ヒゲジイのアル中よもやま話

断酒を始めて早7年目。このブログは回復プロセスの記録と脳のリハビリを兼ねて綴っています。やはり、まだチョット変ですかネ?

再びアルコール急性離脱後症候群(PAWS)について(下)

2016-02-26 18:16:55 | PAWS
【急性離脱後症候群】
 症状は、断酒開始後3~6ヵ月目で最も強くなり、6ヵ月~2年で回復する。
  ○ 思考プロセス障害(脳の働きにムラがある;頑なで諄(くど)い
    思考、因果関係を理解できない)
  ○ 情動障害(情動の揺れ)
  ○ 記憶障害(短期記憶の障害)
  ○ 睡眠障害
  ○ 身体的協働性に問題
  ○ ストレス感受性に変化

                   (アルコール依存症専門クリニック教育資料より)

 今回は5番目の “身体的協働性に問題” についてです。気持ち(意識)通りに身体が動いてくれないことと理解しています。気持ちばかりが先走って、身体の動きが気持ちに付いて来てくれないと思うことが多いこの頃です。

 会社勤務時代の現役の頃、酒を飲まずに済ました日はないほど毎日飲んでいました。それでも、55~56歳頃までは、歩いていて若いOLに追い越されることなどありませんでした。むしろどんどん追い越していたものです。ところが、58歳頃からハッキリ歩く速さが落ちて、若いOLにもやすやす追い越されるようになってしまいました。

 これも会社勤務時代の同じ頃のことです。階段を上るときに足裏の後半分、つまり踵全部が段からはみ出た状態で階段を上っていました。階段を見ながら上るわけですから、つま先を踏み込んで踵まで段に乗せることは自然に出来るはずなのですが、つま先と段の奥行との間合いが取れなくなっていたのだと思います。歳を重ねるにつれ、“踵はみ出し” の度合いがひどくなって行きました。それでも周りを見ていると、同じ様な “踵はみ出し” 人が同年配以上に多いと確認できていたので、別段変だとは思わずに過ごしてきたものです。中には足のバネを維持するため、意識的に “踵はみ出し” をやっていたと証言する人もいるのですが・・・。

 断酒を始めてからビタミンB1の点滴を受け、歩く速さが回復していると思えています。階段を上る際の “踵はみ出し” は気にならなくなりました。つま先から踵まで足裏全体を段の奥まで踏み込んでいると実感できているのです。それで、現役時代にあった脚の動作のチグハグさがアルコール依存症の進行と深く関係していたのでは(?)、と疑うようになったのです。

 PAWSのせいでは(?)と思われるこんなエピソードがあります。断酒を始めて1年7ヵ月経ったある日のことです。国道2号線を歩いていたら、少し先の横断歩道の信号が青になりました。信号が青の内に横断歩道を渡り切ろうと思い、少し手前から最短距離を斜めに走って渡ろうとしました。舗道と車道とは高さ20 cmほどの低いブロックで仕切られています。その低いブロックの仕切りを走って飛び越えたつもりでしたが・・・、足を引っ掛けて車道の真ん中に転がってしまったのです。

 ブロックの高さを見誤ることなど以前なら考えられないことです。同年輩の男性が駆け寄って来て、助け起こしてくれました。この助けがなかったら、しばらく立ち上がれなかったと思います。右手は擦り傷いっぱいでした。近くのスーパーで傷バンを買い求め、応急処置をしたものです。気持ち通りに体が反応するとは限らない、実感しました。

 実は、走り始める少し前から、疲れで向う脛に少し強張りを感じ始めてはいました。引っ掛けたのが先に振り上げた右足なのか、踏み切った左足なのかは分かりませんが、多分後の左足だったのでしょう。ブロックの高さを見誤ったせいなのか、それとも老化による跳力の衰えなのかは分かりません。これ以降はすっかり自信をなくし、無理をしないよう自戒しています。

 これに関連し、こんなことも始終あります。衝立には足が備わり、掲示用の盤面と足が直角に交差して直立しています。衝立との間合いを測り損ねたためなのか、つい自分のつま先を衝立の足にぶつけてしまうことがあるのです。一々足元を見なくても、ぶつけることなど以前にはなかったことです。これと同じようにモノとの間合いが取れていないことから、一瞬ヒヤッとすることがよくあります。やはり視覚との関係でも何か問題があるのかもしれません。

 実の話、今でも他の通行人に追い越されることが依然として多い状態です。速足で歩こうとしても、気持ちだけが先走って、脚の遅さに内心つんのめりそうな感じです。脚が思うように動いてくれないのです。これらはやはり老化のせいなのか、それともアルコールが遺した置き土産のPAWSのせいなのか、医師に相談しても両者ともあり得ることとハッキリしません。

 結局これらPAWSの障害の多くは深いところで根が共通し、一つに繋がっていると思えてなりません。しかし、それがどういう仕組みでなのかは分かりません。想起障害を含む記憶障害を筆頭に、思考プロセス障害や、些細なストレスにも過剰に反応すること、チグハグな身体の動作、これらは老化現象でもありうることです。相当長く続くものと覚悟は出来ています。

 さて、次のエピソードはPAWS の “身体的協働性に問題” という本題とは筋違いなのかもしれません。が、視覚と意識のズレの問題に関係しているかもしれないので以下にご紹介します。事件の直後に残したメモの原文のままです。

***********************************************************************************
 近頃、目に写っているはずなのに、見えていないことが多くなった。路上のゴミ拾いでも、ついさっき見ていたはずの足元にタバコの吸い殻を見つけてビックリすることがある。視野には入っていたハズなのに、単なる見落とし? 意識に上って来なかったために、その存在に気付けなかったのだと思う。神経回路がどこかイカレているのかもしれない。

 十日戎の日、朝早く家を出てエビスさんへ歩いて向かった。正月の注連飾りを納め、参拝後には評判の映画を観ようと決めていた。

 いつものように道すがら、路上のポイ捨てタバコの吸い殻を拾いながら神社に向かった。神社に近づくにつれ、縁起物の福笹を手にしている人の姿が多くなった。中には10~15本ほどの福笹を胸に抱えている人もいた。すれ違うこれらの人々を見て、歩きながらぼんやりと違和感を持った。それが福笹を家に忘れてきたこと・・・とは気付けなかった。

 神社の大門を入ってすぐのところに納札所がある。納札所に注連飾りを納めるとき、福笹や縁起物の熊手などが山のように積み上がって納められているのを見た。拝殿門では、左隅に安置してある大マグロに大勢の人々が群がっている様子が見えた。例年通り、相変わらずの光景と眺めた。本殿の前で手を合わせた後、拝殿を出た。拝殿出口の門外で福笹を売っていた。その様子を見て、「確か元旦に買い求めたのでは・・・」とあらぬことを想いながら買わずに通り過ぎた。神社を出て、映画を観に三ノ宮に電車で向かった。電車内でも福笹を持っている人を見かけた。何とも思わなかった。

 福笹の異変に気付いたのは映画を観終え、帰り道でのことと思う。“映画を観に行く”、たった一つのことに気もそぞろで、目には映っていながら何も見えていなかった。

 家を出る前に、去年の福笹が箪笥の上に飾ってあるのを目にしていたのは確かだ。行き交う人々が福笹を手にしているのも見ている。福笹売り場の前も通った。それなのに十日戎が福笹を求める日であることにちっとも気付けなかった。一つのことに気を取られたら、同時に複数のことには気が回らないクセの再発か? そういえば昔、子供みたいに一つのことしかできないヒトだ、と部下にからかわれて腹を立てたことがあったと思い出した。

 目には映っているはずなのに、意識に上ってこない ―― あるいは見落としている。単なる見落とし? それにしてはオカシイ。

*********************************************************************************
 もちろん、翌日エビスさんに再び詣で福笹を買いました。この件で相談に乗ってくれた医師はこう言いました。
「よくあることと思いますよ。視野が欠けているわけではないし・・・、視覚情報を処理するRAMの容量不足で処理能力を超えた、このように考えればいいのでは・・・」私はこの領域に詳しくないのですが、視覚情報にタグをつけて整理する海馬のメモリー容量が不足しているため(?)の現象と理解しました。

 評判の映画に気もそぞろがストレスとなって、そんなストレスへの過剰な反応に過ぎなかったのかもしれません。あるいは、その映画が期待ほどではなかったので、意識下あった福笹の情報がやっと記憶装置に取り込まれ、意識に上った・・・こんなことだったのでしょうか。

 最後になりますが、私が使用していた薬剤についても触れておきます。アルコールと同じようにPAWSがあると報告されている精神安定薬ジアゼパムは、2mgを断酒開始から12週間に限り服用していました。以来2年以上経った現在も使用していません。ご参考までに。


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再びアルコール急性離脱後症候群(PAWS)について(中)

2016-02-19 08:27:21 | PAWS
【急性離脱後症候群】
 症状は、断酒開始後3~6ヵ月目で最も強くなり、6ヵ月~2年で回復する。
  ○ 思考プロセス障害(脳の働きにムラがある;頑なで諄(くど)い
    思考、因果関係を理解できない)
  ○ 情動障害(情動の揺れ)
  ○ 記憶障害(短期記憶の障害)
  ○ 睡眠障害
  ○ 身体的協働性に問題
  ○ ストレス感受性に変化

                   (アルコール依存症専門クリニック教育資料より)


 今回は、6番目の“ストレス感受性の変化”についての具体的な事例 ―― “情動の揺れ” を伴った実例とも言うべき典型的なエピソードをご紹介します。

**********************************************************************************
 酒を断って飲まない生き方を始めて1年6ヵ月経った頃の話です。“憑きモノが落ちた” 体験を経てからも、すでに8ヵ月経っていました。アルコールの軛から解放されたと有頂天な気持ちはまだ続いていました。その経験をひけらかしたくて仕方なかったのだと思います。ある日、自助会AAミーティングで司会のT氏から久々に発言の機会が与えられました。これを機会にと、アル症の初診断時から “憑きモノが落ちた” 体験までを夢中になって一気に語りました。

 会社勤務の現役時代、会社で毎日の深夜残業後に居酒屋通いが始まり、飲み方の異常(な習慣)が本格的に定着してしまったこと。その結果として医者から振戦を診咎められ、アルコール依存症と初めて診断されたこと。定年まで何とか勤務を続けられたものの、退職を機に連続飲酒状態に陥り、“底着き” を経て専門クリニックに毎日通院が始まったこと。断酒後、ひどい記憶障害を自覚したことから酒害を忘れないように叙述し始め、併せて回復期の症状をも記録に残そうとしたこと。それが自分史執筆のキッカケとなったこと。ドライドランク状態から性的妄想に悩まされ、嵌ってしまったAV動画の内容を文章で描写し始めたこと。その結果として “憑きモノが落ちた” ように妄想から解放され、頭にヴェールを被ったようなモヤモヤした感覚が消えたこと。この出来事以降は、平常心が得られプラス思考になれたこと。こんな盛り沢山の内容だったと思います。

 私としては端折りに端折って話したつもりでしたが、閉会時刻を大幅(?)に超過してしまいました。盛り沢山の内容をしかも端折られて話されては、聞いている方も堪ったものではなかったと思います。語りまくりで気分が昂揚していたので、時間超過がどれだけだったのか覚えていません。体験談を語ることは、アルコールの残渣でモヤモヤしたままの脳を活性化させるのに必ず効くと確信していました。胸に秘めた欲求不満の悩みや不安の単なる捌け口としての効用だけではないのです。ですから、自分の体験を是非皆に聞いてほしい、少しでも皆に共有してもらいたい、という一心だったのです。

 2~3日後の別のAAミーティング会場でのことです。会が始まる少し前、T氏がすっと私の坐っていた隣に腰かけ、こう話しかけて来ました。
「なぁヒゲジイさん、話が長すぎるよ。時間超過には注意してくれ。会の運営者として時間の割振りが狂って困る。」
「失礼しました。途中で打ち切ってよかったのに・・・。これからは途中で打ち切ってもらって結構ですよ」
と苦笑いしながら答えたのですが、話の途中で打ち切るという提案にT氏は何も答えないまま、自分の席に戻って行きました。これにはこちらも気分を害しました。

 AAミーティングはガイドブックの朗読から始まります。いやな気分を引き摺ったままでは発言する気分にもなれなかったので、発言機会を放棄する意志表示を兼ねて、ガイドブックの朗読を志願しました。ガイドブックの朗読者には発言を求めない、という暗黙の了解がAAにはあります。

 私は、AAミーティングでの時間の按分は司会者の務めで、発言者は時間に配慮しなくてもよいものと勝手に考えていました。“自分に正直に” 自己の体験談を話すということとは、発言者が臆せず、取り繕わず、躊躇もせずに思い切って胸中を曝け出すことであり、時間も気にせず無我夢中になり切らなければ意味がないと単純に思い込んでいました。そうすることが眠っている記憶を呼び覚まし、ひいては脳(前頭葉)の活性化に繋がるのだと固く信じていたのです。

 断酒歴が10年以上と長いベテランのT氏ですから、当然回復のプログラムにある “棚卸し” を済ませており、体験談を発表する意義も効用も理解しているものと思っていました。つまり、私とまったく同じ考えを共有している人物だと勝手に思い込んでいたのです。ですから、T氏の発言が無理解にみえ、妙に腹が立ったのです。

 休診日を挟んで4日経っても、件のシコリが残ったままで、AAミーティング出席を止めようとさえ考えていました。そこで専門クリニックの相談員(ソーシャルワーカー)に鬱憤を聞いてもらうことにしました。
「そう・・・、後から注意を受けたんですか。自助会の運営については意見の対立がよくあるそうですよ。それで所属グループを転々とする人もいると聞いています。で・・・、どう考えてみるつもり?」
その言葉でT氏が自分の思い通りにAAミーティングの運営がしたい、そういう考えの持ち主であったことを思い出しました。AAミーティングの運営方針で仲間と衝突したことがある、と以前何度か体験談で語っていたのを聞いたことがあったのです。
「へぇー、同じようなイザコザ結構あるんですね!? せっかくのよい機会ですから、文章に書いて気持ちを整理してみます。」
「そう、いつものように得意の “言語化” ですね? 成果を期待してますよ!」

 私は、AAミーティングについてT氏が心にシコリのようなものを持っているのだと初めて気付かされました。ミーティング会場を借りている手前、司会者として時間厳守は尤もですし、発言者に自律を求めるのも尤もなことです。多くの参加者に発言の機会を持たせたいという考えなのかもしれませんし、発言者に中断を強いるべきではないという主義なのかもしれません。他にも何か固執(こだわ)りがあるのかもしれませんが、分からなくてもいいのです。

 あの場では、もう一歩引いてみて、T氏の立場にも思いを馳せるべきだったのだと思い至りました。私も、自分の考えばかりが正しいと一方的に固執(こだわ)っていたのです。気持ちの整理がついた私は、多少シコリが残ったままでしたが、今まで通りミーティングへ参加し続けようと心に決めました。

 “憑きモノ”  が落ちて、得体の知れない妄想がすでに晴れていましたので、自分自身が救われたいという強い動機がなくなっていました。何が何でもシャカリキになって話さなければならないという道理は最早なかったのです。考え方も受け止め方も共に偏っていたことだけが浮き彫りになって来ます。今振り返ってみると、些細なストレスに随分過敏になっていたものだと思わずにいられません。

 その後しばらくは、AAのミーティングでT氏と目を合わさないようにしていました。その頃、ミーティングの最後にT氏はよく言ったものです。「発言の機会がなくて、不満の人もいるかもしれません。そんなことで酒に手を出すことがないようにお願いしたい。・・・」この言葉には苦笑いするしかありませんでした。

 ストレスを少しでも軽く受け流すためには、どうしても角度を変えてモノを観る、複眼的な見方が必要です。
 “一歩引いて 一息ついて 一歩引いて” 
 “冷静に、角度を変えてモノを観る”
 “ありのままを ありのままに受け容れる”
複眼的な見方の経験を積むためにも、まだまだこの “呪文” を唱える必要があるようです。


PAWSについての概論はこちらをご参照ください。
“情動の揺れ” を伴ったストレスへの過剰反応については、こちらのエピソードもご参照ください。今回ご紹介したものより強いストレスを受けた事例です。
思い込み” の逸らし方 “ありのままに受け容れる


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再びアルコール急性離脱後症候群(PAWS)について(上)

2016-02-12 17:35:54 | PAWS
急性離脱後症候群
 症状は、断酒開始後3~6ヵ月目で最も強くなり、6ヵ月~2年で回復する。
  ○ 思考プロセス障害(脳の働きにムラがある;頑なで諄(くど)い
    思考、因果関係を理解できない)
  ○ 情動障害(情動の揺れ)
  ○ 記憶障害(短期記憶の障害)
  ○ 睡眠障害
  ○ 身体的協働性に問題
  ○ ストレス感受性に変化

                  (アルコール依存症専門クリニック教育資料より)

 以前にも取り上げたことがある急性離脱後症候群(Post Acute Withdrawal Syndrome:PAWS)です。

 ウイキペディアで調べてみると、遷延性離脱症候群(protracted withdrawal syndrome)とか離脱後離脱症候群(post-withdrawal withdrawal syndrome)とも呼ばれ、アルコールばかりでなく、ジアゼパムなどのベンゾジアゼピン系精神安定薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を含む抗うつ薬、アヘンなどのオピオイド類の離脱(使用中止)でもみられるもののようです。

 概して不安、興奮、易刺激性(すぐにイライラ)、抑うつなどの精神的症状が、身体症状よりも顕著であるとされています。

 アルコール依存症のPAWSは、断酒後、急性期の離脱症状を経て身体的な健康を取り戻した頃に、上記のような障害を伴って襲ってくる症候群のことです。個人的には上記の直訳よりも “遅発性離脱症候群” の方が実態に即したピッタリな病名ではないかと考えています。

 実際、上記障害の症状は個々に現れて来るというよりも、波状的に強弱を繰り返し、ほぼ同時並行して現れるもののようです。しかも、各症状が一様に持続するわけではなく、ピークの状態であればあるほど異常と自覚しないまま過ごしていることが多いと思います。

 ずっと後になって気付くことが多いので、医師に相談せずに済ましている患者が少なくないのでは(?)と私は睨んでいます。こうしたことから、再飲酒して再発と認定された症例のみに注目が集まり、再飲酒に至っていない症例のPAWSについては等閑視されているのかもしれません。


 今、「再飲酒して(依存症が)再発・・・」と書いてしまいましたが、ドライドランクとも言われている情動障害が断酒継続中に認められた場合、通院中の専門クリニックでは病気の再発と捉えているようです(ご参考まで)。

 断酒歴が2年3ヵ月となった私は、このPAWSを一通り経験したと思っています。結論から先に言うと、PAWSでは各障害が複合的に絡み合って、再飲酒しやすくなる危険性が極めて高いと思います。

 そこで、PAWSについて再び取り上げてみようと思い立ちました。お復習いのため、今までこのブログで述べてきたものを整理してみます。

 まず、1番目の “思考プロセス障害” ですが、以前も述べたように記憶障害や想起障害と深く結びついた障害ではないかと考えています。いざ文章を書こうとする際、似たような言葉や文案が飛び交って頭が混乱し、なかなか考えがまとまらないという障害だからです。(「PAWS(急性離脱後症候群) ― 断酒してボケが始まった?」)その具体的事例についても、PAWSによる悪文見本市として連載記事にしております。

 2番目の “情動障害”(情動の揺れ)とは、所謂ドライドランク(状態)のことと理解しています。ドライドランク(状態)については、今まで何回か繰り返し述べて来ています。ドライドランクという言葉通り、素面でいながら、あたかも酒に酔ったときと同じ気分なのだと思い知らされました。今ではこれが、再飲酒へと誘惑される最も危険な状態だと考えています。具体的には次のようなことでしょうか。

 会話中は妙に浮かれてハシャギ過ぎの傾向になりますし、他人の断酒にもお節介を焼きたくなります。一人静かにしているとき、明鏡止水とでも表現すべき穏やかな気分にもなります。この穏やかな気分になれたことで、妙に(なぜか)回復できたと自信過剰になりやすいのです。これが見かけ上の回復と言われている所以のようです。

 他方、自分の思い通りにコトが運ばないと、気持ちが空回りしたり、胸がザワザワして不吉で不穏な気分に襲われたりもします。要は、飲酒時代にどんな心の動き方をしていたのか、それをまざまざと教えてくれるのがドライドランク(状態)なのだと納得させられました。

 3番目の “記憶障害” については、断酒後の誰にでも必発する障害です。想起障害をも伴うためか、大事なことほど後になってから “気づく” ことが多いようです。価値判断が鈍くなることにもどうやら関係ありそうだと考えています。これについては、今までも散々、悩ましい具体的な事例を上げて述べてきています。(「あなたは “脳組”? それとも “肝組”? (下)」ほか)

 4番目の “睡眠障害” については、頻回の中途覚醒が主でした。断酒10ヵ月後には中途覚醒が1日1回までとなり、現在はほぼ解消しています。また、5番目の “身体的協働性に問題” については、別稿で改めて述べてみようと考えています。

 次回の投稿では、6番目の “ストレス感受性の変化” についての具体的な事例(“情動の揺れ” を伴った実例とも言うべき典型的なエピソード)をご紹介するつもりです。

 PAWSになりやすい時期は情動が不安定のままであること、しかも肝腎の本人がそれを自覚しにくい(自覚できない)ことが最大の問題です。再飲酒した人の体験談を聴けば聞くほど、本人が気付かないまま無意識に飲んでしまったという例が少なくありません。健常人ならば些細なストレスと受け流すところを、PAWS中なら強いストレス並みに過剰に反応してしまうところがあります。感情が大きく動揺している原因が、実は些細なことだとは全く気付いていません。無意識のうちに再飲酒してしまったという事例には、このような “ストレス感受性の変化” が介在していたのではないかと考えています。

 繰り返しになりますが、急性期の離脱症状から身体的な健康を取り戻したこの時期は、ストレスにとても脆弱であり、必然的に受け止め方も偏りがちです。些細なストレスでも、とても危なっかしい反応をしやすい心の状態にあるようです。

 というのが私なりの結論です。もしも、こんな状態でありながら、どうしても仕事をしなければならないとしたら、一体どれだけストレスに耐えられるものなのか? 私には、このような状態でも「真っ当に仕事をして見せてやる」という自信がありません。年金生活者でいられる現在の身分がどんなにありがたいことか、心からそう思っています。

 断酒歴2年3ヵ月となった現在、“断酒に3年 回復に7年” この言葉の意味がやっと分かった気がしています。どうぞ、次回をお楽しみに。



PAWSについての概論はこちらをご参照ください。
 
こちらも併せてご参照ください。
あなたは “脳組”? それとも “肝組”? (下)
 

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アルコールと “うつ” 症状

2016-02-05 07:59:39 | 病状
 アルコールと “うつ” について、私なりに整理してみようと思います。 “鶏が先か? 卵が先か?” という類の話になりそうです。飲酒習慣がその底流にあり、両者は切っても切れない仲、というのが私なりの仮説なのですが・・・。

 “うつ” とはどんな症状なのでしょうか? 厚生労働省の “みんなのメンタルヘルス” では、次のような症状のうち、いくつかが2週間以上ずっと続くと黄信号だと警告しています。

 ○ 抑うつ気分(憂うつ、気分が重い)
 ○ 何をしても楽しくない、何にも興味がわかない
 ○ 疲れているのに眠れない、一日中ねむい、いつもよりかなり早く目覚める
 ○ イライラして、何かにせき立てられているようで落ち着かない
 ○ 悪いことをしたように感じて自分を責める、自分には価値がないと感じる
 ○ 思考力が落ちる
 ○ 死にたくなる


 これらを参考までに医学用語で順に列挙してみますと、
抑鬱[感](気分が落ち込んで活動を嫌っている状態、ふさぎ込んだ状態)、興味減退(仕事や趣味をやりたがらない)、不眠、焦燥感、罪責感・自責感、思考抑制 / 思考制止(集中力や判断力が低下 / 考えが前に進まない)、希死念慮 / 自殺企図 (具体的な理由はないが漠然と死を願う状態 / 自殺を企てる)となります。

 この他に、食欲低下、全身倦怠感、頭重感、肩こり、胸部圧迫感、手足のしびれや冷感、発汗、口渇や便秘、易疲労[感]などの自律神経失調や、さらに気力減退、気分の日内変動、不安、悲哀感、対人接触回避などもあるとされています。いかにも気分が落ち込んだ場合に自覚しそうな症状のオンパレードです。

 また、周囲からみてわかる次のような変化もあるそうです。他覚(的)所見にあたるものです。

 ○ 表情が暗い
 ○ 涙もろくなった
 ○ 反応が遅い
 ○ 落ち着かない
 ○ 飲酒量が増える


 “うつ” に陥りやすい気質(性格)があるそうです。生真面目、完璧主義、自分に厳しい、凝り性、気を遣うなどが挙げられていて、そのような性格のためにストレスを受けやすいと考えられているようです。幼い頃から日本で教育を受けた人なら、大抵の人が当てはまるのではないでしょうか?

 これらの気質は、秩序や規律を大切に考える国民性を象徴した気質とも言え、幼い頃から育まれたものと考えられます。“自分に厳しい” の代わりに、他人から良い子に思われたくて自制心が強い傾向と言い換え、他人に “気を遣う” の代わりに、単に他人の目を気にしやすいと言い換えるのであれば、私にもピッタリ当てはまります。

 単なる “抑うつ状態” と本物の “うつ病” との違いは、キッカケと思しき出来事と症状発現との間に時間的隔たりがあったか否かだと言います。別離や失敗、喪失などの心理的ストレスをキッカケに、その直後から落ち込んだ気分となったのは単なる “抑うつ状態” で、本物の “うつ病” では両者の間に因果関係を問えないほどの時間的隔たりがあるのだそうです。ということは、本物では何の予兆もなく気分の落ち込みと体調不良が突然襲って来るようなもの・・・でしょうか。

 上述した項目の中に、傍から見える行動の変化として “飲酒量が増える” とあります。直前にこれと言ったキッカケが見当たらないことと考え合わせると、私はそこにアルコールが介在していると思えて仕方ありません。私が飲酒していた頃を振り返ってみます。

 会社勤めの現役時代、翌日に医者との約束や会社の御前会議など重要な予定がないときに限って深酒になりました。心に隙が出来たのだと思います。よく思い出すのは深酒した翌朝の症状です。

 まず、身体全体が気怠く感じ、頭痛はないのですが、頭が朦朧として重く、何もやる気が湧いて来ませんでした。決まって背中の肩甲骨下辺りに鈍痛ともいえる重苦しさがあり、まるで背中に根が生えたかのようでどうしても起き上がれませんでした。9時ぐらいまでに目が覚めた場合は、仕方なしに出勤しましたが、10時を過ぎた場合は微妙でした。そんな微妙な日には「今日一日ぐらい休んでもいいや・・・」が口癖となり、ズル休みのお決まりコースとなりました。今日一日 “ぐらい” ・・・です。

 会社に電話した後で二度寝し、実際に起き上がるのは午後1~3時頃でした。ヒドイときには午後4~5時のときもありました。大抵は、人目につかないようにそのまま家の中で引き籠りですが、外に出てみるといつも同じ奇妙な感覚に襲われました。目に映る風景が、パサパサに乾燥して灰色っぽい印象で、ユトリロや佐伯祐三の描いた街角の風景画によく似た景色に見えました。

 同じくこんな感覚もありました。家の中では気づかないのですが、外では決まってフワフワした感覚で歩いていました。酒は醒めているのですが、長い時間寝ていたせいなのかいつも同じような感じがしていました。夕方にはシャキッとしますから、すぐにお酒に手が出ます。そして同じような翌朝を迎え、気分は益々落ち込むわけです。

 こんなことの繰り返しで欠勤を続けたこともありました。家族と別居し一人暮らしをしていた頃の話です。成就するだろうと期待していた仕事が不首尾に終わって、そのストレスから深く落ち込んでしまい、酒浸りになったのです。喪失感でもはや出勤に耐えられず、医者の診断書の提出義務を免れる5日間ギリギリまで連続欠勤してしまいました。

 そんなときは生活のリズムが崩れ、決まってカゼのような症状が追い打ちをかけてきました。怠くて悪寒がし、口が渇いて喉までイガラッぽいなど、カゼによく似た症状でした。生活のリズムが崩れ、気力がどんどん萎えて、何をするにも億劫になっていきました。明らかに “抑うつ気分” です。期待感が強かっただけに心に隙が出来ていたのでしょう。それが反転したときに決まって嵌りやすい落とし穴だと思います。

 そのカゼのような症状がアルコールの切れて来たときの症状だと最近知りました。カゼのひきやすい体質が何故なのか、当時は分かりませんでした。ズル休みの後ろめたさから罪責感にも苛まれました。それで人目につかないよう愈々引き籠りになってしまいました。こんな状況を立て直そうという気持ちは起こらず、落ち込む一方でした。まさに悪循環です。これもアルコールの怖さだと思います。

 こんな悪循環を繰り返していたら、上に掲げた症状が複数になるのは目に見えています。傍から見ると、単になまけているとしか見えないでしょう。世間で “なまけ病” と言われている大半は、こんな悪循環に嵌っている状態というのが実態だろうと考えています。私はてっきり、“うつ病” の始まりはアルコール絡みのこんな悪循環に嵌ったことが原因だろうと思い込んでいました。

 ところが、酒を飲まない人でも本物の “うつ病” の例はあるのだそうです。主治医に聞いてみたところ、統計がないので正確なデータはないものの、酒を飲む習慣のない人でも本物の “うつ病” となった例を経験したことがあると答えてくれました。これで私の仮説はアッケナク反故になってしまいました。

 最後に、“うつ” の人にどう向き合うべきかについてです。「がんばれ!」などと決して言ってはいけない、と戒められました。本人は精一杯頑張っている状態といいます。下手に励ますことは、一層追い詰めてしまうことになるのだそうです。十分に心しておきたいのですが、うっかり言いそうで、実に難しい課題です。

 アルコールが “うつ” の症状を悪化させるということには誰も異論がありません。ですから、せいぜい酒を断つように励まし、ゆっくり休むよう勧めるぐらいに留めるべきだそうです。耳寄りなのは、もしも患者に退屈そうな気配が見えてきたようなら、気持ちに余裕が出て来た兆しなのだそうです(ご参考までに)。

 今から思えば、深酒後の背中の鈍痛は膵臓が悲鳴を上げていたせいだったのかもしれません。当時は肝臓を酷使し続けていたこともあり、てっきりそのせいで疲れているのだからと長い時間寝ていました。12時間以上もの長い時間寝るには体力が要ります。55歳を過ぎた辺りから寝坊などできなくなり、早起きになりました。寝坊が出来なくなったことで体力の衰えを実感するとは皮肉なものです。


厚生労働省の “みんなのメンタルヘルス” は、こちらです。


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