全体としては,論述が十分しきれていない答案が多く見られた。
第5回から,実務一辺倒から旧司法試験への先祖帰り的な出題の変化が見られるため,論点を論じるという要素が強くなっているのだがそれに応え切れていないということである。あと,そもそも論点抽出が出来ていないという意味であろう。
㋒の財源規制違反の瑕疵については,全く検討していない答案が多く,これに触れている答案でも,分配可能額を誤っている答案や適用される条項を正しく理解していない答案(同法第461条第1項第3号ではなく,同項第2号を根拠とするもの,同号には該当しないので財源規制違反とならないとするもの等)がかなり見られた。
財源規制違反に気がつかないのはかなり重症である。条文や論点を知らない上に,問題文の読み方がなっていないというダブルパンチである。問題文本体や資料から誰が見たって誘導は明らかであろう。
Bは甲社に対して受け取った25億円を支払う義務を負うが(会社法第462条第1項),この点を理解していない答案が多く見られた。また,この支払義務を負うべき金額を誤っており,又は具体的に示していない答案がかなり見られた。
「金額」を具体的に示さないのも相当マズイ。講義でもオープンスクールでも,数年前から散々指摘しているのだが,まだまだ「時代遅れの受験生」が多いということであろう。司法試験は「情報戦」である。
論理的整合性をもって論じた答案は,多くは見られなかった。
2009年版フレーム講義で指摘し始めたことだが,民事系(特に商法)は設問間の論理的整合性に意を払わないと,論理矛盾を起こす危険性が高い出題が多いのである。これも「情報戦」における「敗者」である。
同法第199条第3項に基づく説明義務と株主から説明を求められた場合に取締役等が負う一般的な説明義務(同法第314条)との区別を理解しない答案や,前者の違反があったと解答し後者に全く触れない答案も相当見られた。
条文の知識不足が原因だろう。会社法は条文操作能力が物を言う科目である。短答対策をキチンとやったかやっていないかで,論文でも大きく差が出てしまうのだが。
第2号議案の採決に際して乙社が議決権を行使したことが同法第831条第1項第3号の株主総会決議取消事由に該当するかどうかについては,多くの答案が触れていたものの,中には,特に理由を論ずることをしないまま,著しく不当な決議がされたとの結論だけを述べる答案も見られた。
ここでいう「理由」というのは特に事実の評価等を経ないで結論だけ書いている,という意味であろう。時間不足でそうなった可能性もあるが,素でやっていたら困った話である。
そもそも,自己株式の処分の無効は自己株式処分無効の訴えによってしか主張することができない(同項柱書)ということに触れていない答案がかなり見られた。また,説明義務違反や特別利害関係人による議決権行使が株主総会決議取消事由となることと自己株式処分無効の訴えとの関係を論じた答案は少なかった。さらに,株主総会の特別決議を欠く新株の有利発行は有効であると判示した著名な最高裁昭和46年7月16日第二小法廷判決(判例時報641号97頁)の考え方との関係について論じた答案は更に少なかった。
訴え提起の必要性→無効原因って何?パターンは定番である。昭和46年判決に触れないのは驚きである。商法は,短答で判例問題が殆ど出ないこともあり,判例学習が手薄になっている可能性がある。そもそも百選掲載判例くらいは,「勉強する・しない」,「百選読む・読まない」の問題ではなく,「常識」である。
そもそも本件自己株式取得が財源規制違反であったことを見落とした答案が多く,会社法第462条(第1項柱書又は第1項第2号)の責任をきちんと論じた答案は多くはなかった。また,同法第465条第1項第3号の欠損塡補責任についても,これを論じた答案は少なく,これに触れた答案であっても,責任を負うべき金額まで正確に示した答案は更に少なかった。
計算とはいうもの,462条,465条は,会社法の中でも「メジャーリーガー」の部類の条文である。「知らなかった」で済むレベルではない。そもそも問題文を読んでいて,何も論点化しない点につき不思議に思わないのだろうか。仮に事前に知らなくても,条文を調べるくらいの機転は利かせないと駄目である。
同法第423条の任務懈怠責任の検討に当たっては,設問①②における論述との整合性を意識しながら,任務懈怠の内容の分析と,損害額及び因果関係について論理的な記述をすることが求められ,このような記述をした答案には高い評価を与えたが,そのような答案はそれほど多くなかった。他方,本件自己株式取得及び本件自己株式処分には上述したような種々の法令違反があったにもかかわらず,法令違反の点を度外視して,高く取得して安く処分したことに伴う差損を捉えて,そこに経営判断の原則を当てはめる答案が散見された。
これも論理的整合性が地雷になる部分。特に今年は,各小問が密接に連動しているので注意が必要。「損害額」と「因果関係」はいつもしつこく指摘している423条・429条を検討する際の最重要ポイントである。
因みに経営判断原則云々,という指摘は,法令違反の場合には経営判断原則の適用はない,という趣旨である(経営判断原則は,取締役に経営に関する「裁量」があることを前提とするが(裁量逸脱濫用審査をしているので),法令違反の場合にはそもそも裁量なんてないからである(法令に違反する「裁量」などない)。これは論文突破基礎力完成講義の論文突破レジュメでも指摘済みなのでご安心あれ。
貸借対照表を見て分配可能額を算出するという基本的な点や,取締役の会社に対する責任を含めて,事例における事実関係を読んでそれに即して論ずるという基本的な点に不十分な面が見られる。そして,基本的な判例を踏まえて,それに基づいて論理的な思考をし,また,その考え方を応用する能力にも不十分な点が見られる。
実務的な要素と論理性の程よいミックスの必要性と言うことである。
第5回から,実務一辺倒から旧司法試験への先祖帰り的な出題の変化が見られるため,論点を論じるという要素が強くなっているのだがそれに応え切れていないということである。あと,そもそも論点抽出が出来ていないという意味であろう。
㋒の財源規制違反の瑕疵については,全く検討していない答案が多く,これに触れている答案でも,分配可能額を誤っている答案や適用される条項を正しく理解していない答案(同法第461条第1項第3号ではなく,同項第2号を根拠とするもの,同号には該当しないので財源規制違反とならないとするもの等)がかなり見られた。
財源規制違反に気がつかないのはかなり重症である。条文や論点を知らない上に,問題文の読み方がなっていないというダブルパンチである。問題文本体や資料から誰が見たって誘導は明らかであろう。
Bは甲社に対して受け取った25億円を支払う義務を負うが(会社法第462条第1項),この点を理解していない答案が多く見られた。また,この支払義務を負うべき金額を誤っており,又は具体的に示していない答案がかなり見られた。
「金額」を具体的に示さないのも相当マズイ。講義でもオープンスクールでも,数年前から散々指摘しているのだが,まだまだ「時代遅れの受験生」が多いということであろう。司法試験は「情報戦」である。
論理的整合性をもって論じた答案は,多くは見られなかった。
2009年版フレーム講義で指摘し始めたことだが,民事系(特に商法)は設問間の論理的整合性に意を払わないと,論理矛盾を起こす危険性が高い出題が多いのである。これも「情報戦」における「敗者」である。
同法第199条第3項に基づく説明義務と株主から説明を求められた場合に取締役等が負う一般的な説明義務(同法第314条)との区別を理解しない答案や,前者の違反があったと解答し後者に全く触れない答案も相当見られた。
条文の知識不足が原因だろう。会社法は条文操作能力が物を言う科目である。短答対策をキチンとやったかやっていないかで,論文でも大きく差が出てしまうのだが。
第2号議案の採決に際して乙社が議決権を行使したことが同法第831条第1項第3号の株主総会決議取消事由に該当するかどうかについては,多くの答案が触れていたものの,中には,特に理由を論ずることをしないまま,著しく不当な決議がされたとの結論だけを述べる答案も見られた。
ここでいう「理由」というのは特に事実の評価等を経ないで結論だけ書いている,という意味であろう。時間不足でそうなった可能性もあるが,素でやっていたら困った話である。
そもそも,自己株式の処分の無効は自己株式処分無効の訴えによってしか主張することができない(同項柱書)ということに触れていない答案がかなり見られた。また,説明義務違反や特別利害関係人による議決権行使が株主総会決議取消事由となることと自己株式処分無効の訴えとの関係を論じた答案は少なかった。さらに,株主総会の特別決議を欠く新株の有利発行は有効であると判示した著名な最高裁昭和46年7月16日第二小法廷判決(判例時報641号97頁)の考え方との関係について論じた答案は更に少なかった。
訴え提起の必要性→無効原因って何?パターンは定番である。昭和46年判決に触れないのは驚きである。商法は,短答で判例問題が殆ど出ないこともあり,判例学習が手薄になっている可能性がある。そもそも百選掲載判例くらいは,「勉強する・しない」,「百選読む・読まない」の問題ではなく,「常識」である。
そもそも本件自己株式取得が財源規制違反であったことを見落とした答案が多く,会社法第462条(第1項柱書又は第1項第2号)の責任をきちんと論じた答案は多くはなかった。また,同法第465条第1項第3号の欠損塡補責任についても,これを論じた答案は少なく,これに触れた答案であっても,責任を負うべき金額まで正確に示した答案は更に少なかった。
計算とはいうもの,462条,465条は,会社法の中でも「メジャーリーガー」の部類の条文である。「知らなかった」で済むレベルではない。そもそも問題文を読んでいて,何も論点化しない点につき不思議に思わないのだろうか。仮に事前に知らなくても,条文を調べるくらいの機転は利かせないと駄目である。
同法第423条の任務懈怠責任の検討に当たっては,設問①②における論述との整合性を意識しながら,任務懈怠の内容の分析と,損害額及び因果関係について論理的な記述をすることが求められ,このような記述をした答案には高い評価を与えたが,そのような答案はそれほど多くなかった。他方,本件自己株式取得及び本件自己株式処分には上述したような種々の法令違反があったにもかかわらず,法令違反の点を度外視して,高く取得して安く処分したことに伴う差損を捉えて,そこに経営判断の原則を当てはめる答案が散見された。
これも論理的整合性が地雷になる部分。特に今年は,各小問が密接に連動しているので注意が必要。「損害額」と「因果関係」はいつもしつこく指摘している423条・429条を検討する際の最重要ポイントである。
因みに経営判断原則云々,という指摘は,法令違反の場合には経営判断原則の適用はない,という趣旨である(経営判断原則は,取締役に経営に関する「裁量」があることを前提とするが(裁量逸脱濫用審査をしているので),法令違反の場合にはそもそも裁量なんてないからである(法令に違反する「裁量」などない)。これは論文突破基礎力完成講義の論文突破レジュメでも指摘済みなのでご安心あれ。
貸借対照表を見て分配可能額を算出するという基本的な点や,取締役の会社に対する責任を含めて,事例における事実関係を読んでそれに即して論ずるという基本的な点に不十分な面が見られる。そして,基本的な判例を踏まえて,それに基づいて論理的な思考をし,また,その考え方を応用する能力にも不十分な点が見られる。
実務的な要素と論理性の程よいミックスの必要性と言うことである。