられると思う
   19 ( ) 抗酒剤を飲まなくても酒はやめられると思う
   20 ( ) ノンアルコールのビールなら飲んでみたいと思う
   21 ( ) これだけ断酒を続けたから、一杯ぐらい大丈夫と思う
   22 ( ) 自分はたとえ酒席に出ても絶対に飲まない自信があると思う
   23 ( ) 体験談を語るときは、通り一遍の話を繰り返している
   24 ( ) 自助会のミーティングからしばらく足が遠のいている
   25 ( ) 他の人の体験談はどの人の話も同じに聞こえ飽き飽きする

                      (通院中の専門クリニックの教育資料から)
**************************************************************************

 いかがでしたか? お察しの通り、上にあげた事例はすべてドライドランクのときになりがちな具体例です。多くが日常でもよく経験する僅かな気分の変化としか思えないため、気に留めないでいることが多いと思います。

 もしも、あなたが今ドライドランクの最中なら、意に反して「自分は違う」と密かに否認した項目が多かったかもしれません。すでにドライドランクを脱した後なら、素直に「こんなこともあったなぁー」と認めたことでしょう。

 17番目の項目は、私が “自動行動” と名付けているもので、無意識の内にやってしまう行動のことです。再飲酒に直接繋がる可能性が最も高いものではないかと考えています。

 ドライドランクのときによく見舞われる心理的変化の要約を下に列挙してみます。上表のリストと比べてみてどうでしょうか?


 ○あまりにも良い事があり、回復の目安とされる時期よりも早く訪れたと思う
 ○飲酒をコントロールできるだろうと感じ始めた
 ○断酒を続ける自信が強くなった
 ○自分の力で、道を開いていく自信が強くなった
 ○万能感で自信満々となった
 ○患者仲間や酒好きな人にやたらお節介したくなっている(自我の肥大)
 ○なぜ自分だけがこんな目に遭うのかと可哀そうに思う(自己憐憫)
 ○他人の悪いところが、やたら目についてきた
 ○仲間の体験談が白々しく感じられてきた


 これらは自己中心的、自信過剰、万能感、自我の肥大、自己憐憫などの言葉で説明される心理状態を示していて、上表のリストと合わせると、おおよそどんな気分なのか分ってもらえると思います。自己憐憫の状態になると、容易に他罰的になりやすいとも言われています。
         *   *   *   *   *
 断酒を始めて2ヵ月目ぐらいの頃、専門クリニックの初心者教育プログラムでドライドランクというものがあると教わりました。飲んでもいないのに酔っ払った状態になりがちと聞いたのですが、そう言われても断酒を始めて間もない当時はピンと来ませんでした。

 私の場合は、断酒を始めて4ヵ月目ごろからドライドランクらしい状態が始まったようです。その頃の二つのエピソードをご紹介します。

 人と話しているときに妙にハシャイだ気分となって、些細なことにも笑い転げていました。あくまでも人と話しているときに限り、思いのほか口達者となり完璧に浮ついた気分になったものです。身体的な回復を実感し、それで心にゆとりが出て来たとばかり思っていました。まさかドライドランクなどとは、夢にも思いませんでした。その一方で、一人でいるときには理由もなく(?)気持ちが空回りしているのをよく感じていました。

 次に、第一回目の本ブログでご紹介したエピソードですが、大腸内視鏡検査を受けた日の検査直後、AAで聞いた仲間の体験談に白々しさを覚え、断酒など独力でもできると自信過剰になったことがありました。典型的なドライドランクの症状です。その日の帰り道、今度は一転して不吉で不穏な胸のザワザワ感に襲われました。自信過剰となったことの反動だったのかもしれません。

 上記の二番目の出来事は継続断酒11ヵ月目に経験したものです。その直後にネットで詳しい特徴を知り、初めてドライドランクと納得できました。詳しい知識が得られた以降は、ストレスが懸念される度にドライドランクを警戒し、「あっ、今はアレかも!?」と再飲酒しないよう用心して来ました。このようにできるだけ意識することで、無難にやり過ごすことができたのだと思います。

 回復過程にある脳内環境のバランスは、情動に係る亢進系と抑制系それぞれの回復速度の違いによって、とかく揺らぎやすい状態にあると仮定してみました。そう仮定すると、典型的なドライドランクの症状は、微妙な揺らぎが外からのストレスで一時的に増幅した結果、バランスの不均衡が顕在化し、一過性の情動不安定として現れたものと説明できるようなのです。

 上で述べたエピソードを例に取ると、普通にする内輪の会話などでは軽いストレスが、大腸内視鏡検査などでは強いストレスが、それぞれかかった状態とみることができます。これら外からのストレスに、ドライドランク状態にある脳が敏感に反応した結果が自信過剰や、気持ちの空回り感、胸のザワザワ感として現われたと説明可能なのです。

 身近な患者仲間やAAでの体験談を聞いていると、程度に差はあるものの、誰でも断酒中に気分の昂揚感や胸のザワザワ感を経験しています。私はこれらを総称してドライドランク状態と名付けてみました。ドライドランク状態は、受けるストレスの強弱によって現れる症状の強弱も変化するようです。

 回復プロセスの移行期には、急性離脱後症候群(Post Acute Withdrawal Syndrome:PAWS)の一つとして誰もが必ず記憶障害を経験します。ドライドランク状態は、再飲酒前に限って現れる特異的な症状ではなく、記憶障害と同じく PAWSの一つ情動障害であると、私は考えています。

 断酒継続中のアルコール依存症者は、もっとドライドランクに警戒すべきです。脱したと自覚できるまでは、常に自分はドライドランク中なのだと意識し続けるべきなのです。心当たりに強いストレスと思しきことがあったときが肝腎です。

 ドライドランクになると、たとえ些細な異変であっても、その渦中では自覚できないでいるのが当たり前のようです。泥酔中であっても、酔いを自覚することなく自分は酔っていないと否認するのがアルコール依存症の酔っ払いです。それと同様に、ドライドランク中であればそれと自覚できないでいるのも道理なのです。

 脱した後で初めて自覚するのがドライドランク、そんな厄介な心理状態なのだと考えるべきです。ドライドランクは回復過程に必定です。常に意識しておくことで再飲酒を回避できるのであれば、どんなに注意してもし過ぎることはありません。ドライドランクを初めPAWSの教育にもっと注力してもらえるよう、医療関係者全員にお願いしたいと思います。


断酒中のハイテンションは危ない!(ドライドランク)」も併せてご参照ください。


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アルコール急性離脱後症候群(PAWS) ―― 断酒してボケが始まった?

2015-08-28 19:27:27 | PAWS
 断酒を始めて1年10ヵ月が経ち、憑きモノとも言うべき妄想から脱却できて、一過性に襲って来る情動不安定からも解放されて1年経った現在、平常心のままで過ごす毎日を送っています。

 そんな今、日常生活で何が悩ましいかと問われれば、迷わず記憶機能の劣化、特に言葉の想起能力の低化と答えることにしています。モノ忘れの酷さと中々言葉を思い出せない辛さのことです。アルコールが残した毒性の残滓なのか、あるいは加齢が原因なのか、その両者が原因とも考えられるので一層切なくて悩ましいのです。

 専門クリニックの教育プログラムで、断酒を継続中の今の時期にみられる症状として、急性離脱後症候群(Post Acute Withdrawal Syndrome:PAWS)というものがあることを知りました。症候群という名称どおり病状は以下のように多岐にわたるようです。

【急性離脱後症候群】
 症状は、断酒開始後3~6ヵ月目で最も強くなり、6ヵ月~2年で回復する。

 ○思考プロセス障害(脳の働きにムラがある;頑なで諄(くど)い思考、
  因果関係を理解できない)
 ○情動障害(情動の揺れ)
 ○記憶障害(短期記憶の障害)
 ○睡眠障害
 ○身体的協働性に問題
 ○ストレス感受性に変化


 今の私に最も顕著に当て嵌まるのが、3番目の “記憶障害” と1番目の “思考プロセス障害” だと思います。この順番は、私が自覚し始めた順番です。

 断酒を始めて3ヵ月後ぐらいから顕著に自覚し始めたのがモノ忘れの激しさ、つまり “記憶障害” でした。日常生活で自覚するようになった事例を順に挙げると、以下のようになります。掲げた順番は、先に挙げた事例が改善してあまり気にならなくなってから、新たに次の事例がはっきり自覚されるようになったという順番です。


1)名前を告げられても、その端から失念し覚えられない。
2)すぐにメモしようとしても、メモする内容を失念し思い出せない。
3)つい今し方決めたことでも、その場から眼が離れた途端に失念し、
  無意識に習慣的な別の行動に移ってしまう。
4)人前で発表中に、続けて話そうとした次の話題を失念し話が飛ぶ。


 いずれにも共通しているのが短期記憶の障害という点です。この内、1)と2)については、今は大分改善して気にならなくなっています。3)と4)については現在進行形の悩みです。ただし、4)は習慣的飲酒が始まる以前から、大勢の前で発言する緊張のためによくあったことでもあり、アルコール問題とはあまり関係ないのかもしれません。

 私が特に注意すべきと考えているのは3)です。3)はその場から一時的でも(視線が)離れた時にいつでも起こりうることで、無意識に習慣的な別の行動に移っていることが多々あります。無意識に習慣的な別の行動に移ることを私は自動行動と呼ぶことにしていますが、自動行動には危険を伴うことも多々あります。たとえば、別件に気を取られて少しの間ガス・コンロを離れた隙に、ヤカンを掛けていることを忘れてしまい、ヤカンを空焚きしたことがありました。しかも、性懲りもなしに同じことを何回も経験しています。幸い熱センサー付きのガス・コンロだったので事なきを得ましたが、その度に肝を冷やしました。“ガス・コンロでヤカン空焚き” 事件以外にも、次のようなことが始終あります。


 ○自販機でつり銭に気を取られて商品を取り忘れ
 ○受診後、他のことに気を取られて医療費支払(会計)をせずそのまま帰宅
 ○ヴェランダで喫煙する時、喫煙終了後にアルミサッシ戸を開け放つのを
  失念

 火を使う場合などには、意識が途切れないようにその場に付きっ切りでないと危なくて仕方ありません。断酒経験の結構長い人でも無意識のうちに再飲酒していた話などは、長年の飲酒習慣が身体に染みついた自動行動そのものとも見えるので、この短期記憶の障害によるものかもしれません。

 専門クリニックの院長はあまり心配しなくてもよいと言います。これらの記憶障害は飲酒時代にもあったことで、アルコールの作用で隠されていて気付かなかっただけで、断酒したことで顕在化したのだと言うのです。回復するのか聞きそびれてしまいましたが、そこそこ回復するものの、結構長引くのではないかと勝手に解釈しています。

 実は、今最も悩ましく感じているのは “思考プロセス障害” です。“思考プロセス障害” の特徴は、頑なで諄(くど)い思考や、因果関係を理解できないことにあるそうです。いずれもこのブログを記述する作業でしばしば痛感させられているところです。“話しことば” を使う会話でなら、障害を強く自覚することはなかったと思いますが、“書きことば” を使うブログならではの悩みだと考えています。会話では、目当ての言葉が出て来なくても、チョット変(!?)ぐらいで済ませられますが、書いたものは後から読み返すことが出来るので、異常だと分かるのです。

 頭の中で考えている時は “話しことば” を使います。考えを “書きことば” に変換するには、“書きことば” 特有のルールに合わせる必要があります。“書きことば” には、漢語的表現を優先使用するとか、修飾語の順序や読点の打ち方などに特有のルールがあり、会話とは異なる別の思考回路が必要です。この思考回路の変換にもアルコールが障害を残しているとも考えられます。そんな大袈裟なものではなく、単なる注意力散漫のせいなのかもしれませんが・・・

 実のところ、“思考プロセス障害” には記憶障害の一部、“想起障害” が間違いなく絡んでいると考えています。“想起障害” とは目当ての言葉を思い出すのに時間がかかることを言います。いわば、旧式 “蛍光灯” 状態のことです。“意気投合” などはありきたりの四文字熟語ですが、意味が分かっていながら目当てのこの熟語が思い浮かばず、もどかしい思いのまま2~3日苦しんだこともありました。

 記述しているときに、“思考プロセス障害” によると思われる次のような事例がよくあります。


 ○目当ての言葉とは別の、(意味が)近似な言葉だけがランダム(無秩序)
  に複数想起
 ○慣用的な言い回しを近似な言葉の代用で表現
  (例:当然の帰結→当然の結末)
 ○的確な言葉が思い浮かばないので近似な表現の繰り返しで代用
 ○翻訳調のぎくしゃくしたぎごちない表現(諄い言い回し)
 ○直近に使用した(近似な)言葉に引き摺られ、不自然な表現や論理から
  ズレた論旨展開
 ○不自然な助詞の使い方
 ○“書きことば” 特有のルールから外れた記述(失念からか?)


 “書きことば” 特有の思考回路が鈍くなっていることに加え、“想起障害” も絡んでいるので、回復過程にある私には二重に高いハードルが設定されているようなものです。私は “思考プロセス障害” のことを、上記のように理解しています。実例を見ないことには、お分かりいただけないと思います。次回は、過去の投稿文から “思考プロセス障害” によると思われる実例をお見せする予定です。


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回復へ―アル中の前頭葉を醒まさせる

2015-06-05 19:56:58 | PAWS
 つらつら思うに、まともな精神状態というのは微妙な脳内バランスで成り立っているのだと思えてなりません。毎日通院しているアルコール依存症専門クリニックで、先日患者と医師によるQ&Aの集いがありました。そのときの医師の説明を聞いて、バランスを崩しやすい脳の仕組みの繊細さを強く考えさせられました。

 アルコールはアヘン・モルヒネと同じ抑制系の依存性薬物だそうですが、当然ながら大脳新皮質の代表である前頭葉にも、旧皮質の大脳辺縁系にも共通して抑制的に作用するといいます。新皮質の前頭葉は人類に固有な理性を司り、旧皮質の大脳辺縁系は動物に共通する本能的な情動(性欲、食欲、睡眠欲)を司るといいます。

 アルコールを飲むと、より精巧(虚弱)に出来ている前頭葉の方がより強く抑制を受け、結果的に大脳辺縁系の影響力の方が優位になってしまうそうです。理性を司る前頭葉の方がより強く抑制されるのですから、相当量のアルコールが入ると軛(くびき)が解かれたように妙に浮かれたり、本能丸出しになったりするのでしょう。

 しかも困ったことに、断酒してアルコールを断ってもアルコールの脳への影響は長く続き、大脳辺縁系優位の状態も思いのほか長く続くのだそうです。前頭葉が酔い潰れた状態のままで中々醒めてくれない、とでも言えばいいのでしょうか。

 私は断酒前の相当以前から、脳を薄物で被われているようなモヤモヤした感覚に悩まされていました。さらに、定年退職前後から連続飲酒状態となって以来、得体の知れない憑き物に囚われるようにもなりました。

 それは物の怪に取り憑かれたという表現がピッタリくる病的状態で、性欲を刺激し続けるような “妄想” でした。

 肉体的にはED状態に近かったのですが、精神的には性的欲望の塊みたいな状態でした。断酒を始めてもこの状態が鎮まることはなく、一人になると決まってAV動画(もちろん無修正かつ無料)に引き込まれる事態が続いていました。精神的にのみ性的に興奮している状態は拷問のように酷いものです。飲酒欲求はなかったものの、ほとほと困り果てていました。今から思えば、あれこそがアルコールの遺した置き土産だったのだと納得しています。

 そんなある日、ヤケクソからAV動画を文章で描写することを始めてみました。動画再生開始から時間経過を追って、あたかも脚本を再現するかのように女優と男優の形態や、動作と声を記述しました。

 初めは簡略なものでしたが、次第に部分的に詳細になり、最後の方の作品では全編にわたり緻密な記述になっていきました。今数えてみると、その数たるや22作品以上になっています。最初は半端な気持ちでしたが、そのうち本気になり夢中でやっていました。

 いかにして “観客” の劣情や妄想を掻き立てようと演出(?演技の順番など)で工夫したのか、あるいはそれが失敗に終わったのか、この記述作業によって遂には製作側の意図が全て透けて見えるまでになりました。醒めた眼で画像を見続け、PCのキー・ボードを叩き続けました。さすがに最後の方の作品ではシラケが先立ってしまいましたが・・・。

 おかげで断酒10ヵ月後には、ポルノを目にすると決まって感じていた後ろめたさや、気恥ずかしさもなしに醒めたまま眺めていられ、何よりもポルノ一般への性的興味が完全に薄れてしまいました。得体の知れない憑き物がいつの間にかすぅ~っと消えていたのです。同時にその後は、何かとアルコールに囚われていた強迫感も消えてしまいました。

 PCを前にしてエロ画像を凝視しながらキー・ボードを夢中に叩いている老人の姿を想像してみてください。夢中になって取り組んでいるのがエロ文書の作成だけに、真剣な姿を見て気味悪がるか、滑稽で笑ってしまうかです。知的作業を装う変態エロ・ジジイにちがいありませんが・・・。

 しかし、悩ましい対象から眼を逸らさずに問題を直視すること、それを言語化という論理的な世界に引き摺り出すこと、さらに物語として綴り客観化すること、これらを実践することによって前頭葉の機能が確実に回復するものだと実感しました。脚本(?)の復元作業が情念優位の精神世界から論理優位の精神世界へと、秩序ある平穏な脳に戻してくれたのだと考えています。

 ここに至るまでには伏線が二つあります。一つは、過去の酒害体験を物語風に叙述したことです。これは断酒3ヵ月後から始めました。

 思い付くまますべての事象や症状ごとに叙述しました。その際にこだわったことは5W1H、特にWhy(なぜ)でした。さらに、誤魔化したり取り繕ったりしないで、的確な言葉が出て来て納得できるまで徹底的に表現にこだわりました。そうすることによって、ことが起きた当時の感情の起伏やその原因となった状況の分析ができるようになったと思います。おかげで心の奥底に澱んでいた蟠(わだかま)りが大分解消できました。

 想起障害というのだそうですが、的確な言葉がなかなか出て来なくてもどかしい思いも随分味わいました。意識してさえいれば意図する言葉は必ず思い出せるものです。目指す言葉は時や場所を選ばず不意に浮かんできますから、いつでもメモできるように備えておくことをお勧めします。こうして記憶の中に埋もれていたものを言語化し、それを論理的に叙述することによって客観化したのです。

 自助会AA(Alcoholic Anonymous)には回復へのプログラムというものがあります。その中のステップ4にこういう記述があります。
「恐れずに、徹底して、自分自身の棚卸しを行い、それを表に作った。Made a searching and fearless moral inventory of ourselves.」
棚卸の原語inventoryとは明細目録のことだそうですが、私が実行した酒害体験の物語風叙述は、まさにステップ4そのものでした。

 12ステップからなる回復へのプログラムはプロトコル(protocol:実験計画書)とその実体験記の両者を兼ねているもの、と私は考えています。(因みに12ステップは全て過去形で書かれています。)AAはアルコール依存症からの回復者を、信仰の有無に関わらず、多く生み出した実績を持ちます。

 回復へのプログラムはそのAAが勧める実証的な方法論であり、ステップ4はその根幹だと思っています。AAの回復プログラムは、再現性が担保された実証的な自然科学そのものです。

 もう一つの伏線はもちろんAAのミーティングへの出席です。断酒6ヵ月目から週1回、8ヵ月目からは週2回の頻度で参加し始めました。

 静かに黙想しながら聴き手に徹していると、胸の奥に隠れていた記憶がチクチク刺激され蘇ってきます。話し手となって自らの体験を物語れば、全く予期していなかった本音のことまで思わず口をついて出てきます。これらも前頭葉のリハビリになっているに違いありません。

 AAのミーティングに参加すると、このようにほぼ毎回カタルシスを手土産に家路へ帰ることになります。頭の中だけで考えているとどうしても堂々巡りになりがちですが、そんなことでは決して得られない心境です。

 以上の三つの知的作業体験が前頭葉の機能を鍛え直し、まともな状態の脳に戻してくれたのでしょう。飲まないでいることが普通で、少々のストレスにも動揺しない平常心が得られつつあります。

 平衡を保っている天秤の一方の重りがほんのわずかに偏っただけで、天秤のバランスは決定的に崩れるという結末となります。

 アルコールによる前頭葉と大脳辺縁系とのバランスの崩れも、恐らく始めはわずかな偏りからなのでしょう。それぞれの神経細胞のシナプスから放出される神経伝達物質群(ドパミン、脳内セロトニン、GABA、内因性オピオイドなど)のわずかな偏りがその原因なのかもしれません。

 天秤のバランスの崩れは重りを補正すればよいのですが、脳内のバランスの崩れは前頭葉の機能回復でしか補正できないようなのです。少なくとも補正してくれる薬はありません。補正には前頭葉を目一杯働かせ活性化させるしか手がなさそうです。

 前頭葉をアルコールから醒めさせるには、前頭葉の得意な作業をさせることが一番効果的と考えています。悩みを言語化することと、それを論理的に叙述して客観化すること、これは前頭葉が得意とする作業です。AAのいう “心の落ち着き(serenity)”=平常心が得られること請け合いますよ。


本ブログ内の『心の落ち着きが分かる?(言語化入門)』、『“空白の時間(とき)”と折り合う』も併せてご参照ください。


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