ヒゲジイのアル中よもやま話

断酒を始めて早7年目。このブログは回復プロセスの記録と脳のリハビリを兼ねて綴っています。やはり、まだチョット変ですかネ?

司会へとドライドランクが誘う?(下)

2020-10-06 06:17:28 | PAWS
 今回は、前回記事の続きです。
 私は、AAのミーティングの司会など強いストレスのかかる仕事を、酒断歴の浅い人に任すべきではないと考えています。ドライドランクとして知られている情緒不安定な時期が、酒断歴の浅い人にはよく見られるからです。
 休止中のAAのミーティングの穴埋めに始めた “三人会” で、私はこの問題を話題に取り上げたのですが、・・・。


 酒断歴の浅い人が司会をしたがるのは、単に承認欲求が強い資質のせいじゃないかと主張するU 氏に対し、私はこう持論をぶつけてみました。

「ドライドランクって、実はアルコールの後遺症だろうと、
 私は思っているんですよ。」 

「アルコールの後遺症というのはおもしろいね!」と、 U 氏。

 彼の反応を受け、私はこう続けました。
「ドライドランクは、PAWS(急性離脱後症候群)に含まれる症状で、
 酔っ払いが、自分は酔っていないと言い張るように、
 実に微妙で、自覚しにくいのが特徴のようです。

 典型的な症状として、“自信過剰”、“自己憐憫”、“自己万能感”、
 “自我の肥大” などが上げられていますが、
  “自我の肥大”とか言われても、ちょっとピンと来ませんよねぇ。
 単純に、人にお節介を焼きたがること、
 それを “自我の肥大” と言うらしいんですが・・・。
 共通しているのは、精神的に非常に不安定だということ」と、私。

 私は、さらに続けて
「私が、ここのミーティングに参加し始めて半年も経っていないとき、
 Uさん、しきりに司会をやってみないかと勧めてくれましたよね?

 実はあのとき、ドライドランクの真っ只中にあって、
 精神的に不安定だと自分でも自覚していたんです。
 強いストレスのかかる司会なんて、後が怖くて、
 とても引き受ける気持ちになれませんでした。」

「へぇ、そうだったの?!」と、 U 氏。

 私は、なおもこう続けました。
「言葉の意味が頭では理解できるのに、実際はよくわかっていない、
 そんな奇妙な時期でもあったんです。
 “心の落ち着き” や “楽になった” などという言葉は、
 体感的にはチットモわかっていませんでした。

 それでもその場の空気に流され、
 すぐに人の尻馬に乗ってしまうんですね。
 今になって思うと、私と同じような経験をした人って
 結構多いと思いますよ。」

 実際私は、司会を務めた後で姿を見せなくなった人や、スリップした人を複数人知っています。

 U 氏は、これに対しこう応じてきました。
「反論するわけじゃないけど、人それぞれじゃないかな。
 ストレスに耐えられない人もあれば、
 却ってそれが自信に繋がる人もいるだろうし、・・・
 人生って、賭け(が付きもの)だよ!」

 年齢で7年、AA歴で13年先輩であるY 氏。氏のこの言葉に年の功を感じてしまいました。決めつけて掛かる私は、まだまだ青臭いのでしょう。

  “人はそれぞれ・・・”、“人生は賭け” いい言葉です。
もう一人のメンバー M 氏は結局、何も言いませんでした。

 こんな話が出来た “三人会” も先月限りで終わりになりました。卒業というのは、いつでも寂しいものです。



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司会へとドライドランクが誘う?(上)

2020-10-02 06:22:43 | PAWS
 私は、AAのミーティングの司会など強いストレスのかかる仕事を、断酒歴の浅い人に任すべきではないと考えています。

 休止中のAAのミーティングの穴埋めにと、有志の仲間3人が集まって開いている “三人会” で、私はこの話題を取り上げてみました。

「司会って、任せるのにいい時期があるんじゃないですかねぇ?」と、まず私が話を切り出しました。

 私の問いかけに即座に応えてくれたのは、もちろんチェアのU 氏でした。

「そうとも言えるし、そうでないとも言える。
 司会をやらせてくれって言ってくる人、
 断酒歴の浅い人に結構いるのよ。
 そんな人にはやらせることにしている。
 アル中って元々、オレがオレがって
 目立ちたがりのタイプが多いからねぇ~」と、 U 氏。

「目立ちたがり? それって、ドライドランクそのもの
 じゃないですか!」と、私。 

「実際のところ、ドライドランクってよくわからないっていうのが本音。
 だけど、人に認めてもらいたいっていう欲求、つまり承認欲求ね、
 アル中って、元々それが強い人種だからじゃないの?
 そんなふうに私は思っている」と、 U 氏。

 これはいい機会だと思って、私の持論を述べてみようと思いました。もちろん、断酒後に散々悩まされて来た急性離脱後症候群(PAWS)についてです。

 ですが、いきなりPAWS ではU 氏には馴染まないと思い、馴染みのあるドライドランクに絞って話すことにしました。
 この続きは次の機会に。


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うれしさで “惑う”? それとも “迷う”?

2019-09-03 06:01:45 | PAWS
 9月になりました。当地では騒がしいクマゼミ、アブラゼミに代わり、先週辺りからやっとミンミンゼミの鳴き声が聞こえ始めました。ヒグラシの甲高い鳴き声はまだ聞こえてきません。


 さて今回は、想起障害にまつわるエピソードを二つご紹介します。

 なかなか言葉を思い出せない想起障害、老化現象であるばかりか老化促進薬アルコールの後遺症PAWSでもあります。
「こんなときは普通、何て言うんだっけ?」こんな迷いをしょっちゅうしています。私には深刻なことなのでこれまで度々記事にしてきましたが、今回もその続編としてどうぞ。

          *   *   *   *   *
 夙川で週1回あるAAのミーティング、その帰り道もゴミ拾いの定番コースになっています。その日はいつになく空のペットボトルと空き缶が多い日でした。

 コースの終盤、パンパンに張ったレジ袋を3つもぶら下げて幼稚園前を通りかかったとき、お向かいの玄関から出てきた男性が声をかけてくれました。
「何時もいつもありがとうございます。それじゃぁ大変でしょう! それ、家で預かって私がゴミ出ししておきますヨ!」

 これを聞いて一瞬、心が動かされました。週1回しか通っていない所なのに、見ている人はちゃんと見ているのです。

 一応は得体の知れないゴミですし、資源ゴミはコープにお任せ、と決めていましたのでお断りすることにしました。
「それはどうもご親切に・・・。コープが近くですし、もう少しの間ですから大丈夫です。」

 問題はそれからです。こんなときの気持ちはどう表現するべきか、迷いに迷ってしまいました。

 最初に浮かんだのは “うれしい戸惑い”。語感はいいのですが、これは明らかに間違いとわかりました。

 では、“うれしさで心が惑う” か、“うれしさで心を惑わす” か、いやただ単に “うれしさで返答に迷う” か? 加えて、うれしさ “で” か、それともうれしさ “に” か?

 恐らく、正確さで言うなら “うれしさで返答に迷う” でしょうが、どれが最も相応しい表現なのか今だにわからないままでいます。


 ついでにゴミ拾い絡みでもう一つ、バス通りに面した公園でのこと。

 ある朝、同年配の老人がベンチに座ってタバコを吸っていました。そのベンチはいつも吸い殻が散らかっている場所なので、必ず点検することにしています。

 トングを持って近づいて来る私を見て、その老人、何か言わなければと焦ったようです。
「いい仕事してるねぇ! こんなにいい仕事をしていたら、その内きっと恵まれるよ!」

 恐らくは、タバコ吸い共通のやましさからか、思い出す間もなく咄嗟に口を突いて出たのでしょう。 “お恵みがある” でもなく、“報われる” でもなかったので少し違和感がありました。

「そうあって欲しいっすねぇ!」
私にもよくあることなので、笑いをかみ殺すのに必死でした。

         *   *   *   *   *
 言い慣れない言葉遣いをしようとすると、往々にしてこんな滑稽なことになります。



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断酒後に気づかされた悩ましいこと

2018-03-16 06:02:34 | PAWS
 言葉がどうにもシックリ来ないことってありませんか? このところ悪文見本市を続けて2回やっていて、ふと思い出されたことが2つあります。今回以下に述べることは、断酒後の “思考プロセス障害” とはどんなものか理解してもらう上で参考になるかもしれません。

 ひとつは “やるせない” と “遣り場のない” という言葉についてです。この二つの言葉には、意味や語感に共通したものが全くないにもかかわらず、唯一似通っているのが音感です。敢えてこじつければ、“やるせない” は “遣り場のない”“切なさ” という理屈になるでしょうか。

 断酒して3ヵ月ぐらい経って突然襲われる症状に、不吉で不穏な気分があります。何の予兆もなしに胸がザワザワと空回りし始める感覚のことで、謂わば胸騒ぎを酷くした感覚でしょうか。この不吉で不穏な気分の表現に、かつて “やるせない” を使っていました。どこかシックリ来ないと感じでいたのですが、長いこと間違いに気づきませんでした。単に、言葉の音感だけに惑わされていた好例だと思います。

 私はこのことをアルコールの後遺症(PAWS)だと固く信じています。恐らく同様に、音感に惑わされて間違った言葉を使っていた例は他にもあっただろうと思います。私のブログで可笑しな不自然な表現に出くわしたなら、このことに免じてご容赦ください。

 もう一つは、“気づき” についてです。断酒して1年半ぐらいまでの間、 “気づく” のに時間が掛かる自分は異常ではないかと思っていました。

 “気づき” には、記憶の中から普遍的なことを洞察するという意味と、一瞬の内に感じ取れる知覚反応の意味とがあります。当時の私にも、体験談に触発されての “気づき” があるにはあったのですが、体験談から大分経ってのことでしかなかったのです。

 今となってみれば、こんなことは健常人でも至極当たり前のことだと思えます。恐らく当時は、一瞬の内に感じ取れる知覚反応と同列にしか “気づき” というものが理解できなかったのでしょう。それほどに脳が混乱していて反応が鈍かったのだと思います。この件についても私はアルコールの後遺症(PAWS)だと固く信じています。

 以上は代表的な例ですが、言葉がどうにもシックリ来ないという意味がおわかりいただけたでしょうか。時が経っても忘れられないことは、それなりにインパクトがあってのことだからでしょう。まして記憶力があやふやな時期のことならなおさらです。しかも困ったことに、それが今でも依然として続いているようなのです。やはり、これらも老化のせいなのでしょうか?



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再びアルコールPAWSの一つ “思考プロセス障害” の軛(くびき)

2017-08-18 06:23:20 | PAWS
 断酒後3ヵ月ぐらいから始まるのがアルコール急性離脱後症候群(PAWS≒ドライドランク)ですが、その一つ “思考プロセス障害” について再び取り上げてみます。想起障害と同じく相当長引く障害で、実に厄介な症状を伴うからです。

 “思考プロセス障害” の特徴は、脳の働きにムラがあり、頑なで諄(くど)い思考や因果関係を理解できないこととされています。これを私の経験から言えば主に次の3点になるでしょうか。


 ● まとまった文章を書こうとすると、なかなか考えがまとまらない
   こと
 ● 脳が混乱して疲れやすく、よくストライキを起こすこと
 ● 使うべき助詞・所謂 “てにをは” の適切な使い方に迷うこと


私はこれらが “思考プロセス障害” の具体的構成要素と考えています。

 まず一番目に挙げた、なかなか考えがまとまらないことについてです。これをもう少し具体的に言うと、あれやこれやと文案や構想が入り乱れて自信をもって確定できないことに尽きます。

 全体構想の詰めはテーマに沿って集中して考えなければできません。そんな集中すべきときに、文案や構想が入り乱れてうまく練れなくなることがよくあるのです。それでつい論理が遠回りしてしまいます。

 このブログの原稿作成の際も、全体構想が詰め切れないまま見切り発車するのが定番になっています。とても練りに練った構想などとは程遠い状態です。生煮えのフワフワした構想で書き始めるものですから、発想があちこちに流れがちで、段落から段落への展開にも苦労しています。

 次に二番目に挙げた、脳がよくストライキを起こすことについてです。集中力にムラがあって長くは続かないこと、これに加えて考えがまとまらなくなり脳が疲れてきて更に混乱することです。

 感覚的には脳が鬱血する感じでしょうか。この感覚が出だしたらすぐに思考停止となりますが、このことを私は脳のストライキと呼んでいます。“思考プロセス障害” の症状とするには一風変わっているかもしれません。

 脳のストライキは、パソコンが固まって動かなくなった状態をイメージしてもらうとピッタリです。こうなったら最後、作業を中断し席を立って一服するか、それでもダメなら一眠りするしかありません。睡眠をとった後は不思議なくらい捗ります。

 最後に三番目に挙げた、助詞の使い方の混乱についてです。因果関係の混乱に象徴されると思いますが、事柄同士の論理的関係が分からなくなることもしばしばあります。そのせいで、使うべき助詞は一体何が適切か、所謂 “てにをは” の類の使い方にさえ迷って混乱することがしょっちゅうです。

 そうそう、これに関係するかもしれませんが、時制についても現在形か過去形かでしばしば混乱します。

 アルコールの遺した置き土産 “思考プロセス障害” は斯くの如く厄介なシロモノです。上に挙げた構成要素が交互に作用して、たった一文を書く場合にも邪魔をします。このブログで何遍か触れたように、想起障害と共通した根っこから来ているものと考えています。


 このテーマは1年3ヵ月ほど前に一度取り上げたものです。回復途上にあるアルコール依存症にとって、このテーマで扱った障害がなかなか自覚できない厄介な症状を伴うこと、私にとっても自分の言葉で表現できた記事の一つとして思い出深い記事であることから再び取り上げてみました。

 元の記事を読み返してみると、回りくどく冗長な表現満載の “思考プロセス障害” そのものの文章でした。そんな訳で、今回改めて元記事の重要部分について自分の言葉で書き直してみました。ご参考までに、投稿済みの改訂版も掲載しておきます。今回の記事と重複する部分以外は、ほぼ元の文章そのままです。


アルコールPAWSの一つ “思考プロセス障害” の軛(くびき)
“うまく” やろうと構えてしまうと、“うまく” いかず不首尾に終わってしまうものです。取り越し苦労と同じ、結果の先読みから嵌るワナです。気負えば気負うだけ緊張して脳が固まってしまうのです。こんな経験、ありませんか?......


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再々 PAWS(急性離脱後症候群)について

2017-02-14 07:31:44 | PAWS
 ちょうど1年前の今頃、「再び急性離脱後症候群(PAWS)について(上)」を投稿しました。この記事の執筆当時、私は断酒歴2年4ヵ月目でした。アルコール性PAWSとして教わっていた主要な障害は6つでしたが、その頃の私がPAWSとしてモロに自覚させられていた障害は主に次の2つだったと思います。

 ● 思考プロセス障害
  (脳の働きにムラがある;頑なで諄(くど)い思考、因果関係を
   理解できない)
 ● ストレス感受性に変化

 当時うまく説明し切れなかったこの2つの障害について、今回は補足説明をしてみようと思います。 

 思考プロセス障害は、本人からすると、考えが中々まとまらないという自覚があることに尽きます。その一方で傍の人からは、回りくどい言い回しと受け取られると思います。

 この障害は想起障害に起因したもの、今ではハッキリそう考えています。想起障害とは、考えにピッタリの言葉がなかなか思い出せない障害のことで、記憶障害の一つです。

 あることを考えようとすると、ピッタリの言葉が思い出せず、すぐ行き詰まってしまうのです。浮かんでくる言葉は、音感が同じか最初の漢字が同じかの似通った言葉ばかりです。考えが中々まとまらないので、違った筋道から遠回りに考えを進めるか、意図とは違った言葉を使ってみるしかありません。それが回りくどい言い回しとか、話がくどいとかに映るのだと思います。その内、筋を忘れて話が逸れることもありますし、ともすれば堂々巡りの循環思考にもなってしまいます。

 これでは脳が疲れるのも当たり前で、集中力が長続きしません。脳にムラとはこのことを言っているのだと思います。

 思考プロセス障害にうまい対処法はありません。常日頃、事あるごとに言葉を一つひとつ思い出しては書き留めて覚えていくしかありません。そしてせいぜい試してみるべきは、外を歩いてみるなど身体を動かして気分転換を図るとか、一眠りして脳をスッキリさせることぐらいでしょうか。

 次に、「ストレス感受性に変化」についてです。これは “認知のゆがみ” を自覚し始めたこと、と解釈すると意味がよくわかります。

 飲酒していた頃には自覚していなかった “認知のゆがみ” の顕在化です。その認知障害をストレス感受性が変わったと感じただけの話だと思います。私などは、素面(しらふ)になってから些細なストレスでも過剰に反応しがちなことを自覚し始め、初めて “認知のゆがみ” に気づきました。“認知のゆがみ” は、回復に立ちはだかる最難関の障害です。

 “認知のゆがみ” を矯正するには、自分独自の座標軸を持って人や物事との間合い(距離感)を計ることと考えています。会得するまで息の長い作業だと覚悟を決めるしかありません。

 この二つの障害は断酒後1年以上経ってから強く自覚し始めるようです。睡眠障害や情動障害、記憶障害(短期記憶の障害)は約1年前後で解消しますが、想起障害や “認知のゆがみ” については、一体何時になったら克服できるのか皆目見当もつきません。


以上のことを踏まえた上で、1年前の記事をご参照ください。


再びアルコール急性離脱後症候群(PAWS)について(上)
【急性離脱後症候群】 症状は、断酒開始後3~6ヵ月目で最も強くなり、6ヵ月~2年で回復する。  ○ 思考プロセス障害(脳の働きにムラがある;頑なで諄(くど)い思考、因果関係を理......



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飲酒当時の不自由 断酒後の不自由(下)

2016-06-24 18:06:17 | PAWS
 断酒を始めてから困ったことといえば、睡眠障害(頻回の中途覚醒)、記憶障害(想起障害を含む)、情動障害(ドライドランク)、心理的ストレス感受性の変化、思考プロセス障害といった症状だと思っています。いずれもアルコールの急性離脱後症候群(Post Acute Withdrawal Syndrome:PAWS)の症状です。

 断酒直後から始まった睡眠障害は断酒10ヵ月後までに解消されました。この睡眠障害を除き、いずれの症状も断酒3ヵ月後ぐらいから上の順に現れてきました。これらの中で、心理的ストレス感受性の変化などは、会話中に何か神経に触ることがあった場合に気付かされますが、そんなキッカケがない限り自覚することはなく、不自由など感じずに過ごせています。もしもあった場合は、“一息ついて 一歩引いて” です。

 断酒歴2年8ヵ月の今でも、日常的に不自由を覚えるのは記憶障害に含まれる想起障害と、思考プロセス障害です。

 記憶障害とは、物覚えが悪く、直近のことでも直ぐ忘れてしまう短期記憶の障害と、意図した目当ての言葉がなかなか頭に浮かんで来ない想起障害の二つからなります。短期記憶の方は大分改善し、最近はあまり苦にならなくなりました。

 その一方で想起障害の方は、まだまだ酷い状態のままです。言葉のイメージが喉まで出掛ってはいても、言葉として出て来ないので、もどかしいったらありません。それが随分時間が経ってから、歩いているときなどに、その言葉がポッと浮かび上がって来るのです。すぐに書きとめておかないと再び忘れてしまいます。記憶障害があれば大きな判断ミスを起しそうですが、今年の “十日戎” で味わった一風変わった奇妙な体験以外、今のところ心当たりなく過ごせています。

 思考プロセス障害とは、早い話、(体験談のような)まとまった話をしようとすると、なかなか考えがまとまらないことに尽きると考えています。話すにしろ、書くにしろ、いざ構えると言葉や文案が散り散りバラバラに頭の中を飛び交い、まとまりがつかないばかりか諄(くど)くもなります。論旨の展開にも相当難義しています。本筋から大きく逸れても、多くは気付きません。論理が混乱し、“てにをは” の類の助詞の使い方さえ分からなくなることもしょっちゅうです。

 こんな状態ですから、早々に疲れてボーッとしてしまい、集中力が長続きしません。パソコンが固まるように思考停止となってしまいます。意図した言葉そのものが出て来ない、あるいは複数の候補は出て来るものの、最適な言葉がなかなか頭に浮かんで来ないことが原因の一つのようです。ですから、思考プロセス障害は、根底に想起障害があってのことと考えています。

 以上のことは、これまで幾度かこのブログで記事にしてきました。詳細は文末の記事リストから参照していただくことにし、ここでは私が採っている対処の方法を述べてみようと思います。どうやってこれらの障害と折り合い、凌ごうとしているかです。

 まず、想起障害への対処の方法についてです。

 メモに書き残す
 いの一番に採るべき手立ては、「メモを残す」に尽きます。何しろ時や場所を選ばず、不意に言葉が浮かんで来ます。歩いていたなら、立ち止まってでも手帳に書きとめておかないと忘れてしまいます。メモ用紙がなかったら、レシートの裏でも、駅や役所の申し込み用紙でも何でもいいのです。とにかく浮かんで来た言葉や文案を書きとめます。断片的でも構いません。後で十分思い起こさせてくれます。

 体験談の場に身を置く
 私は、自助会AAのミーティングから帰るやいなや、直ぐにテーマや話題を思い返しては、自分なりに考えをまとめて書き残すようにしています。ミーティングの場で想ったことをさらに敷衍し、自分の考えを補足・修正するのです。体験談の場では切実な言葉が語られます。そのような場に身を置くことは記憶機能を刺激します。メンバーの体験談を聴いていると、記憶の奥から蘇る言葉があり、貴重な “気付き” も得られます。体験談の場に身を置くことは、想起障害の手当てとして打って付けだと考えています。

 次いで、思考プロセス障害への対処の方法についてです。

 思考プロセス障害のリハビリには文章を書くことしかないと考えています。そのため、ほぼ毎日頭を捻ってはキーボードを叩き、ブログの原稿作成に励んでいます。書いたものなら、変な箇所は眼で見てはっきり分かります。書きながらでも、読み返してみては、違和感がなくなるよう、何度も何度も修正を繰り返しています。なかなかうまくいきませんが、他に妙案はなさそうなのです。だから、ひたすら励むだけです。

 その際、ボーッとして考えに行き詰まり始めたら、そこで直ぐに切り上げ、できれば睡眠をとることにしています。ボーッとしてきたら、脳が疲れて思考停止となる兆しと考えています。無理して続けても徒労に終わるだけです。睡眠をとった後は不思議なくらい捗ります。

 その他、私が日常的に実践していることは、最短でも4 km以上の距離を毎日歩くことです。路上のゴミ拾いを兼ねていますが、血糖値の管理によいというばかりでなく、社会貢献ができているという意識で気分が充実し、精神衛生上も欠かすことができません。

 一般的に以下のことが脳の記憶機能に好影響を及ぼすと知られています。体験談を聴くことも、文章作成や毎日の歩きも、これらにピッタリ当てはまっています。
 ○ 手や耳などの器官を刺激して記憶したものは長く保持されやすい
 ○ 軽い運動は脳の血流をよくして記憶を司る海馬の脳細胞を増やす
 ○ 歩くことは前頭葉の働きを活発にしてくれる


***********************************************************************************
 読者の中には、断酒後の不自由と聞いて、飲酒欲求やドライドランク、“空白の時間” を期待した方もおられたことと思います。

 今しがた見たばっかりの変な夢を思い出し、どうやら潜在的な飲酒欲求が深層心理にあるようだと思わせられたことはありました。が、病的な飲酒欲求に見舞われたことはありません。

 一方、飲酒欲求を誘うのがドライドランクや “空白の時間” です。

 ドライドランク、特にハイテンションになった場合は、その場で自覚することはまずありません。それが過ぎた後で、「危なかったぁ!」と胸をなで下ろすぐらいのものです。一度でも自覚できれば分かりますから、即座にこれは変(?)と気付けるまで、ひたすら用心するしかありません。

 “空白の時間” は厄介ですが、うまく逸らすには、一日単位・一週単位で生活リズムを規則正しく刻むこと、これに尽きると考えています。専門クリニックの充実した教育カリキュラムの組み方と、休日にも生活リズムを乱さないよう心掛けたお蔭で、どうにか “空白の時間” を逸らすことが出来ています。ありがたいことです。


主に想起障害と思考プロセス障害について述べた記事をリストしてみました。こちらもご参照ください。

 「アルコールPAWS(急性離脱後症候群) ― 断酒してボケが始まった?」(2015.8.28)
  この記事ではPAWSを概観し、想起障害と思考プロセス障害の事例を紹介しています。

 「あなたは “脳組”? それとも “肝組”? (下)」(2016.01.01)
  この記事では、記憶障害と価値判断にまつわるエピソードを紹介しています。

 「“物忘れ” ― 単なる健忘? それとも認知症?」(2016.01.29)
  この記事では、“病識のない”認知症と記憶障害の違いについて述べています。

 「再びアルコールPAWS(急性離脱後症候群)について(上)」(2016.2.12)
  この記事では、私が経験したPAWSの各症状を概観しています。

 「再びアルコールPAWS(急性離脱後症候群)について(中)」(2016.2.19)
  この記事では、“心理的ストレス感受性の変化”と思われるエピソードを紹介しています。

 「再びアルコールPAWS(急性離脱後症候群)について(下)」(2016.2.26)
  この記事では、“十日戎”での一風変わった奇妙なエピソードを紹介しています。

 「アルコールPAWSの一つ “思考プロセス障害” の軛(くびき)」(2016.5.20)
  

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アルコールPAWSの一つ “思考プロセス障害” の軛(くびき)

2016-05-20 19:03:53 | PAWS
 “うまく” やろうと構えてしまうと、“うまく” いかず不首尾に終わってしまうものです。取り越し苦労と同じ、結果の先読みから嵌るワナです。気負えば気負うだけ緊張して脳が固まってしまいます。こんな経験、ありませんか? 私にはアルコールの急性離脱後症候群(PAWS≒ドライドランク)がまだ残っていて、その一つ “思考プロセス障害” のせいで二重に難義しています。

 体験談を話しているうちに、いつの間にか体験者の解説をやっているみたい・・・と気付くことが最近よくあります。あたかも講釈を垂れるという表現がピッタリで、話している本人がそれに気付き、こんなハズではなかったと内心慌ててしまいます。動揺した分、脳が固まってしまい、一層まとまりに欠けた話になってしまいます。

 少し前の話ですが、院内例会で断酒中に経験したPAWSの体験談を語ったときのことです。話し終わった後、聞いていた人から一言「難しい講義だった」と言われてしまいました。切実なテーマなので、きっと皆の関心を惹くハズで、きっと “うまく” いくハズと思い込んで話し始めたのですが、結果は散々でした。穴があったら入りたい思いで一杯でした。

 テーマとしたPAWSはドライドランクとも言われ、素面にもかかわらず飲酒時代と変わらない感じ方や考え方に囚われた病的精神状態のことです。断酒を始めて3ヵ月後ぐらいから現れ、精神的にひどく脆い病的状態で、誰にでも必発します。

 自我の肥大(余計なお節介など)・自信過剰・自己憐憫などの情動の不安定、想起障害を伴う記憶障害、さらに心理的ストレスに過剰に反応しやすい(怒りや落ち込み)など、種々の症状が知られています。記憶障害以外は自覚しにくい症状なので、自分を病的とは自覚しないまま再飲酒してしまう危険性が最も高いと言われています。

 これらの症状は再飲酒の危険を孕んでいますから、私は今でも用心を欠かしたことはありません。患者仲間にも知識として共有してもらい、是非とも用心してもらいたい一心で話題にしたのです。注意を喚起したい一念で説明に熱中し過ぎたせいでしょうか、理屈っぽい解説口調となったのかもしれません。

 当たり前のことですが、体験談は理屈で解説するものではありません。私にはうまく説明がつくと納得してしまう癖があるので、何かと理屈を捏ねるのが好きなのですが、そのせいもあったのでしょう。しかも、PAWSにはそれを助長するところもあるのです。

 語る場合と同様に、文章を書いているときにも思惑違いがよくあります。何か書こうとする際は、動機となった事例やエピソード(モチーフ)がまずあって、そこから主題(テーマ)を決めて書き始めるのが普通でしょう。モチーフを補う周辺のエピソードまで、最初から完璧にそろえて書き始めることはまずないと思います。多くの場合、それらは書きながら敷衍して行くのが普通です。

 そんな作業中に、ほんのチョット周辺情報に触れておくつもりが、気が付いたら本道から大きく逸れてしまっていることがよくあります。7回前の投稿記事に「“生き残る”  ― この言葉に想うこと(隠居の雑感)」があります。起き掛けに浮かんで来た言葉がモチーフでした。 “生き残る” という言葉には覚悟を強要するところがあり、生き抜く覚悟をテーマにするつもりでした。最初の投稿時、山場の一つのつもりで書いた文章を再掲します。

 「よくよく考えてみると、よくぞここまで生き残れたものだと思うばかりです。・・・(病気で生死の境にあった事例)・・・事故や災害でも肝を冷やしたことがありました。・・・(生死を分けた事故や災害の事例)・・・ですから、『生き残った』というよりも、むしろ『生き残らせてもらっている』と表現した方が、今の私の正直な胸の内なのです。せっかくの命です。与えられた寿命が尽きるまで、粗末にするつもりはありません。
 “生き残る” などむやみに使う言葉ではないと自戒していたつもりでしたが、二男の結婚披露宴でつい使ってしまい・・・」

 これを投稿してから10日ほど過ぎた頃、何とはなしにこんなフレーズが浮かんできました。「自分の器がどれだけのものか、薄々気付いていながら仕事で無理を重ねていた・・・。」

 投稿したときから内容的に物足りなさがあって、何か引っ掛かるのが気になっていました。記事を読み返してみると、全体として表面的な出来事だけを並べているだけで、肝腎要となる自分の正直な胸の内にまったく切り込んでいなかったのです。そのことに気づきました。

 そもそもモチーフから連想されたエピソードというのは、会社幹部の年頭の挨拶と息子の披露宴で述べた私の挨拶という二つだけでした。それを補うため、後から生死を分けた出来事についても周辺情報として追加することにしたのです。さすがに人生と命については、素面となった現時点での覚悟をちゃんと書いています。ところが、生き残りを賭けて必死で生きて来たサラリーマン時代の生存競争についてどう決着をつけたのか、つまり自分の半生への総括がスッポリ抜け落ちていました。

 会社勤めは “まさか” の世界でした。まさか死にもの狂いの競争になろうなどとは思いもせず、十分な覚悟もないままに始めたので、是非とも総括しておくべき課題だったのです。これでは “画龍点睛を欠く” の如しで、まるで “枯れ木も山の賑わい” でお茶を濁しているとしか読めません。周辺情報を並べている内にその文章量に満足(?)してしまい、それで肝腎要の部分を書き忘れていたのか、あるいは無意識に避けようとしていたのか、それとも他に何か(?)・・・としか思えません。

 以前、ブログ原稿にはA4で2ページ半のノルマを課していると書いたことがあります。アルコールで傷んだ脳のリハビリのため、自分の考えを出来るだけ掘下げようという意図で課したものです。そのノルマからつい内容を盛り沢山にしようとするせいか、書いている内に自動的に筆(文)が進んでしまい、意に反して冗長になってしまうことがよくあります。

 特に、周辺情報に触れているときに冗長になりがちです。周辺情報の大方は事実の羅列か引用で、ただ並べるだけなのであまり考えなくとも出来るからです。これでは自分の考えを掘下げることにはならないので軌道修正が必要になります。こんなときの軌道修正は大変です。改めて自分の気持ちや考えを素直に表現しようとすると、途端に脳が抵抗してストライキを起すのです。先に投稿したときも、舞台裏の楽屋事情はこんな状態だったのだろうと思います。

 以上が今回 “思考プロセス障害” についてまとめてみようとしたキッカケです。以下、本題に入ります。
         *   *   *   *   *
 実は、自分の言葉で考えや気持ちを書こうとすると、必ずと言っていいほど立ち塞がることがあります。私はそれがPAWSの “思考プロセス障害” ではないかと考えています。“思考プロセス障害” こそが、PAWSの症状の中で “いの一番” に挙げられているものなのです。その特徴は、脳の働きにムラがあり、頑なで諄(くど)い思考や因果関係を理解できないこととされています。

 これを私の経験から言えば主に次の3点になるでしょうか。まず、まとまった文章を書こうとすると、なかなか考えがまとまらないこと。次に、脳が混乱して疲れやすく、よくストライキを起こすこと。三番目に、使うべき助詞は一体何が適切か、所謂 “てにをは” の類の使い方が混乱すること。私はこれらが “思考プロセス障害” の具体的構成要素と考えています。

 まず一番目に挙げた、なかなか考えがまとまらないことについてです。これをもう少し具体的に言うと、あれやこれやと文案や構想が入り乱れて自信をもって確定できないことに尽きます。全体構想の詰めはテーマに沿って集中して考えなければできません。そんな集中すべきときに、文案や構想が入り乱れてうまく練れなくなることがよくあるのです。それでつい論理が遠回りしてしまいます。

 このブログの原稿作成の際も、全体構想が詰め切れないまま見切り発車するのが定番になっています。とても練りに練った構想などとは程遠い状態です。生煮えのフワフワした構想で書き始めるものですから、発想があちこちに流れがちで、段落から段落への展開にも苦労しています。

 次に二番目に挙げた、脳がよくストライキを起こすことについてです。集中力にムラがあって長くは続かないこと、これに加えて考えがまとまらなくなったら脳が疲れて更に混乱し始めます。感覚的には脳が鬱血する感じでしょうか。この感覚が出だしたらすぐに思考停止となりますが、このことを私は脳のストライキと呼んでいます。“思考プロセス障害” の症状とするには一風変わっているかもしれません。

 脳のストライキは、パソコンが固まって動かなくなった状態をイメージしてもらうとピッタリです。こうなったら最後、作業を中断し席を立って一服するか、それでもダメなら一眠りするしかありません。睡眠をとった後は不思議なくらい捗ります。

 最後に三番目に挙げた、助詞の使い方の混乱についてです。因果関係の混乱に象徴されると思いますが、事柄同士の論理的関係が分からなくなることもしばしばあります。そのせいで、使うべき助詞は一体何が適切か、所謂 “てにをは” の類の使い方にさえ迷って混乱することがしょっちゅうです。そうそう、これに関係するかもしれませんが、時制についても現在形か過去形かでしばしば混乱します。

 アルコールの遺した置き土産 “思考プロセス障害” は斯くの如く厄介なシロモノです。上に挙げた構成要素が交互に作用して、たった一文を書く場合にも邪魔をします。このブログで何遍か触れたように、想起障害と共通した根っこから来ているものと考えています。
         *   *   *   *   *
 今回は、現在進行形で経験最中にある症状 “思考プロセス障害” について、改めて自分の言葉で書いてみました。今までは “脳の働きにムラ” が何を指すのかピンと来なかったのですが、自分の体験を掘下げてみて、ほぼ自分の言葉で形にすることができました。上に述べたことでお察しのように、私にとって最も苦手とすることです。自分の気持ちをありのまま正直に書くことがこんなにも難しいことなのかと改めて思い知らされました。

 今回も「好評を博したいから “うまく” 書こう」という気負いも勿論ありました。今の私にとって、それはあたかも鏡なしでやる身繕いのようなものです。ピシッと身なりを決めたいといろいろな文案が飛び交いますが、どれが最適なのかを鏡で確認せずに決定している状態なのです。確信をもって決められないので諄くもなります。それだけに脳が二重に緊張を強いられ、ストライキも頻繁に起こしました。実に難義なことです。

 ただ一つほのかに希望が見えてきています。PAWSの他の症状と同じように、“思考プロセス障害” も今でははっきり自覚できていることです。PAWSの他の症状は、峠を越えてから初めて自覚できたことが共通していました。今回まともに向き合えたことから、どうやら “思考プロセス障害” についても峠を越えられたのかもしれません。
 “一息ついて 一歩引いて  ありのままを ありのままに・・・”


 今回のモチーフとなった “うまくやる” は、ほぼ1ヵ月前のAAのミーティングで取り挙げられたテーマです。その場では少し奇異な感じがしたのですが、それだけにおもしろいテーマとも思いました。悩みの種のPAWSと絡めることで、やっと自分なりの体験談にまとめることが出来ました。拙い文章力の言い訳になってしまったようですが・・・。


“生き残る”  ― この言葉に想うこと(隠居の雑感)」もご参照ください。


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再びアルコール急性離脱後症候群(PAWS)について(下)

2016-02-26 18:16:55 | PAWS
【急性離脱後症候群】
 症状は、断酒開始後3~6ヵ月目で最も強くなり、6ヵ月~2年で回復する。
  ○ 思考プロセス障害(脳の働きにムラがある;頑なで諄(くど)い
    思考、因果関係を理解できない)
  ○ 情動障害(情動の揺れ)
  ○ 記憶障害(短期記憶の障害)
  ○ 睡眠障害
  ○ 身体的協働性に問題
  ○ ストレス感受性に変化

                   (アルコール依存症専門クリニック教育資料より)

 今回は5番目の “身体的協働性に問題” についてです。気持ち(意識)通りに身体が動いてくれないことと理解しています。気持ちばかりが先走って、身体の動きが気持ちに付いて来てくれないと思うことが多いこの頃です。

 会社勤務時代の現役の頃、酒を飲まずに済ました日はないほど毎日飲んでいました。それでも、55~56歳頃までは、歩いていて若いOLに追い越されることなどありませんでした。むしろどんどん追い越していたものです。ところが、58歳頃からハッキリ歩く速さが落ちて、若いOLにもやすやす追い越されるようになってしまいました。

 これも会社勤務時代の同じ頃のことです。階段を上るときに足裏の後半分、つまり踵全部が段からはみ出た状態で階段を上っていました。階段を見ながら上るわけですから、つま先を踏み込んで踵まで段に乗せることは自然に出来るはずなのですが、つま先と段の奥行との間合いが取れなくなっていたのだと思います。歳を重ねるにつれ、“踵はみ出し” の度合いがひどくなって行きました。それでも周りを見ていると、同じ様な “踵はみ出し” 人が同年配以上に多いと確認できていたので、別段変だとは思わずに過ごしてきたものです。中には足のバネを維持するため、意識的に “踵はみ出し” をやっていたと証言する人もいるのですが・・・。

 断酒を始めてからビタミンB1の点滴を受け、歩く速さが回復していると思えています。階段を上る際の “踵はみ出し” は気にならなくなりました。つま先から踵まで足裏全体を段の奥まで踏み込んでいると実感できているのです。それで、現役時代にあった脚の動作のチグハグさがアルコール依存症の進行と深く関係していたのでは(?)、と疑うようになったのです。

 PAWSのせいでは(?)と思われるこんなエピソードがあります。断酒を始めて1年7ヵ月経ったある日のことです。国道2号線を歩いていたら、少し先の横断歩道の信号が青になりました。信号が青の内に横断歩道を渡り切ろうと思い、少し手前から最短距離を斜めに走って渡ろうとしました。舗道と車道とは高さ20 cmほどの低いブロックで仕切られています。その低いブロックの仕切りを走って飛び越えたつもりでしたが・・・、足を引っ掛けて車道の真ん中に転がってしまったのです。

 ブロックの高さを見誤ることなど以前なら考えられないことです。同年輩の男性が駆け寄って来て、助け起こしてくれました。この助けがなかったら、しばらく立ち上がれなかったと思います。右手は擦り傷いっぱいでした。近くのスーパーで傷バンを買い求め、応急処置をしたものです。気持ち通りに体が反応するとは限らない、実感しました。

 実は、走り始める少し前から、疲れで向う脛に少し強張りを感じ始めてはいました。引っ掛けたのが先に振り上げた右足なのか、踏み切った左足なのかは分かりませんが、多分後の左足だったのでしょう。ブロックの高さを見誤ったせいなのか、それとも老化による跳力の衰えなのかは分かりません。これ以降はすっかり自信をなくし、無理をしないよう自戒しています。

 これに関連し、こんなことも始終あります。衝立には足が備わり、掲示用の盤面と足が直角に交差して直立しています。衝立との間合いを測り損ねたためなのか、つい自分のつま先を衝立の足にぶつけてしまうことがあるのです。一々足元を見なくても、ぶつけることなど以前にはなかったことです。これと同じようにモノとの間合いが取れていないことから、一瞬ヒヤッとすることがよくあります。やはり視覚との関係でも何か問題があるのかもしれません。

 実の話、今でも他の通行人に追い越されることが依然として多い状態です。速足で歩こうとしても、気持ちだけが先走って、脚の遅さに内心つんのめりそうな感じです。脚が思うように動いてくれないのです。これらはやはり老化のせいなのか、それともアルコールが遺した置き土産のPAWSのせいなのか、医師に相談しても両者ともあり得ることとハッキリしません。

 結局これらPAWSの障害の多くは深いところで根が共通し、一つに繋がっていると思えてなりません。しかし、それがどういう仕組みでなのかは分かりません。想起障害を含む記憶障害を筆頭に、思考プロセス障害や、些細なストレスにも過剰に反応すること、チグハグな身体の動作、これらは老化現象でもありうることです。相当長く続くものと覚悟は出来ています。

 さて、次のエピソードはPAWS の “身体的協働性に問題” という本題とは筋違いなのかもしれません。が、視覚と意識のズレの問題に関係しているかもしれないので以下にご紹介します。事件の直後に残したメモの原文のままです。

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 近頃、目に写っているはずなのに、見えていないことが多くなった。路上のゴミ拾いでも、ついさっき見ていたはずの足元にタバコの吸い殻を見つけてビックリすることがある。視野には入っていたハズなのに、単なる見落とし? 意識に上って来なかったために、その存在に気付けなかったのだと思う。神経回路がどこかイカレているのかもしれない。

 十日戎の日、朝早く家を出てエビスさんへ歩いて向かった。正月の注連飾りを納め、参拝後には評判の映画を観ようと決めていた。

 いつものように道すがら、路上のポイ捨てタバコの吸い殻を拾いながら神社に向かった。神社に近づくにつれ、縁起物の福笹を手にしている人の姿が多くなった。中には10~15本ほどの福笹を胸に抱えている人もいた。すれ違うこれらの人々を見て、歩きながらぼんやりと違和感を持った。それが福笹を家に忘れてきたこと・・・とは気付けなかった。

 神社の大門を入ってすぐのところに納札所がある。納札所に注連飾りを納めるとき、福笹や縁起物の熊手などが山のように積み上がって納められているのを見た。拝殿門では、左隅に安置してある大マグロに大勢の人々が群がっている様子が見えた。例年通り、相変わらずの光景と眺めた。本殿の前で手を合わせた後、拝殿を出た。拝殿出口の門外で福笹を売っていた。その様子を見て、「確か元旦に買い求めたのでは・・・」とあらぬことを想いながら買わずに通り過ぎた。神社を出て、映画を観に三ノ宮に電車で向かった。電車内でも福笹を持っている人を見かけた。何とも思わなかった。

 福笹の異変に気付いたのは映画を観終え、帰り道でのことと思う。“映画を観に行く”、たった一つのことに気もそぞろで、目には映っていながら何も見えていなかった。

 家を出る前に、去年の福笹が箪笥の上に飾ってあるのを目にしていたのは確かだ。行き交う人々が福笹を手にしているのも見ている。福笹売り場の前も通った。それなのに十日戎が福笹を求める日であることにちっとも気付けなかった。一つのことに気を取られたら、同時に複数のことには気が回らないクセの再発か? そういえば昔、子供みたいに一つのことしかできないヒトだ、と部下にからかわれて腹を立てたことがあったと思い出した。

 目には映っているはずなのに、意識に上ってこない ―― あるいは見落としている。単なる見落とし? それにしてはオカシイ。

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 もちろん、翌日エビスさんに再び詣で福笹を買いました。この件で相談に乗ってくれた医師はこう言いました。
「よくあることと思いますよ。視野が欠けているわけではないし・・・、視覚情報を処理するRAMの容量不足で処理能力を超えた、このように考えればいいのでは・・・」私はこの領域に詳しくないのですが、視覚情報にタグをつけて整理する海馬のメモリー容量が不足しているため(?)の現象と理解しました。

 評判の映画に気もそぞろがストレスとなって、そんなストレスへの過剰な反応に過ぎなかったのかもしれません。あるいは、その映画が期待ほどではなかったので、意識下あった福笹の情報がやっと記憶装置に取り込まれ、意識に上った・・・こんなことだったのでしょうか。

 最後になりますが、私が使用していた薬剤についても触れておきます。アルコールと同じようにPAWSがあると報告されている精神安定薬ジアゼパムは、2mgを断酒開始から12週間に限り服用していました。以来2年以上経った現在も使用していません。ご参考までに。


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再びアルコール急性離脱後症候群(PAWS)について(中)

2016-02-19 08:27:21 | PAWS
【急性離脱後症候群】
 症状は、断酒開始後3~6ヵ月目で最も強くなり、6ヵ月~2年で回復する。
  ○ 思考プロセス障害(脳の働きにムラがある;頑なで諄(くど)い
    思考、因果関係を理解できない)
  ○ 情動障害(情動の揺れ)
  ○ 記憶障害(短期記憶の障害)
  ○ 睡眠障害
  ○ 身体的協働性に問題
  ○ ストレス感受性に変化

                   (アルコール依存症専門クリニック教育資料より)


 今回は、6番目の“ストレス感受性の変化”についての具体的な事例 ―― “情動の揺れ” を伴った実例とも言うべき典型的なエピソードをご紹介します。

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 酒を断って飲まない生き方を始めて1年6ヵ月経った頃の話です。“憑きモノが落ちた” 体験を経てからも、すでに8ヵ月経っていました。アルコールの軛から解放されたと有頂天な気持ちはまだ続いていました。その経験をひけらかしたくて仕方なかったのだと思います。ある日、自助会AAミーティングで司会のT氏から久々に発言の機会が与えられました。これを機会にと、アル症の初診断時から “憑きモノが落ちた” 体験までを夢中になって一気に語りました。

 会社勤務の現役時代、会社で毎日の深夜残業後に居酒屋通いが始まり、飲み方の異常(な習慣)が本格的に定着してしまったこと。その結果として医者から振戦を診咎められ、アルコール依存症と初めて診断されたこと。定年まで何とか勤務を続けられたものの、退職を機に連続飲酒状態に陥り、“底着き” を経て専門クリニックに毎日通院が始まったこと。断酒後、ひどい記憶障害を自覚したことから酒害を忘れないように叙述し始め、併せて回復期の症状をも記録に残そうとしたこと。それが自分史執筆のキッカケとなったこと。ドライドランク状態から性的妄想に悩まされ、嵌ってしまったAV動画の内容を文章で描写し始めたこと。その結果として “憑きモノが落ちた” ように妄想から解放され、頭にヴェールを被ったようなモヤモヤした感覚が消えたこと。この出来事以降は、平常心が得られプラス思考になれたこと。こんな盛り沢山の内容だったと思います。

 私としては端折りに端折って話したつもりでしたが、閉会時刻を大幅(?)に超過してしまいました。盛り沢山の内容をしかも端折られて話されては、聞いている方も堪ったものではなかったと思います。語りまくりで気分が昂揚していたので、時間超過がどれだけだったのか覚えていません。体験談を語ることは、アルコールの残渣でモヤモヤしたままの脳を活性化させるのに必ず効くと確信していました。胸に秘めた欲求不満の悩みや不安の単なる捌け口としての効用だけではないのです。ですから、自分の体験を是非皆に聞いてほしい、少しでも皆に共有してもらいたい、という一心だったのです。

 2~3日後の別のAAミーティング会場でのことです。会が始まる少し前、T氏がすっと私の坐っていた隣に腰かけ、こう話しかけて来ました。
「なぁヒゲジイさん、話が長すぎるよ。時間超過には注意してくれ。会の運営者として時間の割振りが狂って困る。」
「失礼しました。途中で打ち切ってよかったのに・・・。これからは途中で打ち切ってもらって結構ですよ」
と苦笑いしながら答えたのですが、話の途中で打ち切るという提案にT氏は何も答えないまま、自分の席に戻って行きました。これにはこちらも気分を害しました。

 AAミーティングはガイドブックの朗読から始まります。いやな気分を引き摺ったままでは発言する気分にもなれなかったので、発言機会を放棄する意志表示を兼ねて、ガイドブックの朗読を志願しました。ガイドブックの朗読者には発言を求めない、という暗黙の了解がAAにはあります。

 私は、AAミーティングでの時間の按分は司会者の務めで、発言者は時間に配慮しなくてもよいものと勝手に考えていました。“自分に正直に” 自己の体験談を話すということとは、発言者が臆せず、取り繕わず、躊躇もせずに思い切って胸中を曝け出すことであり、時間も気にせず無我夢中になり切らなければ意味がないと単純に思い込んでいました。そうすることが眠っている記憶を呼び覚まし、ひいては脳(前頭葉)の活性化に繋がるのだと固く信じていたのです。

 断酒歴が10年以上と長いベテランのT氏ですから、当然回復のプログラムにある “棚卸し” を済ませており、体験談を発表する意義も効用も理解しているものと思っていました。つまり、私とまったく同じ考えを共有している人物だと勝手に思い込んでいたのです。ですから、T氏の発言が無理解にみえ、妙に腹が立ったのです。

 休診日を挟んで4日経っても、件のシコリが残ったままで、AAミーティング出席を止めようとさえ考えていました。そこで専門クリニックの相談員(ソーシャルワーカー)に鬱憤を聞いてもらうことにしました。
「そう・・・、後から注意を受けたんですか。自助会の運営については意見の対立がよくあるそうですよ。それで所属グループを転々とする人もいると聞いています。で・・・、どう考えてみるつもり?」
その言葉でT氏が自分の思い通りにAAミーティングの運営がしたい、そういう考えの持ち主であったことを思い出しました。AAミーティングの運営方針で仲間と衝突したことがある、と以前何度か体験談で語っていたのを聞いたことがあったのです。
「へぇー、同じようなイザコザ結構あるんですね!? せっかくのよい機会ですから、文章に書いて気持ちを整理してみます。」
「そう、いつものように得意の “言語化” ですね? 成果を期待してますよ!」

 私は、AAミーティングについてT氏が心にシコリのようなものを持っているのだと初めて気付かされました。ミーティング会場を借りている手前、司会者として時間厳守は尤もですし、発言者に自律を求めるのも尤もなことです。多くの参加者に発言の機会を持たせたいという考えなのかもしれませんし、発言者に中断を強いるべきではないという主義なのかもしれません。他にも何か固執(こだわ)りがあるのかもしれませんが、分からなくてもいいのです。

 あの場では、もう一歩引いてみて、T氏の立場にも思いを馳せるべきだったのだと思い至りました。私も、自分の考えばかりが正しいと一方的に固執(こだわ)っていたのです。気持ちの整理がついた私は、多少シコリが残ったままでしたが、今まで通りミーティングへ参加し続けようと心に決めました。

 “憑きモノ”  が落ちて、得体の知れない妄想がすでに晴れていましたので、自分自身が救われたいという強い動機がなくなっていました。何が何でもシャカリキになって話さなければならないという道理は最早なかったのです。考え方も受け止め方も共に偏っていたことだけが浮き彫りになって来ます。今振り返ってみると、些細なストレスに随分過敏になっていたものだと思わずにいられません。

 その後しばらくは、AAのミーティングでT氏と目を合わさないようにしていました。その頃、ミーティングの最後にT氏はよく言ったものです。「発言の機会がなくて、不満の人もいるかもしれません。そんなことで酒に手を出すことがないようにお願いしたい。・・・」この言葉には苦笑いするしかありませんでした。

 ストレスを少しでも軽く受け流すためには、どうしても角度を変えてモノを観る、複眼的な見方が必要です。
 “一歩引いて 一息ついて 一歩引いて” 
 “冷静に、角度を変えてモノを観る”
 “ありのままを ありのままに受け容れる”
複眼的な見方の経験を積むためにも、まだまだこの “呪文” を唱える必要があるようです。


PAWSについての概論はこちらをご参照ください。
“情動の揺れ” を伴ったストレスへの過剰反応については、こちらのエピソードもご参照ください。今回ご紹介したものより強いストレスを受けた事例です。
思い込み” の逸らし方 “ありのままに受け容れる


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