民法判例まとめ35

2016-07-03 12:34:48 | 司法試験関連

295条2項の類推適用(295条2項と196条2項の関係)

①  Aは、本件建物の賃貸借契約が解除された後は右建物を占有すべき権原のないことを知りながら不法にこれを占有していた。

②  Aが右のような状況のもとに本件建物につき支出した有益費の償還請求権については、295条2項の類推適用により、Yらは本件建物につき、右請求権に基づく留置権を主張することができないと解すべきである

最判昭和46年7月16日 百選80事件

・判例の見解に対しては、196条との体系的な整合性が失われるとの批判がある。

196条

「必要費」については、善意悪意を問わず償還請求を認める。

「有益費」については、悪意占有者に限って回復者の請求により、裁判所は期限を許与しうる、としているので、悪意占有者といえども、一応留置権の保護が受けられる。

295条2項類推適用

「必要費」であれ、「有益費」であれ、悪意・有過失の占有者は留置権の保護を受けられない。

・権原喪失型の場合、占有無権原となったことを知っている場合とそれを、疑いつつなしている場合、賃貸借の債務不履行解除による場合、期間満了によって賃借権が消滅した場合、抵当不動産の買主が自己の責によらずに占有権原を喪失した場合など様々な状況がありうる。

・過失占有についても、占有無権原の不知について過失ありという場合と、将来において占有権原を遡及的に失う可能性の予測に過失ありの場合(農地買収・売渡処分が買収計画取消判決の確定により遡及的に失効した場合)などその程度も様々である。

・特に、賃貸借の終了については「正当事由」の判断の微妙さも相まって権原喪失の有無の判断が困難な場合もありうるので、過失と無過失の差は紙一重になりうる。

・権原喪失型の判例ケースの主要な事例は、賃借人の債務不履行に起因する賃貸借契約解除の事例である。

   → 契約解除の場合、以後は返還債務が賃借人に発生しており、債務不履行として違法な占有があると評価できる。このような場合に、費用支出を理由として返還を拒むということ自体が、権利濫用的色彩が強い。295条2項類推適用により留置権を否定すべきといえよう。

・同様に、賃貸借の終了そのものが明白な場合には、返還債務の期限が到来している限り、同時履行の抗弁権が損しないときには、やはり債務不履行として違法な占有がAあるから295条2項類推により留置権は否定すべきであろう。

  → 但し、必要費の支出については、それが目的物の有益費のような価値増加ではなくて、価値維持を図るという点で本人の意思に反することは少ないであろうから、事務管理として違法性を阻却することが多いであろう)

自己の占有権原を第三者に対抗し得ない結果として無権原となったような場合(賃貸人の滞納処分による公売の結果、賃借権を失った者が当該家屋に修理工事など)には返還債務の不履行として違法な占有があるとはいいえないので、この場合は196条2項で処理すべきではなかろうか。

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