留置権の対抗力 |
① 残代金345万円については、その支払に代えて提供土地建物を上告人に譲渡する旨の代物弁済の予約がなされたものと解するのが相当であり、したがつて、その予約が完結されて提供土地建物の所有権がYに移転し、その対抗要件が具備されるまで、原則として、残代金債権は消滅しないで残存するものと解すべきところ、本件においては、提供土地建物の所有権はいまだYに譲渡されていない(その特定すらされていないことがうかがわれる。)のであるから、YはBに対して残代金債権を有するものといわなければならない。 ↓ ② そして、この残代金債権は本件土地建物の明渡請求権と同一の売買契約によつて生じた債権であるから、295条の規定により、YはBに対し、残代金の弁済を受けるまで、本件土地建物につき留置権を行使してその明渡を拒絶することができたものといわなければならない。 ↓ ③ ところで、留置権が成立したのち債務者からその目的物を譲り受けた者に対しても、債権者がその留置権を主張しうることは、留置権が物権であることに照らして明らかであるから、本件においても、Yは、Bから本件土地建物を譲り受けたXに対して、右留置権を行使することをうるのである。もつとも、Xは、本件土地建物の所有権を取得したにとどまり、前記残代金債務の支払義務を負つたわけではないが、このことはYの右留置権行使の障害となるものではない。 ↓ ④ また、右残代金345万円の債権は、本件土地建物全部について生じた債権であるから、296条の規定により、Yは右残代金345万円の支払を受けるまで本件土地建物全部につき留置権を行使することができ、したがつて、Xの本訴請求は本件建物の明渡を請求するにとどまるものではあるが、YはXに対し、残代金345万円の支払があるまで、本件建物につき留置権を行使することができるのである。ところで、物の引渡を求める訴訟において、留置権の抗弁が理由のあるときは、引渡請求を棄却することなく、その物に関して生じた債権の弁済と引換えに物の引渡を命ずべきであるが、前述のように、XはYに対して残代金債務の弁済義務を負っているわけではないから、Bから残代金の支払を受けるのと引換えに本件建物の明渡を命ずべきものといわなければならない。 |
最判昭和47年11月16日 百選79事件
・本判決では、被担保債権と目的物との間に牽連性があること(295条1項本文)要件の具備が問題となった。
・本判決のロジック(Y→B→Xと売買された事例と同様の結果となっている)
→ Bの代物弁済が現実になされるまでは、Y→Bの売買代金債権は消滅しない(代物弁済の要物性)。したがって、YはBに所有権の移転した本件土地建物に関して生じたい債権を有する(牽連性あり)。
→ 留置権には不可分性がある(296条)。売買代金の一部でYはBに対して本件土地建物を留置できる。
→ 留置権は物権である。だから、一旦成立したYの留置権は第三者Xに対しても対抗できる。
→ 但し、Xの本件土地建物の引渡請求に対しては、請求棄却判決ではなく、Bの残代金支払との引換給付判決を下すのが妥当。(結果、Bの売買代金債務を第三者Xは弁済する義務を負わないが、Xが第三者弁済をした場合には、明渡しの執行ができる)