ここでは、新薬の臨床開発の最も難しい場面を紹介しておきましょう。
治験薬はいくつもの治験を経て医薬品になります。臨床開発の最終段階では、既に患者に広く使われている市販の医薬品と比較する治験を行い、市場に受け入れられる資格の有無が検証されます。これを比較検証試験といいます。臨床開発最大の山場です。
従来品よりも有効性に優れ、安全性でも変りなければ市場に受け入れられる資格ありとなるのは当然でしょう。あるいは、1日1回の服用だけで1日3回の服用と同程度の効果があれば、忙しい患者にとって簡便で飲み忘れも防げることから、市場に受け入れられる資格ありとなりますよね。このように市場に受け入れられる資格=長所のことを臨床的有用性と言います。
医薬品として国に承認されるとは、市販の従来品と比較した検証試験の結果を見て、治験薬に臨床的有用性があると国が承認することです。
臨床開発担当PMとしての重責は、研究会組織の代表世話人と幹事役の選定以上に、比較検証試験の対照薬の選定があります。
対照薬とは検証試験で比較する相手のことで、似たような薬理作用を持ち、同じ適応症(効能効果)を持っている薬であることが必要です。さらに、新薬を開発する側から言えば、対照薬は市場で評判の高い “売れている薬” であることが重要で、同時に治験薬が “勝てる相手” でなければなりません。対照薬に勝つ=優ることが即ち商品としての付加価値となるわけです。
ですから、臨床開発を始める前に対照薬を慎重に選定し、いくつかの治験をやりながら治験薬が対照薬に “勝てるための用法・用量” を模索して決める、このことが臨床開発そのものとなります。相手として不足のない土俵(?)まで治験薬の用量を引き上げていくわけです。用量が高いほど薬の効果は強く出ます。
検証する目的で通常採用される試験方法に二重盲検比較試験法があります。
二重盲検というのは、X薬とY薬を比較する時、使用する薬が医師も患者もどちらの薬か分からない秘密のままの状態で服用して貰うことを言います。日本では治験を依頼している製薬会社ですら、どちらの薬か分からない状態で行いますから三重盲検というのが実態です。
盲検化というのは、外見の形状や色、重さ、味、稀に匂いまでも、どちらの薬か区別がつかない状態にすることです。
対照薬は別の製薬会社ものですから、こちらの希望通りに製剤化したものを製造して貰えません。そこで通常はダブルダミーという方法を採用します。対照薬の製造会社からは、商品そのものと商品に酷似したプラセボ(偽薬:有効成分を含まないもの)を有償で提供して貰います。二重盲検の場合、2種類の薬とそれぞれのプラセボを組み合わせて盲検化するわけです。
新剤型薬LAの二重盲検の場合を例としてみますと、患者が実際に受け取る薬剤は次のようになります。
X薬のLAはカプセル剤です。Y薬の普通製剤は錠剤です。患者は一見2種類の薬からなる薬剤のセットを渡されます。
LA服用群の患者には、朝服用分としてLAの実薬のカプセルと錠剤のプラセボ、昼・夕服用分として錠剤のプラセボのセットが渡されます。
これとは反対に普通製剤服用群の患者には、朝服用分としてLAのプラセボのカプセルと錠剤の実薬、昼・夕服用分として錠剤の実薬のセットが渡されます。
どちらの患者も説明を受け同意した上で、一見2種類の薬を1日3回服用することになるのです。
治験に参加した患者全員が服用を終了し、それらのデータが完全に固定されて後、初めて各々の患者が使用した薬がX薬かY薬か、そのどちらだったのかが明かされます。これをkey open(開鍵)と言います。開鍵して初めて結果が明らかになり、X薬とY薬の優劣が判明するのです。
臨床開発が丁半賭博のような博打的性格が非常に強いと言ったのはこのことです。ですから、開鍵の場に居合わせる臨床開発担当PMは鼓動が速くなり、資料も読めなくなるほどの緊張状態で、生きた心地がしません。会社経営に直結しますから社長を初め経営陣も固唾を飲んで結果報告を待つだけです。結果報告は “勝った” か “負けた” かのどちらかです。
医療用医薬品はすべて、このような客観的検証を経て世に出て来ます。新薬開発には何十億、何百億円もの開発費が必要です。そんな莫大な開発費を賭けた合法的賭場から生まれて来るのが医療用医薬品なのです。開鍵直後に飲む酒は勝っても負けても不思議と酔えないものです。
比較検証試験の結果、新剤型薬LAは、目標としていた適応症の内、高血圧症については成就でき、代表世話人が異なる狭心症は無念の結末となりました。代表世話人の実力の違いをまざまざと見せ付けられた次第です。検証試験を無事済ますと承認申請資料を作成して国に承認申請し、後は国の下請け機関による承認審査待ちとなりました。
アルコール依存症へ辿った道筋(その5)につづく
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治験薬はいくつもの治験を経て医薬品になります。臨床開発の最終段階では、既に患者に広く使われている市販の医薬品と比較する治験を行い、市場に受け入れられる資格の有無が検証されます。これを比較検証試験といいます。臨床開発最大の山場です。
従来品よりも有効性に優れ、安全性でも変りなければ市場に受け入れられる資格ありとなるのは当然でしょう。あるいは、1日1回の服用だけで1日3回の服用と同程度の効果があれば、忙しい患者にとって簡便で飲み忘れも防げることから、市場に受け入れられる資格ありとなりますよね。このように市場に受け入れられる資格=長所のことを臨床的有用性と言います。
医薬品として国に承認されるとは、市販の従来品と比較した検証試験の結果を見て、治験薬に臨床的有用性があると国が承認することです。
臨床開発担当PMとしての重責は、研究会組織の代表世話人と幹事役の選定以上に、比較検証試験の対照薬の選定があります。
対照薬とは検証試験で比較する相手のことで、似たような薬理作用を持ち、同じ適応症(効能効果)を持っている薬であることが必要です。さらに、新薬を開発する側から言えば、対照薬は市場で評判の高い “売れている薬” であることが重要で、同時に治験薬が “勝てる相手” でなければなりません。対照薬に勝つ=優ることが即ち商品としての付加価値となるわけです。
ですから、臨床開発を始める前に対照薬を慎重に選定し、いくつかの治験をやりながら治験薬が対照薬に “勝てるための用法・用量” を模索して決める、このことが臨床開発そのものとなります。相手として不足のない土俵(?)まで治験薬の用量を引き上げていくわけです。用量が高いほど薬の効果は強く出ます。
検証する目的で通常採用される試験方法に二重盲検比較試験法があります。
二重盲検というのは、X薬とY薬を比較する時、使用する薬が医師も患者もどちらの薬か分からない秘密のままの状態で服用して貰うことを言います。日本では治験を依頼している製薬会社ですら、どちらの薬か分からない状態で行いますから三重盲検というのが実態です。
盲検化というのは、外見の形状や色、重さ、味、稀に匂いまでも、どちらの薬か区別がつかない状態にすることです。
対照薬は別の製薬会社ものですから、こちらの希望通りに製剤化したものを製造して貰えません。そこで通常はダブルダミーという方法を採用します。対照薬の製造会社からは、商品そのものと商品に酷似したプラセボ(偽薬:有効成分を含まないもの)を有償で提供して貰います。二重盲検の場合、2種類の薬とそれぞれのプラセボを組み合わせて盲検化するわけです。
新剤型薬LAの二重盲検の場合を例としてみますと、患者が実際に受け取る薬剤は次のようになります。
X薬のLAはカプセル剤です。Y薬の普通製剤は錠剤です。患者は一見2種類の薬からなる薬剤のセットを渡されます。
LA服用群の患者には、朝服用分としてLAの実薬のカプセルと錠剤のプラセボ、昼・夕服用分として錠剤のプラセボのセットが渡されます。
これとは反対に普通製剤服用群の患者には、朝服用分としてLAのプラセボのカプセルと錠剤の実薬、昼・夕服用分として錠剤の実薬のセットが渡されます。
どちらの患者も説明を受け同意した上で、一見2種類の薬を1日3回服用することになるのです。
治験に参加した患者全員が服用を終了し、それらのデータが完全に固定されて後、初めて各々の患者が使用した薬がX薬かY薬か、そのどちらだったのかが明かされます。これをkey open(開鍵)と言います。開鍵して初めて結果が明らかになり、X薬とY薬の優劣が判明するのです。
臨床開発が丁半賭博のような博打的性格が非常に強いと言ったのはこのことです。ですから、開鍵の場に居合わせる臨床開発担当PMは鼓動が速くなり、資料も読めなくなるほどの緊張状態で、生きた心地がしません。会社経営に直結しますから社長を初め経営陣も固唾を飲んで結果報告を待つだけです。結果報告は “勝った” か “負けた” かのどちらかです。
医療用医薬品はすべて、このような客観的検証を経て世に出て来ます。新薬開発には何十億、何百億円もの開発費が必要です。そんな莫大な開発費を賭けた合法的賭場から生まれて来るのが医療用医薬品なのです。開鍵直後に飲む酒は勝っても負けても不思議と酔えないものです。
比較検証試験の結果、新剤型薬LAは、目標としていた適応症の内、高血圧症については成就でき、代表世話人が異なる狭心症は無念の結末となりました。代表世話人の実力の違いをまざまざと見せ付けられた次第です。検証試験を無事済ますと承認申請資料を作成して国に承認申請し、後は国の下請け機関による承認審査待ちとなりました。
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