細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

象牙の塔

2012-01-23 20:03:46 | 研究のこと

ここで書くことは、誰が良いとか誰が悪いとかを抜きにして、私が思ったそのままのことです。

よく、学問の世界で、学者たちは自分たちの世界を作って、現実の世界と離れた世界で、役に立たないことをやっている、というイメージが語られることがあろうかと思います。象牙の塔とか、白い巨塔とか。

歴史学の分野について、そのような学の歪な世界に対する論評を見ることが多々あります。歴史学者の考え方、説が、いかに事実とかけ離れているか。「歴史学者」にもいろんな方がおられるのでしょうが、私が最近読み始めた、岡田英弘先生の本は根底から覚醒させられます。学校教育で学んできたことと全く違う。岡田先生は歴史学者たちのサークルからはひどい扱い?をされたそうです。26歳で日本学士院賞を受けられた、素晴らしい研究者ですが。

私は、まだまだ井の中の蛙かとは思いますが、工学の中の土木工学の中の、コンクリート工学という分野で日々、研究、教育を行っています。私が育った環境は、岡村甫先生の研究室と、JR東日本の実務の舞台ですが、双方から非常な良質のエキスをいただいて、この分野の「学」はまともに機能していると感じていました。土木のコンクリート、というといかにも守旧派のイメージですが、そこでいかに先端的なチャレンジが重ねられてきたか、を私は学んできています。実務における設計法の進展具合は、土木の中ではコンクリート分野が最先端でしょう。今頃、限界状態設計法を導入しようとしている分野もあるようですが、コンクリートでは1986年に先人たちの多大な努力により実務に導入されています。

それで、コンクリート工学の分野で、いろんな方と議論していると、また様々な問題点が見えてきます。上記の、歴史学の分野での象牙の塔、という話をすると、あるゼネコンのベテラン技術者は「コンクリートの学界も同じだと思いますよ」とのこと。また、よくいろんな技術者から言われるのですが、「細田さんは、大学の研究者っぽくない。」と言われます。実社会を相手に思考・行動していますので、そう言われるのは当然かもしれませんが、私はどうも一般的な学の世界の人間ではない、かもしれない。

本日、コンクリート工学の分野の先端の委員会で議論してましたが、いろんな方の視野が狭い、と感じます。それぞれがスペシャリストで、素晴らしい研究者なのは分かっていても、トータルのアウトプットが実社会を適切な方向に導かないのであれば、私から見ると失敗です。トータルがよい方向に行くように、と何度も発言をしていますが、個々の研究者のベクトルの軌道修正は、予想外に難しい。しかも、「学」の方々の示している方向性が、実社会でやっている方々のニーズや問題意識と乖離してきているように思う。どっちが良いのか、悪いのか、知りませんが、乖離している事実は双方が認識した方がよい。

乖離している、ということは、冒頭の「象牙の塔」になってはいないか。

私は、実社会が優れているとか、学が優れいている、とか縄張り争いをするつもりはありません。

ただ、コンクリート工学は、engineering ですので、学問だけ進歩しても仕方なく、実構造物や実社会が良い方向に向ってこそのconcrete engineeringである、というスタンスは固持した方がよいと私は思っています。

私よりも優れた研究能力を持っておられる方はたくさんおられますが、広い状況を見渡す視野の広さは私の特長であると認識しています。岡村先生の研究室と、JR東日本の構造技術センターの双方に、若いときに属した、ということが、学と実務が乖離せずに、適切に連携していくことに貢献せよ、という私のミッションにつながってきているのかな、と感じます。

皆さん、それぞれは正しいことをやっている、と思っており、誰が悪いわけでもないと思う。日本全体がそうかもしれない。どうやって、この細分化した、縦割りの社会を、良い方向に持っていくか、問題の根底は同じですな。


横浜市での講演(2/22)に、横浜国大の学生参加可能

2012-01-23 14:50:04 | 教育のこと

以下は、横浜市で参加募集受付が本日開始された、2/22(水)の横浜市での講演です。
横浜国大の学生も参加できます(最大で30名程度)ので、参加希望者は細田までメールで連絡するか、この記事のコメントに書くなど、お願いします。2/6(月)までに連絡をください。