毎日通っている市役所ですが、ロビーは玄関を入って右側にあります。そのロビーの壁側には新聞掛けと大型テレビが据えられていて、その向かいに6、7人掛けのソファーがあり、ソファーの後ろの窓側に丸テーブル2つとそれぞれに肘掛け椅子4脚が置かれています。
業務が始まる前の市役所ロビーには常連がいます。新聞が目当ての人が2、3人(この中に私もいます)、他に毎日ここを集合場所にしているらしい男性3人グループも近頃の常連です。
その日は、常連の中では私が一番手で、他に若い女性が一人ソファーに腰掛けているだけでした。彼女は青白い顔色で、人物を吟味するような視線が印象的でした。
いつも通り、道で拾ってきたゴミ袋をぶら下げ、愛読紙を奥の方にあるテーブル席に確保して、それから屋外のゴミ置き場に向かいました。そして、テーブル席に戻って新聞を読み始めました。私の足下にはトングと予備のゴミ袋を置いていました。
「ゲームのピコピコ・ピーピーがうるさいので止めてください! ここは大の大人がゲームをして遊ぶところではありません! すぐに止めてください!」声の主はあの若い女性でした。
言われた方は3人グループの中の一人でした。それまで大声で交していた会話が止んだと思ったら、中の一人が抜けたのでゲームを始めていたのです。
そのグループには鼻が詰まって舌のもつれた話し方をする人がいて、声も大きいので彼らの会話は喧しいったらありません。私も内心苦々しく思っていたので思わずニンマリしてしまいました。一喝された彼らはすごすご去って行きました。
さて、一服しようと席を立って辺りを見ると、彼の女性は玄関脇の机に移っていました。あれだけのことを言ったのですから高ぶった気持ちを鎮めようとしているとみた私は、少しでも励ましになればと玄関を出がけに彼女に声を掛けてみました。
「よく言ってくれました。」こう話しかけた途端、彼女はくるりと背を向けてしまいました。そのときは、「(この人ちょっと変!)」と思ったぐらいでそのまま外に出ました。
外から席に戻って直ぐに、職員らしき男性が近寄って来て、足下のゴミ拾い道具が私の物か聞いてきました。私の荷物と確認できたのでその男性は去って行ったのですが、すかさず現われたのが彼の女性。
「ゴミ袋をロビーに持ち込むのは止めてください。目障りで不快です! 直ぐにどうにかしてください!」目は私の目をまっすぐ見据え、早口ながらも声を抑えた口調でした。
「それに、新聞を置いたまま席を立つなんてダメですよ! 新聞の私物化じゃないですか?! みんなの新聞ですよ! 新聞を独り占めするのは止めてください!」
「そうおっしゃるあなたは、どんな資格があって言ってるんですか?」
「言う必要はありません!」
全く取り付く島がありませんでした。
つい最近も、いきなり刃物で切りつけられる事件があったことですから、ここはひとまず穏便に収めようと警備員に相談してゴミ拾い道具を玄関脇の物陰に移しました。新聞の方は、無視を決め込むことにしました。
前置きなしにズバリ切り込んでくる気迫と、声を抑えた口調には凄みがあって、彼女には唯々圧倒されっぱなしでした。さすがに心拍数が跳ね上がって、しばらくは新聞に集中できませんでした。なるほど機先を制するとはこのことか、と妙に納得してしまいました。新聞を読み終わった頃、彼女の姿は消えていました。
字面をそのまま追ってみれば、彼女の言い分は正論です。一々ごもっともと言うしかありません。恐らく彼女は、自分が正義と信じ切って疑わない人なのです。こういう思い込みの強いタイプは野党の国会議員にもウジャウジャいますが、彼らの場合は政治的演技もありそうです。
ところで、正義がいつも正しいとは限りません。戦争はいつも些細な諍いが発端で、諍いはいつも正義を一方的に言い張り合うことから始まります。これは歴史の定番です。そして、勝った方が正義だというのも歴史が示す通りなのです。正義とは斯くもいかがわしいものです。
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その日は、常連の中では私が一番手で、他に若い女性が一人ソファーに腰掛けているだけでした。彼女は青白い顔色で、人物を吟味するような視線が印象的でした。
いつも通り、道で拾ってきたゴミ袋をぶら下げ、愛読紙を奥の方にあるテーブル席に確保して、それから屋外のゴミ置き場に向かいました。そして、テーブル席に戻って新聞を読み始めました。私の足下にはトングと予備のゴミ袋を置いていました。
「ゲームのピコピコ・ピーピーがうるさいので止めてください! ここは大の大人がゲームをして遊ぶところではありません! すぐに止めてください!」声の主はあの若い女性でした。
言われた方は3人グループの中の一人でした。それまで大声で交していた会話が止んだと思ったら、中の一人が抜けたのでゲームを始めていたのです。
そのグループには鼻が詰まって舌のもつれた話し方をする人がいて、声も大きいので彼らの会話は喧しいったらありません。私も内心苦々しく思っていたので思わずニンマリしてしまいました。一喝された彼らはすごすご去って行きました。
さて、一服しようと席を立って辺りを見ると、彼の女性は玄関脇の机に移っていました。あれだけのことを言ったのですから高ぶった気持ちを鎮めようとしているとみた私は、少しでも励ましになればと玄関を出がけに彼女に声を掛けてみました。
「よく言ってくれました。」こう話しかけた途端、彼女はくるりと背を向けてしまいました。そのときは、「(この人ちょっと変!)」と思ったぐらいでそのまま外に出ました。
外から席に戻って直ぐに、職員らしき男性が近寄って来て、足下のゴミ拾い道具が私の物か聞いてきました。私の荷物と確認できたのでその男性は去って行ったのですが、すかさず現われたのが彼の女性。
「ゴミ袋をロビーに持ち込むのは止めてください。目障りで不快です! 直ぐにどうにかしてください!」目は私の目をまっすぐ見据え、早口ながらも声を抑えた口調でした。
「それに、新聞を置いたまま席を立つなんてダメですよ! 新聞の私物化じゃないですか?! みんなの新聞ですよ! 新聞を独り占めするのは止めてください!」
「そうおっしゃるあなたは、どんな資格があって言ってるんですか?」
「言う必要はありません!」
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つい最近も、いきなり刃物で切りつけられる事件があったことですから、ここはひとまず穏便に収めようと警備員に相談してゴミ拾い道具を玄関脇の物陰に移しました。新聞の方は、無視を決め込むことにしました。
前置きなしにズバリ切り込んでくる気迫と、声を抑えた口調には凄みがあって、彼女には唯々圧倒されっぱなしでした。さすがに心拍数が跳ね上がって、しばらくは新聞に集中できませんでした。なるほど機先を制するとはこのことか、と妙に納得してしまいました。新聞を読み終わった頃、彼女の姿は消えていました。
字面をそのまま追ってみれば、彼女の言い分は正論です。一々ごもっともと言うしかありません。恐らく彼女は、自分が正義と信じ切って疑わない人なのです。こういう思い込みの強いタイプは野党の国会議員にもウジャウジャいますが、彼らの場合は政治的演技もありそうです。
ところで、正義がいつも正しいとは限りません。戦争はいつも些細な諍いが発端で、諍いはいつも正義を一方的に言い張り合うことから始まります。これは歴史の定番です。そして、勝った方が正義だというのも歴史が示す通りなのです。正義とは斯くもいかがわしいものです。
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